業務上横領罪の構成要件とは?成立するケース・しないケースを解説!

業務上横領の構成要件とは?
弁護士 若林翔
2025年03月11日更新

業務上横領罪とは、仕事として他人の物を預かっている人が、その物を無断で自分の物として扱う犯罪です。例えば、会社の経理担当者が会社のお金を着服したり、会社から支給されたスマートフォンを無断で質入れしたりする行為が該当します。

業務上横領罪が成立するためには、4つの構成要件を全て満たす必要があります。

業務上横領罪の構成要件

一見すると業務上横領罪のように見える行為でも、実際には構成要件を満たしていなかったり、別の犯罪に該当するケースもあるので注意が必要です。

この記事では、具体的な事例をベースにしつつ、業務上横領罪の構成要件について分かりやすく解説します。構成要件を満たしてしまった場合の対処法も取り上げたので、是非ご一読ください。

業務上横領罪の構成要件

業務上横領罪が成立するためには、4つの構成要件(犯罪が成立するために必要な条件)を全て満たすことが必要です。それぞれの要件を、1つずつ見ていきましょう。

業務上横領罪の構成要件

①業務性があること

業務上横領罪における「業務」とは、「社会生活上の地位に基づいて、反復継続して行われる事務」のうち「他人の財産を預かったり、管理したりする性質を持つ仕事」のことを指します。

典型例は、質屋、運送会社、クリーニング業者、倉庫業者などですが、職種の限定はありません。
企業のお金を管理する経理担当者、銀行員、顧客の財産管理をしている士業、公金を扱っている自治体職員など、幅広い仕事に業務性が認められます。

② 委託信任関係に基づく占有があること

「委託信任関係に基づく占有」とは、平たく言えば「相手から信頼されて物を預かり、管理している状態」のことです。

例えば、会社の経理担当者は、会社との雇用契約に基づいて会社の財産(お金など)を管理する立場にあります。また、倉庫業者は、荷主との運送契約に基づいて商品を保管しています。
このように、「委託信任関係に基づく占有」が認められて、はじめて業務上横領罪が成立するのです。

なお、委託信任関係は、必ずしも「契約」にもとづく必要はありません。

法律上の契約関係がなかったとしても、慣習や社会通念、事務管理による占有でも委託信任関係が認められる可能性があります。

③ 他人の所有物であること

業務上横領罪が成立するためには、横領の対象物が「他人の所有物」でなければなりません。つまり、他の人や法人の所有物を占有していなければ、業務上横領罪は成立しないのです。

当然のことですが、自分の物を勝手に使ったり処分したりしても、業務上横領罪には該当しません。

占有者所有者
経理担当者が管理している会社のお金経理担当者会社(法人)
運送会社が配達している荷物運送会社依頼主(お客)
クリーニング店が預かっている衣類クリーニング店依頼主(お客)

④ 横領したこと

「横領」とは、「所有者でなければできない処分」のことを指します。

他人から預かっている物について、所有者の承諾がなければできないような行為をした場合に、横領行為があったと認められます。

【具体的な横領行為の例】

・会社のお金を自分の口座に無断で移して使う

・預かっていた商品を無断で売却する

・保管していた物を質入れしてお金を借りる

・預かった物を、所有者に無断で第三者に譲渡する

多くの方は「横領」と聞くと、自分の金銭的な利益のために他人の物を不正に使用したり、着服したりする行為を想像するでしょう。

しかし、横領行為が認められるために、特定の目的は必要ありません。自分が利益を得る目的でなくても、預かっている物を所有者に無断で売却・譲渡などすれば、それだけで横領となる可能性があるのです。

業務上横領罪の構成要件を満たすケース・満たさないケース

前章で説明した4つの構成要件をもとに、実際に業務上横領罪が成立するケースと成立しないケースを見ていきましょう。具体的な事例を通じて確認することで、業務上横領罪のイメージがより明確になるはずです。

業務上横領の構成要件を満たすケース・満たさないケース

(◯)経理担当者が会社のお金を着服する

会社の経理担当者が会社のお金を着服するケースは、業務上横領罪の典型例です。

前述した4つの構成要件をもとに確認してみましょう。

まず、経理担当者という立場には、会社のお金を管理するという「業務性」があります。

会社との雇用関係に基づいて財産管理を行っているので「委託信任関係に基づく占有」も認められるでしょう。扱っているのは会社のお金なので「他人の所有物」という要件も満たします。そして「着服」という行為は、明らかに「横領行為(所有者でなければできない処分)」に該当します。

全ての構成要件を満たすため、業務上横領罪が成立する可能性があります。

(◯)会社名義のスマホを質入れする

会社から支給されたスマートフォンを質屋に預けて現金を借りる行為も、業務上横領罪に該当します。

実際に、業務のため貸与されていた時価10万円相当のスマートフォンを質入れしたとして、業務上横領で逮捕された事案があります。

鹿児島西署は25日、業務上横領の疑いで、鹿児島市宇宿3丁目、配送業の男(28)を逮捕した。逮捕容疑は、同市の別の建設会社に勤めていた2023年12月下旬、業務のため貸与されていた同社所有のスマートフォン1台(時価10万円相当)を同市の質店に数万円で入質した疑い。(引用:南日本新聞社

このケースでは、会社との雇用契約に基づき、支給されたスマートフォン(会社の財物)を管理しているため「委託信任関係に基づく占有」が認められます。

スマートフォンは会社の所有物なので「他人の所有物」という要件も満たします。

さらに、スマートフォンを質入れするという行為は、所有者でなければできない処分と言えるでしょう。

そのため、業務上横領罪が成立します。

(✕)バイトのレジ係がお店のお金を着服する

スーパーやコンビニのレジ係が現金を抜き取るケースでは、業務上横領罪は成立しません。

レジ係は、あくまでも商品代金やお釣りのやり取りをしているだけであって、お店のお金を管理する立場ではないからです。レジ係には「財物の占有」が認められないため、業務上横領罪ではなく「窃盗罪」が問題となります。

もっとも、レジ係に「お金の管理を任されていた」といった事情が認めれれば、結論は変わってきます。例えば、レジ係がお店のオーナーや店長だったというケースでは、業務上横領罪が成立する可能性があるでしょう。

(✕)一時的な流用行為

会社のお金を無断で借りて、すぐに返済する「一時流用」では、業務上横領罪は成立しないと考えられています。例えば、次のようなケースです。

「たまたま財布に現金が入っていなかったが、預金口座には十分な残高が入っていた。
そのため、後で返すつもりで、一時的に会社から預かっていたお金で代金を支払った。」

ただし、業務上横領罪の成立が否定されるのは、あくまでも「返済の意思」や「能力」が確実に認められる場合に限られています。

返済するつもりがあっても、実際には返済資力がなかったり、そもそも返済するつもりが無かったと判断されれば、業務上横領罪が成立します。

また、たとえ一時的な使用のつもりでも、結果として返済できなくなれば、業務上横領罪が成立する可能性もあるので注意してください。

業務上横領罪の未遂は処罰される?

業務上横領罪には、「未遂罪」を罰する規定がないため、未遂(犯罪が完成する前の段階)が処罰されることはありません。

ただし、横領行為が既遂となる時期には注意が必要です。

既遂となるためには、実際にお金を着服したり、使用したりしている必要はなく、「不法領得の意思(所有者にしかできない処分をする意思)」を外部に表明した時点で、犯罪が完成したと判断されるからです。

例えば、預かっている商品を無断で売却しようとした場合、実際に売却して代金を受け取る前でも、買い手に売却の意思を伝えた時点で「横領行為」は完了したとされます。

また、会社の資金を着服しようとした場合も、実際に自分の口座に送金する前の段階…例えばその準備を始めた段階でも、業務上横領罪は成立する可能性があります。

つまり業務上横領罪には「未遂」のタイミングがほとんどなく、「未遂」という概念自体が存在しないのです。したがって「まだお金を受け取っていないから大丈夫」と考えることはできません。

業務上横領罪が「未遂」として処罰されることはありませんが、非常に早いタイミングで犯罪が成立することを理解しておきましょう。

業務上横領罪の構成要件を満たしたときは示談が必要

業務上横領罪が疑われた場合、どのように対応すればよいのでしょうか?

具体的な対処法について説明します。

まずは弁護士に相談してみる

業務上横領罪では、一見すると横領に見える事案でも、実際には複雑な法的判断が必要となるケースがあります。そのため、1人で悩み続けるのではなく、弁護士に相談してアドバイスを受けることが大切です。

例えば、会社のお金が足りなくなって横領を疑われたり、会社に損害が発生して横領だと言われるケースがありますが、実際には業務上横領罪が成立しないことは珍しくありません。

一方で、自分では横領ではないと思っていても、実は業務上横領罪が成立する場合もあるのです。専門的な知識が必要なので、一人で判断することには大きなリスクが伴います。

弁護士事務所によっては、初回の相談を無料で実施している場合もあるので、ぜひ連絡してみてください。早い段階で専門家に相談することで、精神的な不安を取り除けることはもちろん、万が一警察から連絡がきた場合も、速やかに対処することができます。

示談すれば、逮捕を防げる可能性が高い

業務上横領が事実である場合でも、早期に示談できれば逮捕を回避できる可能性が高くなります。

被害届や刑事告訴が出される前であれば、示談書に「警察及び検察庁に対して、本件に関する被害届を提出しない」といった文言を記載することで、警察が事件として認知することを、ほぼ確実に防ぐことができます。

既に被害届や告訴状が出されている場合でも、示談が成立すれば、被害届の取り下げが期待できるでしょう。仮に取り下げができない場合でも、当事者間で被害の回復が図られたとして、逮捕の必要性が低いと判断される可能性が高まります。

逮捕前、逮捕後、いずれのタイミングでも示談交渉は最優先に行うべきです。

ただし、会社側は加害者に対して強い不信感を持っています。

そのため、示談交渉を自分だけで進めることは難しいでしょう。無理に自分で交渉するではなく、弁護士に依頼することが賢明な選択です。

自首することで逮捕を阻止・刑が減刑される場合もある

警察や検察に事件が発覚する前であれば、自首という選択肢もあります。

自首をすることで、刑は最大半分程度まで軽くなるほか、逃亡や証拠隠滅のおそれがないと判断されて、逮捕を回避できる可能性もあります。

ただし、当然ですが、自首することにはリスクも伴います。
自首によって、本来警察に認知されなかったはずの行為が捜査対象となったり、そのまま逮捕されたりする可能性もゼロではないからです。

自首をするかどうかの判断は、必ず弁護士に相談してから行いましょう。
できれば、自首する当日も警察まで同行し、最後までサポートしてくれる弁護士を探すことをおすすめします。

業務上横領の逮捕を防ぐなら、グラディアトル法律事務所へご相談ください

業務上横領を疑われた場合、できるだけ早く弁護士へ相談することをおすすめします。

「お金が足りなくなって一時的に借りただけなのに…」

「会社の備品を担保に入れただけで、返済するつもりだった…」

「経理の処理を間違えただけかもしれない…」

このような状況であっても、正しい対策をとらずにいると、逮捕・起訴のリスクは確実に高まっていきます。横領を認めて謝罪するにしても、事実関係を争うにしても、すぐに専門家へ相談して必要な対応を考えることが必要です。

弊所は、業務上横領事件を多く手がけてきた弁護士が在籍する「戦う」法律家の専門集団です。あなたの状況を丁寧にお伺いしたうえで、最善の解決方法をご提案できます。

◉グラディアトル法律事務所ができること

・業務上横領罪の成否の判断とアドバイス

・スムーズな示談交渉による早期の解決

・被害者(会社)との関係を修復するためのサポート

・警察や検察への対応

・自首するべきかの判断や当日の同行 など

ご相談をいただくタイミングが早ければ早いほど、より多くの選択肢から最適な対応策を選ぶことができます。業務上横領の疑いでお困りの方は、ぜひ弊所までご相談ください。
経験豊富な弁護士が、あなたの利益を守るため、最後まで戦わせていただきます。

まとめ

この記事で説明した業務上横領罪の重要なポイントをまとめます。

◉業務上横領罪の構成要件

・業務性があること(仕事として他人の財産を預かる立場にあること)

・委託信任関係に基づく占有があること(契約関係には限られない)

・他人の所有物であること(自分の物ではないこと)

・横領したこと(預かった物を無断で自分の物のように扱うこと)

◉業務上横領罪が成立する・しないケース

・(〇)経理担当者が会社のお金を着服すると成立

・(〇)会社から支給された財物を質入れすると成立

・(✕)バイトのレジ係には、占有がないので成立しない

・(✕)一時的な流用で確実に返済できる場合も成立しない

◉業務上横領罪の注意点

・業務上横領罪は、横領する意思が表明されただけで成立しうる

・「まだお金を受け取っていないから大丈夫」と考えることはできない

・示談が成立すれば、逮捕を回避できる可能性が高まる

・自首することも効果的だが、必ず弁護士に相談してから判断すること

以上です。

この記事が、業務上横領罪についての理解を深める一助となれば幸いです。

具体的な対応については、ぜひグラディアトル法律事務所までご相談ください。経験豊富な弁護士が、あなたの状況に応じた最適な解決策をご提案いたします。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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