背任罪と横領罪は、どちらも「信頼関係を裏切る行為」という点で共通していますが、成立するケースや法定刑などに違いがあります。
「会社のお金を着服したら、背任罪?横領罪?」
「横領と背任って結局何が違うの?」
「背任罪と横領罪、逮捕されるリスクや刑罰はどう違う?」
このように背任罪と横領罪の違いについて、疑問を抱えている方は多いのではないでしょうか?
この記事では、背任罪と横領罪の違いを詳しく解説します。背任罪と横領罪が成立するケースの違いや、逮捕率・起訴率・刑の重さなどを比較しながら、わかりやすく説明していきます。
◉この記事で分かること
・背任罪と横領罪の5つの違い ・成立する具体的なケース ・逮捕率、起訴率、刑の重さの比較 など |
背任罪と横領罪の違いが知りたい方は、是非ご一読ください。
目次
背任罪と横領罪の5つの違い
背任罪と横領罪は、いずれも信任関係に反する不正をおこなう点で共通しています。
ただし、犯罪が成立する人や財産上の損害、目的、行為、法定刑などが異なります。
【背任罪と横領罪の5つの違い】
背任罪 | 横領の罪 | |
①犯罪が成立する人(主体) | 他人のための事務処理者 | 他人の物の占有者 |
②財産上の損害 | 被害者の財産状況の悪化(全体財産の罪) | 個々の財産の損失(個別財産の罪) |
③目的 | 図利加害目的のみ | 不要 |
④行為 | 任務違背行為(任された任務に背いた行為) | 横領行為(所有者でしかできない処分をすること) |
⑤法定刑 | 5年以下の懲役又は50万円以下の罰金 | 5年以下の懲役のみ |
※具体的なケース | ・銀行員が、担保を取らずに、回収困難な融資を実行する ・ライバル会社に、企業秘密を漏洩する など | ・経理の担当者が、会社のお金を着服する ・友人から借りた物を、勝手に売る など |
犯罪が成立する人の違い
背任罪 | 横領罪 | |
---|---|---|
犯罪が成立する人(主体) | 他人のための事務処理者 | 他人の物の占有者 |
背任罪は「他人のためにその事務を処理する者」に限って成立する犯罪です。
会社員や銀行員、公務員など、他人から事務を任されている人のみが対象となります。他人(例:会社という法人)のために事務(業務)を処理する関係がなければ、背任罪は成立しません。
一方、横領罪は「他人の物の占有者」であれば誰でも対象となります。
例えば、友人やお店から物を借りている人、会社のお金を管理している人などが挙げられます。
財産上の損害の違い
背任罪 | 横領罪 | |
---|---|---|
財産上の損害 | 被害者の財産状況の悪化 (全体財産の罪) | 個々の財産の損失 (個別財産の罪) |
背任罪は、「全体財産に対する罪」だといわれています。
「特定の物」に対する損失ではなく、被害者の財産状況「全体」をみてマイナスが発生すると成立するからです。
一方、横領罪は「個別財産に対する罪」です。
簡単にいえば、被害者から「預かった物」をくすねるようなケースが典型例です。被害者の財産状況が、全体としてマイナスになったかは関係なく、「預かったもの」を横領すれば成立します。
目的の違い
背任罪 | 横領罪 | |
---|---|---|
目的 | 図利加害目的のみ | 不要 |
背任罪が成立するには「図利または加害の目的」が必要です。
・自己若しくは第三者の利益を図るため(図利) ・または本人に損害を加えるため(加害) |
これらのいずれかの目的がある場合にのみ成立します。どちらかの目的がなければ、被害者に損害を発生させても、背任罪とはなりません。
一方、横領罪では特定の目的は必要ありません。
他人から預かった物をくすねる等の行為をすると、目的にかかわらず成立します。
行為の違い
背任罪 | 横領罪 | |
---|---|---|
行為 | 任務違背行為 (任された任務に背いた行為) | 横領行為 (所有者でしかできない処分をすること) |
背任行為とは「任された任務に背いて損害を与える行為」のことです。無担保で貸付を行う、企業秘密を漏洩するなど幅広い行為が含まれます。
一方、横領行為とは「所有者にしかできない処分」をすることです。他人から預かった物を自分の物にしたり、勝手に処分(転売など)するなどの行為が横領行為の典型例です。
背任行為と横領行為を比較すると、背任行為の方が、より広い行為を対象としていると言えるでしょう。中には、横領行為によって「横領罪」と「背任罪」の両方が成立する場合もありますが、この場合、法定刑の重い「横領罪」のみが成立します。
法定刑の違い
背任罪 | 横領罪 | |
---|---|---|
法定刑 | 5年以下の懲役又は50万円以下の罰金 | 5年以下の懲役のみ |
背任罪の法定刑は「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。
一方、横領罪は「5年以下の懲役」となっており、罰金刑は定められていません。
罰金となる可能性があるという意味では、「背任罪」の方が法定刑は軽いといえるでしょう。なお、両方の罪に該当する場合は、より重い横領罪のみが適用されます。
背任罪と横領罪が成立するケースは何が違う?
実際のところ、「背任罪」と「横領罪」は競合するケースが多いです。
例えば、他人から預かっている物を勝手に売却する行為は「横領行為」とも言えますが、「委託された任務に背いた行為」とも言えるからです。
そこで判例は、背任罪と横領罪を、「誰の名前で行われたのか(名義)・経済的な効果は誰に帰属するのか(計算)」で区別しています。
・「本人の名義・計算」で行われた場合 → 背任罪が問題となる ・「自己の名義・計算」で行われた場合 → 横領罪が問題となる |
背任罪が成立するケース
背任罪が成立するのは、「本人の名義・計算」で行われた場合です。
具体的には、次のようなケースが該当します。
・経費用の法人クレカを、プライベートで利用する ・担保を取らずに、回収見込みのない融資を実行する ・利益を得るために、会社の営業秘密を漏洩する ・会社を潰すために、意図的に誤った経営判断を行う など |
例えば、経費用のクレカをプライベートで利用するケースでは、支払いをしたクレジットカードは、「会社(本人)の名義」となっています。クレジットカードの請求も会社にいくので、「経済的効果(債務の発生)も会社(本人)に帰属している(本人の計算)」といえるでしょう。
そのため、横領罪ではなく「背任罪」が成立します。
◉法人クレカの私的利用によって背任罪が成立、逮捕されたケース
自動車大手「ホンダ」が法人契約していたクレジットカードを私的に使い、同社に計約2300万円の損害を与えたとして、警視庁は7日、同社元社員で現在は別会社の役員の⚫︎⚫︎容疑者(⚫︎)を背任容疑で逮捕し、発表した。認否は明らかにしていない。 (引用:ホンダ元社員を背任容疑で逮捕 法人クレカの私的利用で2300万円|朝日新聞) |
横領罪が成立するケース
一方で、横領罪が成立するのは「自己の名義・計算」で行われた場合です。
具体的には、次のようなケースが該当します。
・レンタル店で借りた商品を中古品として転売する ・友人から借りた物を無断で売る ・会社の経理担当者が会社のお金を着服する ・ローン会社に所有権がある車を、完済前に売却する |
例えば、レンタル店で借りた商品を中古品として転売するケースでは、売却行為は自己(加害者)の名前で行われています。
売却利益は加害者が得るので、経済的な効果も自己(加害者)に帰属するといえます。そのため、背任罪ではなく横領罪が成立します。
◉レンタル店から借りた楽器を無断で質入れ、横領罪で逮捕されたケース
楽器のレンタルを行っている店から借り受けた楽器4点を、無断で質入れしたとして12日、無職の男が倉吉警察署に逮捕されました。横領の疑いで逮捕されたのは、福岡県福岡市博多区に住む無職の男(27)です。 調べによりますと、男は今年6月12日から7月19日までの間、インターネットで被害者の店から楽器4点(クラリネット、ソプラノサックス、オーボエ、ホルン)を借り受け、預かり保管中に、店の承諾なく福岡市内の質店に合計41万円で質入れし、横領した疑いが持たれています。 (引用:クラリネット、ソプラノサックス、オーボエ、ホルンを借りたまま質入れ、41万円横領…無職の男(27)を逮捕|BSS山陰放送) |
※関連コラム「業務上横領で逮捕までの流れは?7つのステップに分けて具体的に解説」
背任罪・横領罪のデータ比較|逮捕率・起訴率・刑の重さなど
背任罪と横領罪の「逮捕率」「起訴率」「罰金・懲役の重さ」を比較してみましょう。
なお、あくまでも統計上のデータです。実際には、個別の事件の内容や被害金額、前科、示談や被害弁償によって異なるため、参考値として考えてください。
また、横領罪のデータは単純横領罪だけでなく、業務上横領や遺失物横領も含む数字となっています。
逮捕率の違い
背任罪、横領罪ともに逮捕される者の割合は約16%程度です。
参考までに、刑法犯全体で逮捕される者の割合は38.5%なので、かなり低い水準といえるでしょう。
横領や背任の場合、被害弁償や示談の有無によって処分(逮捕・起訴など)が決まる部分が大きいです。逮捕を防ぐには速やかに被害者と示談をすることが必要です。
【逮捕される者の割合の比較】
背任罪 | 横領の罪 | 刑法犯全体 | |
総数 | 151 | 7,792 | 199,507 |
検察庁逮捕 | 0 | 7 | 85 |
警察から身柄送致 | 25 | 1,195 | 71,522 |
警察で身柄釈放 | 0 | 34 | 5,280 |
逮捕されない者 | 126 | 6,556 | 122,620 |
逮捕率 | 16.5% | 15.8% | 38.5% |
(引用:2023年 検察統計調査(罪名別 既済となった事件の被疑者の逮捕及び逮捕後の措置別人員)|法務省)
起訴率の違い
背任罪の起訴率は34%程度、横領の罪の起訴率は22%が目安です。
刑法犯全体の起訴率は37%程度なので、どちらも決して高いわけではありません。背任罪、横領の罪、いずれのケースでも不起訴となる可能性は十分にあるでしょう。
【起訴率の比較】
背任罪 | 横領の罪 | 刑法犯全体 | |
起訴総数 | 51 | 1,389 | 64,695 |
(公判請求) | 47 | 1,030 | 45,532 |
(略式命令請求) | 4 | 359 | 19,163 |
不起訴総数 | 99 | 4,820 | 110,639 |
起訴率 | 34% | 22.3% | 36.8% |
(引用:2023年 検察統計調査(罪名別 被疑事件の既済及び未済の人員)|法務省)
罰金・懲役の重さの違い
背任罪の法定刑は「5年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。
しかし、起訴されて刑事裁判になると、ほぼ全てのケースが懲役刑が言い渡されています。
一方、横領の罪の量刑は様々ですが、これは業務上横領や遺失物横領が含まれているからだと考えられます。単純横領の場合、法定刑は「5年以下の懲役のみ」なので、執行猶予がつかない限り実刑判決となるでしょう。
背任罪、横領罪いずれのケースでも、実刑を防ぐには被害者との示談が重要です。
スムーズに示談を成立させたり、きちんと被害弁償を行えば、実刑を回避できる可能性は格段に高くなります。
【刑の重さの比較(懲役・罰金など)】
背任罪 | 横領の罪 | |
総数 | 19 | 494 |
有期懲役 | 19 | 455 |
(10年以下) | 0 | 2 |
(7年以下) | 0 | 3 |
(5年以下) | 1 | 27 |
(3年) | 2 | 39 |
(2年以上) | 12 | 115 |
(1年以上) | 3 | 175 |
(6月以上) | 1 | 85 |
(6月以下) | 0 | 9 |
(執行猶予総数) | 12 | 299 |
罰金 | 0 | 39 |
無罪 | 0 | 1 |
(引用:令和5年 司法統計年報(刑事編) (第33表 通常第一審事件の終局総人員・第34表 通常第一審事件の有罪(懲役・禁錮)人員)|裁判所)
背任罪・横領罪はグラディアトル法律事務所へご相談ください。
背任罪や横領罪を疑われたら、ぜひ私たちグラディアトル法律事務所へご相談ください。
おそらく、背任・横領をしてしまった方にも様々なご事情があることでしょう。
しかし、どういったケースであれ、何の対処もせずに放置しておくと、逮捕・起訴される可能性が高くなります。
背任・横領を認めるにしても、事実関係を争うにしても、すぐに弁護士に相談して、逮捕・起訴を阻止するための行動を起こすことが必要なのです。
弊所は、刑事事件を数多く取り扱っており、圧倒的なノウハウと実績を有している法律事務所です。これまでにも数多くの方から、背任・横領事件のご相談をいただき、難しい示談交渉を成立させて、事件を解決してきました。
◉背任罪や横領罪で、グラディアトル法律事務所ができること
・それぞれ得意分野をもった13名の弁護士が在籍 ・背任、横領の事実関係を調査して、加害者にとって有利な証拠を収集 ・経験豊富な弁護士が、粘り強く被害者と交渉して、刑事事件化を阻止 ・最短で即日、夜間・土日祝日もご相談可能 ・豊富な刑事裁判の実績を活かして、不起訴・執行猶予を獲得 など |
ご相談をいただくタイミングが早いほど、逮捕、起訴を防げる可能性は高くなります。背任罪や横領罪を疑われた方は、1人で悩むのではなく、ぜひ弊所までご相談ください。
まとめ
最後に、記事のポイントをまとめます。
◉背任罪と横領罪の5つの違い
① 犯罪が成立する人の立場 ② 財産上の損害 ③ 目的 ④ 行為の内容 ⑤ 法定刑 |
◉背任罪と横領罪は競合するケースも多く、「名義」や「経済的効果の帰属」で区別される
◉背任罪、横領罪の具体例
(背任罪が成立するケース) ・法人クレジットカードの私的利用 ・会社秘密の漏洩など (横領罪が成立するケース) ・借りた商品を無断で転売する ・経理担当者が、会社のお金を着服する |
◉データ上の違い
・逮捕率:どちらも約16% ・起訴率:背任罪が約34%、横領罪が約22% ・刑の重さ:背任罪は罰金の可能性があるが、懲役刑が一般的。単純横領罪は懲役刑のみ |
◉いずれの犯罪も、逮捕・起訴を防ぐには、被害弁償や示談の成立が重要
以上です。
この記事が役に立った、参考になったと感じましたら、是非グラディアトル法律事務所にご相談ください。