「うつ病にさせてしまった。犯罪になる?」
「直接的な暴力じゃなくても傷害罪になる?」「逮捕されてしまった場合どうしたら?」
相手に暴力を行い、怪我を負わせた場合は傷害罪が成立しますが、うつ病のような、精神的な暴力行為についても、同様に傷害罪が成立します。
傷害罪が成立すれば、15年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されますので、犯行態様や悪質性によっては、懲役刑になる可能性もあるということです。
また、「うつ病にさせても現時点で捕まってないなら大丈夫」という情報が散見していますが、それは誤解です。被害者が被害届・告訴状を提出しており、証拠が揃っているような状況なら、むしろ逮捕の可能性の方が高いです。
うつ病にさせてしまった場合は、どのような行動を起こすべきなのか。
当記事を簡潔にまとめますと、
- ・うつ病にさせた場合、傷害罪は成立し得る
- ・うつ病にさせて傷害罪が成立した実際の判例がある
- ・うつ病にさせた場合の逮捕の流れは、3段階で構成される
- ・うつ病にさせた場合、慰謝料請求される可能性が高い
- ・逮捕回避には被害者との示談が重要
といったことが分かります。
詳しくは、以下で深掘りしていきます。
目次
うつ病にさせると傷害罪になり得る|成立要件・罰則について
相手をうつ病にさせてしまった場合は、傷害罪が成立する可能性があります。罰則は、「15年以下の懲役または50万円以下の罰金(刑法204条)」と定められており、傷害結果の度合いによっては、懲役刑の可能性も高まります。
傷害罪の成立要件は、以下の3つになります。
【成立要件1】傷害の「実行」行為がある
傷害の「実行」行為があった場合は、傷害罪の可能性が高くなります。
「実行」行為には、殴る・蹴るなどの直接的な暴力行為と、精神的な嫌がらせなどによる間接的な暴力行為の2種類に分類されますが、具体的には、
- ・殴る、蹴る
- ・胸倉を掴む、押し倒す
- ・木刀などの鈍器を振り回す
- ・相手に物を投げつける
- ・執拗に電話をかける
- ・爆音を鳴らす
- ・高圧的な言動
このような行為は、傷害の「実行」行為に当てはまります。
【成立要件2】傷害の結果(うつ病)がある
傷害罪の成立要件としては、前述で解説した「実行」行為だけでは弱く、傷害の結果、いわゆる怪我をしたかどうかが非常に重要になります。
例えば、
AがBに対し、執拗に嫌がらせの電話をした。
これだけならば、暴行罪の可能性が高いですが、
AがBに対し、執拗に嫌がらせの電話をして、結果、Bはうつ病になった。
Aの行った暴力行為でBはうつ病(=傷害の結果)に陥っていますので、傷害罪が成立する可能性が高いということです。
もっと簡潔にまとめますと、
- ・暴力行為の結果、怪我までは至ってない→暴行罪が成立
- ・暴力行為の結果、怪我を負った→傷害罪が成立
となります。
【成立要件3】暴力行為と傷害結果に因果関係がある
暴力行為と傷害の結果に因果関係が認められれば、傷害罪が成立します。
先ほどの例でいうと、
AがBに対し、執拗に嫌がらせの電話をして、結果、Bはうつ病になった。
Aの嫌がらせの電話が引き金となってBは不眠症になっていますので、因果関係は認められます。
では、次の例を見てみましょう。
AはBに対し、執拗に嫌がらせの電話をした。その数日後、Bは手首を骨折した。
Bが手首を骨折した理由に、嫌がらせの電話を原因と紐づけるには無理がありますので、このケースは因果関係が認められない(=傷害罪は成立しない)ということです。
ただし、執拗な嫌がらせの電話が原因でうつ病になり、注意力散漫で階段から落ちて手首を骨折した、というようなケースだった場合は因果関係が認められる可能性がありますので、実際のところはケースバイケースと言えるでしょう。
うつ病にさせて傷害罪が成立するケース
前述の通り、傷害罪は殴る・蹴るといった直接的な暴力行為だけではなく、精神的な嫌がらせにより、うつ病にさせた場合も成立する可能性があります。
具体例として、
- ・嫌がらせの電話を繰り返し、うつ病にさせた
- ・ストーカー行為を繰り返し、うつ病にさせた
- ・部下のミスに対し執拗に責め立て、うつ病にさせた
- ・パワハラやモラハラ行為を行い、うつ病にさせた
このような行為が挙げられます。
実際に、相手をうつ病にさせたことで傷害罪が成立した判例があります。
加害者Aは、同じ職場の被害者B(既婚者)に一方的な恋愛感情を抱き、大量の電子メールを送り付けた。Bが電子メールを止めてほしい旨を告げると、Aの恋愛感情は憎しみに変わり、ストーカー行為や名誉を棄損するような行為、汚物を送り付けるなどの行為を執拗に行った。その結果、Bはうつ病と診断され、傷害罪が成立。懲役3年の実刑判決が下された。(神戸地裁平21・4・17)
このように、傷害罪で懲役刑が科された判例があることを考えると、うつ病にさせる行為が、いかに悪質性の高い行為であるかが見て取れるでしょう。
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うつ病にさせた場合、傷害罪で逮捕される可能性がある
うつ病にさせた場合、傷害罪の疑いで逮捕される可能性があります。
とはいえ、直ぐに逮捕というわけではなく、段階的に進行していきます。
被害者が被害届・告訴状を提出している
被害者がうつ病になり、加害者のことを「許せない」「罰したい」という気持ちが強くなれば、警察に被害届を提出します。
単に被害届を提出した程度では、警察も消極的な姿勢を見せることが多いですが、
- ・うつ病の診断書が出ている
- ・証拠が揃っている
- ・告訴状が受理されている
このような場合は、警察も捜査に踏み切ると思った方がいいでしょう。
捜査の開始
捜査が開始されれば、警察は逮捕の理由・必要性を裏付けのための行動に並行して、加害者に対し、任意の事情聴取(取り調べ)を求める場合があります。
あくまで任意ですので拒否することも可能ですが、その場合、自分の状況を不利にするだけですので、原則として、事情聴取には応じるべきでしょう。
ただ、事情聴取で不利な供述をしてしまえば、逮捕の可能性が高まるだけでなく、起訴に発展するリスクも一気に跳ね上がります。そのため、事情聴取においては、応じた上でいかに不利な供述をしないかが重要です。
逮捕状の請求
これまでの流れから、警察が「逮捕の必要性あり」と判断すれば、裁判官に逮捕状を請求します。その結果、裁判官が逮捕状を発行すれば、通常逮捕の要件を満たす形になり、警察が自宅や職場に訪れ、逮捕となります。
逮捕となれば、留置所で最大72時間の拘束を受けることになり、その間、外部との連絡・面会の一切が禁止されますので、社会的信用の低下や会社をクビになるリスクも高まります。
「じゃあ、うつ病にさせた場合どうしようもないのか」と言うと、そうではありません。
警察が通常逮捕を行う場合、被害届・告訴状の受理、捜査、逮捕状の請求というように、段階的に進める必要があるため、「逮捕までに時間を要する」と言い換えることもできます。
この時間を有効活用できるかが、今後の明暗を分けると言っても過言ではありませんので、「どうしたらいいか分からない」という方は、一刻も早く弁護士に相談しましょう。
うつ病にさせると慰謝料を請求されることもある
慰謝料とは、精神的苦痛に対して支払われるお金(賠償金)のことで、うつ病にさせてしまった場合、慰謝料を請求される可能性も考慮しなくてはなりません。
また、うつ病における慰謝料額は、
- ・犯行態様の悪質性
- ・加害者の人数
- ・初犯なのか前科(前歴)ありかどうか
- ・諸般の事情
これらを総合的に判断し決定されるので、仮に「犯行態様が悪質かつ長期的」だった場合は、慰謝料も相対的に高額になる可能性が高いでしょう。
逮捕を回避するには被害者との示談が重要
うつ病にさせた場合は、逮捕されて傷害罪成立の可能性が高くなりますが、被害者との示談が成立した場合は、逮捕前であれば逮捕回避、逮捕後であっても不起訴処分を獲得することができます。
ですが、現実問題、加害者本人が自力で交渉するのはリスクが高いと言わざるを得ません。なぜなら、被害者側の心境を考えれば、加害者のことを「許せない」「罪を償わせたい」と思っていることが多く、そこに加害者が交渉を申し出ても、火に油を注ぐ結果になるからです。
実際に、弊所においても、「自力交渉でさらに悪化してしまったので、何とかしてほしい」とご依頼いただくことが多いです。もちろん、そこからでも示談交渉を進めることが可能ですが、「慰謝料(示談金)が相場より高くなる」「交渉が難航し勾留期間が延びてしまう」といった、不利な条件を呑まざるを得ない交渉となってしまいがちです。
そのため、自力交渉は極力避けて、早い段階で弁護士に依頼いただく方が、結果的に有利な交渉を進めることが可能になることは、覚えておきましょう。
示談交渉を弁護士に依頼するメリット
前述でも解説した通り、被害者との示談交渉は弁護士に依頼することをおすすめします。
その理由として、以下の3つが挙げられます。
被害者が示談に応じやすくなる
うつ病という特性上、ある程度関係性のある間柄であると予想できますが、だからこそ自力交渉は避けるべきです。「知っている仲だし連絡先も知っているから」という理由で、いつものように連絡をしてしまえば、相手からすれば恐怖でしかありません。
それどころか、「罰したい」という気持ちが余計に強くなり、刑事告訴に踏み切る可能性もあります。そうなれば、起訴され、前科が付くリスクも上がってしまうでしょう。
一方で、第三者である弁護士が間に入ることで、被害者の警戒心を解くことにもなり、安心して示談交渉に応じてくれるようになります。また、代理人が弁護士だと分かれば、被害者も高圧的になることなく、冷静かつ迅速な交渉が可能になりますので、それだけ逮捕回避・早期釈放に繋がるというわけです。
適切なアドバイスを受けることができる
うつ病にさせてしまい、被害者が被害届や告訴状を提出している状況だと、いつ逮捕されてもおかしくありません。「いつか逮捕されるのだろうか」と怯えながらの生活では、日常生活や就労にも悪影響を及ぼします。
また、すでに逮捕されている状況下では、最大72時間は外部との接見が禁止されますので、警察官や検察官相手に一人で取り調べを受けなくてはならず、その精神的負担は計り知れません。
弁護士であれば、法律の観点から、逮捕までの期間をどのように有効活用すべきかや、逮捕後の流れ、取り調べの有利な進め方など、専門的なアドバイスをすることが可能です。
さらに、逮捕後の接見禁止期間(最大72時間)において、弁護士だけが接見を許されていますので、その一点においても、弁護士に依頼するメリットと言えるでしょう。
法外な慰謝料請求を回避できる
うつ病になってしまった被害者は、日常生活がままならなくなったり、就労においても一定期間の休業を余儀なくされるため、どうしても被害者意識が強くなってしまいます。そういった理由から、法外な慰謝料請求をかけてくる方も、少なからずいらっしゃいます。
とはいえ、どこまでが適正でどこからが法外なのかというボーダーラインは、状況や犯行態様によって様々ですので、当事者間だけで適正な慰謝料を判断するのは困難であると言えるでしょう。
弁護士であれば、法律の観点や過去の事案から、適正な慰謝料を模索することが可能ですし、万が一法外な慰謝料請求をされば場合でも、被害者が納得できるような交渉を進めていくこと可能です。
「私が悪かったから多少高くてもしょうがない」という姿では、被害者側もどんどん強気になり、相応に慰謝料が上がる傾向にありますので、不安な方は、まずはお気軽にご相談ください。
うつ病での傷害罪の弁護はグラディアトル法律事務所へ
うつ病にさせてしまった場合の傷害罪成立の有無について解説しました。
記事の内容を、以下にまとめます。
・うつ病における傷害罪の成立要件:
①傷害の「実行」行為がある
②傷害の結果がある
③暴力行為と傷害結果に因果関係が認められる
・傷害罪は、精神的な嫌がらせで相手をうつ病に追い込む場合も成立する。実際の判例では、このような行為が懲役刑につながった例もある。
・うつ病に追い込んだ場合、被害届提出後は捜査が進み、逮捕の可能性がある。
・うつ病にさせた場合、慰謝料請求のリスクも考慮すべき。
・自力で示談交渉するリスクは高い。弁護士に依頼して、有利な条件で交渉を進めるのが重要。
・弁護士に示談交渉を依頼すると、被害者が応じやすくなり、適切な法的アドバイスも受けられる。
うつ病にさせてしまった場合、逮捕までの時間をいかに有効活用するかが重要です。
とはいえ、「どうしたらいいか分からない」という不安な気持ちの中で解決を目指すのは、困難を極める上、逆に状況を悪化させるリスクも高まります。
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