どの程度で傷害罪?刑の重さは?軽傷から過失までケース別に解説

どの程度で傷害罪?刑の重さは?
弁護士 若林翔
2024年07月31日更新

「傷害罪はどの程度で成立する?」

「どの程度のケガで、どれくらいの刑になる?」

傷害罪は軽いケガでも成立します。

ただし、傷害の程度によって刑の重さは異なり、ケガが重くなる程、刑も重くなります。

ある程度の目安は、本記事でお伝えしますが、詳しい量刑が知りたい方は弁護士へ相談しましょう。

本記事では、次の点を取り上げました。

傷害罪が成立するかケース別の解説

刑事裁判になる割合

ケガの程度と刑の関係(過去の事例)

傷害罪の量刑のポイント

傷害罪でお悩みの方は、是非ご一読ください。

どの程度で成立する?傷害罪の要件

傷害罪は、次の4つの要件を満たした場合に成立します。

傷害罪の構成要件

傷害罪の「実行行為」の典型例は、「殴る・蹴る」などの暴力行為です。

しかし他にも「精神的な嫌がらせ」「意図的に病気をうつす」などの様々な行為が、実行行為として認められます。

傷害の程度(ケガの大きさ)は、傷害罪の「成立・不成立」には影響しません

成立要件を満たしていれば、軽いけがであったとしても、傷害罪は成立します。

ただし、当然「軽傷の事件」と「重傷の事件」が同様に扱われる訳ではなく、

加害者が逮捕されるか

検察に起訴されるか

どの程度の刑罰になるか

など、傷害罪の成立後に大きな影響を与えます。

※傷害罪の成立要件(構成要件)については、次の記事で詳しく解説しています。

傷害罪の成立要件とは?傷害罪が成立する具体的なケースを解説

【ケース別】どの程度で傷害罪になるのか解説

傷害罪は、様々な状況で成立します。

具体的なケース別に、どの程度の行為で傷害罪が成立するのか見ていきましょう。

【ケース別】どの程度で傷害罪になる?

軽いケガをさせた場合

軽いケガでも、傷害罪が成立する可能性があります。

傷害罪が成立するケースの例

・スリ傷や切り傷を作る

・毛髪を切ったり抜いたりする

・皮下出血を起こす(キスマークを付ける)

「傷害」とは「人の生理的機能を害すること」と定義されています。

被害の程度に関わらず、被害者の健康状態を悪化させると「傷害」となる可能性があるのです。

ケガをさせるつもりなく暴行した場合

ケガをさせるつもりが無くても、意図的に暴行していれば、傷害罪が成立します。

傷害罪には、「ケガをさせてやる」という認識は必要なく「暴行を加える」という認識だけで成立するのが判例の見解です。

例えば、次のようなケースでも成立します。

驚かすつもりで石を投げたら、相手がケガをした

軽く殴ったら、打ちどころが悪くケガをした

日常の些細なシーンでも、思わぬことがきっかけで傷害罪となる可能性があるのです。

過失でケガをさせた場合(過失傷害)

過失でケガをさせた場合は、傷害罪ではなく「過失傷害罪」が成立します。

(過失傷害)第209条

過失により人を傷害した者は、三十万円以下の罰金又は科料に処する。

2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

よくあるのが、

通行中に、歩きスマホで相手を転倒させてしまった

自転車でぶつかってケガをさせてしまった

スポーツの練習で、負傷させてしまった

といったケースです。

これらのケースでは「暴行を加える」という認識が無いため、「傷害罪」ではなく「過失傷害罪」が成立します。

ただし、過失傷害だからといって、甘く見るのは禁物です。

被害の大きさによっては、高額の慰謝料が発生する場合もあるからです。

うっかりケガをさせてしまった場合は、速やかに弁護士へ相談しましょう。

なお、過失傷害は告訴がないと起訴されません。

そのため、被害者と示談できれば、高確率で刑事事件化を防ぐことができます。

精神的なストレスを与えた場合

精神的なストレスを与えた場合も、傷害罪が成立する可能性があります。

ただし、「軽い嫌がらせ」や「仕事中の常識的な叱責」程度で、直ちに成立する訳ではありません。

PTSDやうつ病など、何らかの精神疾患の発症が必要です。

※精神的苦痛による傷害罪については、こちらの記事で詳しく解説しています。

精神的苦痛でも傷害罪になる?成立する要件や実際の判例、対処法など

 

傷害罪はどの程度が刑事裁判になる?

傷害罪は、どの程度が刑事裁判になるのでしょうか。

・傷害罪が起訴される割合

・刑事裁判になるケースと略式手続きで済むケースの割合

それぞれ解説します。

傷害罪の起訴率は「32%」

傷害罪はどの程度が起訴される?

引用:令和5年版 犯罪白書 被疑事件の処理|検察庁

検察庁によると、令和4年の傷害罪の起訴率は「32%」です。

傷害事件を起こしたからといって、必ずしも刑事裁判になる訳ではなく、「68%」は不起訴となっています。

一方で、上記のデータからは、不起訴となっている「11,535件」のうち「8,822件」が起訴猶予となっていることも分かります。

※起訴猶予とは?

犯罪の嫌疑は証拠によって認められるが、検察官の判断で不起訴処分にすること。

犯人の性格や年齢、境遇、犯罪の軽重、情状、犯罪後の情況などが考慮される。

つまり、証拠が不十分といった理由ではなくあくまでも加害者にとって有利な事情が考慮された上で、検察官の判断によって「不起訴処分」となっているのです。

起訴率だけを見て「傷害罪=起訴されることは少ない」と考えることは非常にリスクの高い行為だといえるでしょう。

傷害罪の起訴を防ぐためには、加害者にとって有利な事情を汲み取り、正しい手順で検察官に伝えることが必要です。

起訴されて刑事裁判(公判)になるのは「38%」

傷害罪では、起訴されても必ずしも刑事裁判に発展するわけではありません。

検察庁によれば、傷害罪の起訴総数(令和4年)のうち、公開の法廷で、刑事裁判が開かれたのは「約38%」です。

残りの「約62%」は「略式裁判」となり、書面審理のみで終結しています。

※略式裁判とは?

公開の法廷で刑事裁判を開かず、書面の審理のみで手続きを完結させること。

傷害罪はどの程度が刑事裁判?

引用:令和5年版 犯罪白書 被疑事件の処理|検察庁

ただし、略式裁判だからといって甘く見ることは禁物です。

略式裁判には、

(必ず)有罪となって前科が付く

(必ず)100万円以下の罰金となる

といったデメリットもあるからです。

懲役刑になることはありませんが、前科が付いてしまうと、将来にも大きな影響を与えます。

刑罰の重さは?傷害罪の量刑を左右する5つのポイント

傷害罪の刑罰は、事件の内容によって大きく異なります。

具体的にどのような点が影響するのか、量刑を左右する5つのポイントを解説します。

傷害罪の刑の程度は?

傷害の程度

量刑に大きく影響するのが、被害者の傷害の程度です。

一般的には、ケガの程度が重くなるほど、傷害罪の刑罰も重くなります。

例えば、軽いケガの場合、そもそも逮捕・起訴されなかったり、有罪になっても罰金刑で済むケースが多いです。

一方で、重傷で後遺症が残るようなケースでは、懲役刑となる可能性が高まります。

傷害(ケガ)の程度と量刑の関係については、5章で後述します。

傷害行為の態様や悪質性

傷害行為の態様や悪質性も、刑罰の重さに影響を与えます。

計画的な犯行なのか、偶発的な犯行なのか

加害者と被害者の関係はどうだったのか

凶器は使用していたのか

など、様々な事情が考慮されるのです。

犯行が計画的で悪質だと判断される程、科される刑も重くなります。

謝罪や反省の態度

加害者の謝罪や反省の態度も、量刑に影響します。

被害者に対して謝罪し、深く反省していることが伝われば、刑の程度は比較的軽くなるでしょう。

一方、同じような被害でも、反省の態度が見られない場合は、刑が重くなる可能性があります。

前科や前歴の有無

傷害罪の前科や前歴がある場合も、初犯と比べて、刑罰は重くなります。

具体的には、以下のようなケースが該当します。

常習的に傷害事件を起こしている

過去にも、暴行・傷害事件で取り調べを受けている

傷害罪で罰金を払ったことがある

執行猶予中である

前科がある場合はもちろん、捜査の対象となったことがあるだけでも、前歴として考慮されます。

示談が成立しているか

被害者と示談が成立しているかも、刑罰の程度に大きな影響を与えます。

スムーズに示談が成立して

・被害の回復に十分な示談金が支払われている

・当事者間でのトラブルが解決している

・被害者が、加害者を許している

といった事情が裁判官に伝わることで、軽い判決が言い渡される可能性が高まります。

また、早期に示談が成立すると

警察の捜査が中止される

・そもそも、刑事事件として起訴されない

といった形で、そもそも刑事裁判に発展しないケースも多いです。

傷害(ケガ)の程度と量刑相場の関係

傷害(ケガ)の程度と量刑相場はどのような関係になるのでしょうか。

実際の事例を紹介します。

傷害(ケガ)の程度量刑
(裁判で言い渡された刑)
前科の有無
①通院加療1日の打撲罰金20万
②全治2週間の打撲や捻挫罰金20万
③加療10日間の挫創罰金30万
④全治1ヶ月の傷害罰金40万
⑤全治3週間の頸椎捻挫懲役5ヶ月(実刑)
⑥加療18日間の骨盤部打撲傷
(示談不成立)
懲役10ヶ月(執行猶予3年)
⑦全治10日の傷害
(示談不成立・酔った犯行
懲役1年(執行猶予3年)
⑧全治2ヶ月の骨折
(酔った犯行)
懲役2年(執行猶予3年)

基本的には、傷害(ケガ)の程度が重くなる程、刑も重くなります。

ただし、ケガの重さだけで量刑が決まる訳ではなく、事件の態様によって異なります。

例えば、「③加療10日の挫傷」と「⑦全治10日の傷害)」で比較してみましょう。

一概にどちらのケガが重いとはいえないものの、「罰金30万(③)」または「懲役1年(⑦)」と、刑の重さにかなりの違いがあります。

傷害の程度以外の要素によっても、刑の重さは大きく変わってくるのです。

傷害事件を起こしたらするべきこと

それでは、傷害罪の処分を軽くするためには、どのように対処すれば良いのでしょうか。

傷害事件を起こした際ににするべきことは次の2つです。

傷害罪で逮捕されない方法

弁護士に相談する

傷害事件を起こした場合は、速やかに弁護士に相談しましょう。

事件の内容や被害の程度によっては、刑事裁判に発展するリスクが非常に高くなります。

逮捕・起訴される前に、弁護活動を開始することで、刑事裁判に発展するリスクを最小限に抑えられるでしょう。

万が一、逮捕されてしまった場合も、事前に相談しておくことで、早期釈放される可能性が高まります。

1人で抱え込むのではなく、速やかに弁護士に相談することが、事件を解決するための最善の方策です。

被害者と示談をする

傷害事件を解決するために、被害者との示談が非常に重要です。

できるだけ早期に示談を成立させることが、最も効果的な方法と言えるでしょう。

事件後すぐに被害者と示談が成立すれば、次のようなメリットを受けられます。

警察の捜査が中断される可能性がある

逮捕のリスクを減らすことができる

不起訴処分を得られる確率が上がる

ただし、示談交渉は必ず弁護士に依頼してから開始しましょう

被害者側は、加害者と二度と会いたくないと感じていることが通常だからです。

無理に自分で交渉を進めると、次のような問題が生じてしまいます。

被害者の連絡先が分からない

被害者の感情を刺激し、事態を悪化させてしまう

法外な額の慰謝料を請求されてしまう

経験が豊富な弁護士に依頼すれば、スムーズに示談が成立する可能性が格段に高まります。

【Q&A】傷害罪の程度に関するよくある質問

傷害罪の程度についてよくある質問

Q.「傷害」の定義は?

「傷害」とは「他人の生理的機能を害すること」を言います。

擦り傷や切り傷だけでなく、精神疾患の発症や性病の感染など、健康な状態に異常を生じさせると広く「傷害」となります。

Q.どの程度のケガで傷害罪になる?

軽いケガでも傷害罪は成立します。

傷害罪の成立に「ケガの程度」は関係ありません。

ただし、刑の重さは、ケガが軽い程軽くなる傾向があります。

Q.傷害罪はかすり傷でも成立する?

かすり傷でも傷害罪は成立する可能性があります。

Q.押しただけでも傷害罪になる?

押しただけでは、傷害罪は成立しません。

相手が転倒してケガをしてしまうと、傷害罪が成立する可能性があります。

Q.証拠がないと傷害罪にならない?

証拠がなくても傷害罪は成立しますが、刑事裁判で有罪となることはありません。

ただし、本当に証拠が無いケースは少ないです。多くの場合は、加害者が気付かいていないだけで、何らかの証拠が残っています。

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傷害事件で悩んだらグラディアトル法律事務所へ

最後に、今回の記事の要点を整理します。

・傷害罪は、軽いケガでも成立する

・ケガの程度が軽い程、刑は軽くなる

・ただし悪質な場合、ケガの程度が軽くても刑は重くなる

・傷害罪の逮捕・起訴を防ぐには示談が重要

傷害罪は、傷害(ケガ)の程度に関わらず成立する犯罪です。

軽いケガであったとしても、傷害行為が悪質だと判断されると、重い刑罰が科せられてしまいます。

軽いケガだから大丈夫と安心するのではなく、被害を回復させるための行動を起こしましょう。

グラディアトル法律事務所では、これまでにも数多くの傷害事件の相談を受けて、警察や検察と交渉を行ったり、被害者との示談を成立させる等の弁護活動を行ってきました。

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弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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