傷害事件の加害者となってしまった翌日。
「傷害罪は親告罪だと聞いたが本当だろうか?」
「被害届を出されなければ、逮捕はされない?」
「目撃者に通報されたらどうなる?」
このような不安を抱えて、本記事にたどり着いた方も多いのではないでしょうか?
結論から言うと、傷害罪は親告罪でありません。
そのため、被害者が告訴しなくても、警察や検察の判断で逮捕・起訴される可能性が十分にあります。
被害者に告訴されなければ大丈夫だと、安心することはできません。
とはいえ、被害者の意向は、事件の動向に大きな影響を与えます。
被害者に「被害届」を取り下げてもらったり、適切に対応することで、起訴される可能性を大幅に低下させることができるからです。
本記事では、
・傷害罪が告訴なしで起訴されやすいケース
・告訴されても、必ず逮捕される訳ではないこと
・非親告罪でも示談が重要な理由
などについて、詳しく解説します。
傷害事件の不安を和らげ、適切な対処方法を知るために、是非ご一読ください。
目次
傷害罪は親告罪ではない!告訴なしで起訴されることも
傷害罪では、被害者の告訴がなくても警察に逮捕され、検察に起訴されることがあります。
これは、傷害罪が「親告罪」には分類されていない犯罪だからです。
※親告罪とは?
被害者による「告訴」がなければ、起訴できない犯罪のこと。
例えば「名誉毀損罪」や「リベンジポルノ被害防止法違反」など、被害者のプライバシーに配慮する必要のある犯罪が「親告罪」の例として挙げられます。
傷害罪は、「親告罪」ではないため、被害者が告訴しなくても、検察官が独自の判断で起訴することができます。
つまり、傷害事件を起こしてしまった場合、被害者が通報しなかったとしても、事件の内容によっては刑事事件に発展する可能性があるのです。
「告訴」と「被害届」は異なるものです。
「告訴」とは、捜査機関に対して犯人の処罰を求める意思表示のことです。
一方「被害届」は、被害の事実を申告するために提出するもので、処罰を求める効果はありません。
「告訴」がないと起訴されない「親告罪」と異なり、傷害罪をはじめとした「非親告罪」では、「被害届」の有無が捜査に大きく影響するので注意しましょう。
傷害罪が告訴なしで起訴されやすいケース
それでは、具体的にどのようなケースで起訴されるリスクが高まるのでしょうか?
ここでは、傷害罪が、被害者の告訴なしで起訴されやすいケースについて解説します。
傷害の程度が重い場合
傷害が重篤である場合は、告訴なしでも起訴されるリスクが高まります。
傷害の程度が大きいほど、事件の社会的影響力が強くなるため、捜査機関としても看過できなくなるからです。
例えば、被害者が頭部に重傷を負って意識不明になるなど、生命に関わる事態に陥った場合は、警察も積極的に捜査に乗り出す可能性が高くなるでしょう。
被害の大きさによっては、被害者が告訴をしなかったとしても、捜査機関の捜査が開始され、起訴される可能性は十分に出てきます。
刃物を用いていた場合
犯行の際に刃物を使用していた場合も、被害者の告訴の有無に関わらず、起訴されやすい傾向にあります。
一般的に、凶器を用いた犯行は悪質であると捉えられやすいため、捜査の優先順位も高くなるからです。
なお、刃物を使用していた場合、そもそも「殺意」があったとして、「傷害罪」でなく「殺人未遂」の容疑で捜査が開始される可能性もあります。
いずれにせよ、被害者の告訴が無かったとしても、起訴されるリスクが高いことを覚悟しておくべきでしょう。
目撃者からの通報があった場合
第三者からの告発によって、捜査が開始されるパターンもあります。
例えば、傷害事件の現場を目撃した通行人が、警察に通報したようなケースです。
特に、目撃者が被害状況を具体的に説明できる場合は、捜査が本格化しやすい傾向にあります。
例えば、
「被害者が明らかに重傷を負っていた」
「被害者が血だらけになって立ち去っていった」
「加害者が凶器を持っていた」
など、具体的な状況が明らかになるほど、捜査機関が捜査を開始する可能性も高くなるでしょう。
過失の傷害罪であれば「親告罪」
ここまで、「傷害罪」は「非親告罪」であるため、被害者の告訴なしでも起訴される可能性があることを説明してきました。
しかし、加害者の故意(わざと)ではなく、過失によって、被害者がケガをしてしまった場合は少し事情が異なります。
「過失傷害罪」は、「傷害罪」とは異なり、「親告罪」に分類されているからです。
(過失傷害)刑法 第209条
過失により人を傷害した者は、三十万円以下の罰金又は科料に処する。
2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
例えば、
・歩きスマホをしていて、うっかり相手にケガをさせてしまった
・スポーツの練習中に、相手にケガをさせてしまった
等のケースでは、「傷害罪」ではなく「過失傷害罪」にあたる可能性が高いため、被害者が告訴しない限り、起訴されることはないでしょう。
もっとも、上記のケースでも「そもそも過失といえるのか」が争いになる場合は少なくありません。さらに、事件の態様や経緯によっては、被害者の処罰感情が強くなり、告訴されてしまう可能性も高くなります。
「わざとケガをさせた訳でないから大丈夫」と安心することはできません。
事件の状況を見極めて、相手のケガが大きかったり、トラブルに発展しそうな場合は、早めに弁護士に相談するのが得策だといえるでしょう。
「軽く殴っただけなのに、運悪く相手がケガをしてしまった」
「相手にケガをさせるつもりは無かった」
というケースは意外と少なくありません。
しかしその場合でも「過失傷害罪」ではなく、通常の「(故意)傷害罪」となってしまうため、注意が必要です。
暴行で相手がケガをしてしまった場合、ケガをさせるつもりがあったか否かに関わらず、傷害罪が成立するというのが判例の考え方だからです。
告訴されても必ず逮捕されるわけではない
傷害罪が、告訴なしでも起訴される可能性があることは、前述の通りです。
しかし一方で、告訴されたからといって、必ずしも逮捕されるわけではありません。
被害者からの告訴があった場合、警察は告訴の内容や事件の状況を捜査した上で、逮捕の必要性を判断するからです。
例えば、以下のようなケースでは、告訴されても逮捕に至らない可能性があります。
・傷害の程度が軽微であり、加害者に反省の態度が見られる場合
・証拠が不十分である場合
・加害者と被害者の間で示談が成立している場合
・加害者に、逃亡や証拠を隠滅する恐れがない場合
つまり、傷害罪で告訴されたとしても、事件の状況やその後の対応によっては、逮捕を免れる可能性があるのです。
とはいえ、捜査の結果、逮捕を免れることになったのか、それともまだ捜査が進行中なのかを、加害者が知る術はありません。
ある日突然、警察が自宅や職場にやってきて、逮捕されてしまう可能性が否定できない以上、逮捕の不安は残り続けることになるでしょう。
また、仮に逮捕を免れることができても、在宅起訴として刑事事件化する可能性もあります。起訴されてしまうと、高確率で有罪となってしまい、刑事処分を受けることになるでしょう。
傷害罪の加害者となってしまった場合は、早急に弁護士に相談し、適切な対応を取ることが重要です。
非親告罪の傷害罪でも示談が重要な理由
「傷害罪が、非親告罪であることは分かった」
「結局、警察や検察の判断で決まるなら、被害者と示談しても意味がないのでは?」
傷害罪が親告罪ではないことを、ご相談者に説明すると、上記のようなご質問を受けることが多いです。
しかし、これは誤った理解です。
非親告罪であったとしても、被害者との示談に大きなメリットがあることに変わりはないからです。
ここでは、非親告罪の傷害罪でも示談が重要な理由について解説します。
不起訴になる可能性が高まるから
非親告罪であったとしても、被害者との示談が、不起訴の可能性を高めることに変わりはありません。検察官は、起訴するかどうか判断する際に、被害者の意向を考慮するからです。
被害者が処罰を望んでいない場合、つまり示談が成立している場合には、検察官が不起訴の判断をする可能性が高くなります。
特に示談の結果、「被害届」を取り下げてもらえたり、被害者に「嘆願書」を提出してもらえたようなケースでは、非親告罪といえども、被害者の意向が汲まれて、不起訴処分となる可能性が高くなるでしょう。
非親告罪である傷害罪でも、示談を成立させることには大きな意味があります。
傷害事件を起こしてしまった場合、できる限り早急に弁護士に依頼して、被害者と示談交渉に進めることが肝要だといえるでしょう。
こちらのコラムも併せてご覧ください。
※関連コラム 「傷害罪の示談金の相場は?示談金を決める要素や示談の流れを解説」
刑事処分が軽くなるから
仮に起訴されてしまった場合でも、示談の成立は刑事処分の軽減につながります。
検察官と同様に、裁判官も、示談が成立していることを量刑判断のポイントとして考慮するからです。
示談が成立していることが分かれば、加害者に反省の意思があることや、被害者の処罰感情が和らいでいることが、裁判官にも伝わります。
有罪判決となっても、執行猶予が付いたり、軽い刑が科される可能性が高くなるでしょう。
因みに、傷害罪の刑事罰は、次のように決められています。
刑法 第204条 (傷害)
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
傷害罪の法定刑は幅広く、量刑判断によって、刑の重さが大きく変わってきます。
軽ければ、「罰金刑」で終わる可能性もある一方で、最悪の場合「最長15年の懲役刑」に科される可能性もあるのです。
もしも起訴されてしまっても、諦めずに被害者との示談交渉を進めていくことで、社会生活への影響を最小限に抑えることができるでしょう。
民事上も解決できるから
傷害事件では、加害者の刑事責任だけでなく、民事上の損害賠償責任も問題となります。
仮に刑事処分を免れても、治療費や慰謝料について、被害者から民事訴訟を提起されるケースは少なくありません。
民事訴訟になれば、解決までに長い時間を要することになり、肉体的にも精神的にも大きな負担となってしまうでしょう。
一方、被害者と示談を成立させておけば、刑事処分が軽くなるだけでなく、治療費や慰謝料などの民事上の問題についても解決することができます。
被害者が民事訴訟を提起するリスクを回避することで、心身の負担を大幅に軽減することができるでしょう
傷害罪で悩んだらグラディアトル法律事務所へ
最後に、今回の記事の要点を整理します。
・傷害罪は「親告罪」ではない
・告訴なしでも逮捕されるリスクが十分にある
・ただし起訴判断には、被害者の意向が大きく影響する
・示談を成立させることで、不起訴となる可能性が高まる
・裁判官の量刑判断にも、示談の成立が影響する
傷害事件の当事者となってしまった場合、できる限り早急に弁護士に相談して、示談交渉を開始することが重要です。
傷害罪は「親告罪」ではないものの、逮捕・起訴の判断には、被害者の意向が大きく影響するからです。
無事に被害者との示談を成立させることができれば、傷害事件が社会生活に与える影響を、最小限に抑えることができるでしょう。
グラディアトル法律事務所では、これまでにも数多くの傷害事件の相談を受けて、警察や検察と交渉を行ったり、被害者との示談を成立させてきました。
勇気をもってご相談いただいたことで、傷害事件が解決に向かったご相談者様は数え切れません。
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