「傷害罪にも時効はあるの?」
「過去に喧嘩して相手を怪我させてしまったけれど、今になって逮捕されることはある?」
「時効まで待つのが不安なため、何かできることはないのだろうか?」
他人に怪我をさせてしまった場合、傷害罪が成立し、刑事上および民事上の責任を負う可能性があります。しかし、傷害罪には時効がありますので、一定期間の経過により、罪に問われることがなくなり、被害者から損害賠償請求を受けることもなくなります。ただし、刑事上の時効と民事上の時効とでは考え方が異なりますので、両者の違いをしっかりと押さえておくことが大切です。
本記事では、
- 傷害罪の刑事の時効(公訴時効)
- 傷害罪の民事の時効(消滅時効)
- 傷害罪の時効を待つ以外の対処法
などについてわかりやすく解説します。
時効が成立するまでは、傷害罪として逮捕・起訴される可能性がありますので、不安な方は、早めに弁護士に相談をして対処するようにしましょう。
目次
傷害罪の刑事上の時効|公訴時効
傷害罪の刑事上の時効のことを「公訴時効」といいます。以下では、公訴時効に関する基本事項を説明します。
公訴時効とは
公訴時効とは、犯罪が終わったときから一定期間を経過すると、犯人を処罰することができなくなる制度です。公訴時効は、長期間経過により証拠が散逸し、公正な裁判が困難になること、事件の社会的影響力が弱まるなどの理由から定められています。
公訴時効が経過すると、検察官が事件を起訴することができなくなりますので、過去に傷害罪を起こしていたとしても、刑罰を科せられることはありません。
傷害罪の公訴時効は10年
公訴時効の期間は、法定刑の重さを基準に以下のように定められています。
【人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑にあたるもの】
【上記以外の罪】
傷害罪の法定刑は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金と定められていますので、上記の表に追える「長期15年以上の懲役または禁錮」に該当します。そのため、傷害罪の時効期間は、10年となります。
また、公訴時効の起算点は、「犯罪行為が終わった時点」が基準となります。傷害罪の場合には、犯罪行為が終わった時点とは傷害の結果が生じた時点になりますので、相手に怪我を負わせた時点が起算点になります。ただし、被害者に後遺障害が生じた場合には、後遺障害が生じた時点が起算点になります。
傷害罪の公訴時効は停止することがある
傷害罪の公訴時効は、一定の事由が生じると、その間は時効期間の進行がストップし、時効が完成することはありません。具体的な公訴時効の停止事由には、以下のものがあります。
- 公訴の提起
- 共犯者に対する公訴の提起
- 加害者が国外にいる場合
- 加害者が逃げ隠れをしていて有効に起訴状の送達や略式命令の告知ができない場合
たとえば、傷害罪の犯人が犯行後すぐに国外へ逃亡し、10年以上経過してから帰国したとしても、帰国するまでは時効期間が進行していませんので、刑罰から逃れることはできません。
傷害罪の時効(刑事)の計算方法の具体例
傷害罪の刑事上の時効の計算をよく理解してもらうために、以下では、具体的なケースを前提として、時効期間を計算してみたいと思います。
- 犯人は、2024年4月1日に被害者の腕をナイフで刺して、全治1か月程度の怪我を負わせた
- 被害者は、その後治療を続けたものの、2024年10月1日に症状固定と診断され、可動域制限の後遺障害が残った
- 犯人は、2025年4月1日から4月10日までアメリカに海外旅行に行っていた
上記のケースで、傷害罪の時効は、いつ完成するのでしょうか。
【ステップ1:時効の起算点】
まずは時効の起算点がいつになるかを判断します。傷害罪の時効の起算点は、傷害の結果が生じた時点ですが、後遺障害が残った場合には、後遺障害が生じた時点が起算点になります。
上記のケースでは、2024年10月1日に症状固定と診断され、後遺障害の存在が明らかになりましたので、この時点が時効の起算点となります。
【ステップ2:公訴時効の停止事由の有無】
公訴時効が停止していた期間がある場合には、時効の計算の際にその期間を控除する必要があります。
上記のケースでは、犯人は2025年4月1日から4月10日までの10日間、海外に行っていますので、その期間を控除して公訴時効を計算しなければなりません。
【ステップ3:時効期間の計算】
傷害罪の公訴時効の期間は、10年ですので、2024年10月1日から10年後の2034年9月30日を経過した時点で時効が成立します。ただし、上記のケースでは、10日間は時効の進行がストップしていますので、実際に時効が完成するのは、2034年10月9日を経過した時点となります。
傷害罪の民事上の時効|消滅時効
傷害罪の民事上の時効を「消滅時効」といいます。以下では、消滅時効に関する基本事項を説明します。
消滅時効とは
消滅時効とは、一定期間権利の行使が行われない場合に、その権利を消滅させる制度です。
他人に怪我をさせてしまった場合には、被害者には、以下のような損害が発生します。
- 治療費
- 通院交通費
- 休業損害
- 慰謝料
- 逸失利益など
加害者は、被害者に対して、不法行為に基づく損害賠償義務を負いますので、被害者に生じた損害を賠償しなければなりません。
しかし、被害者が有する損害賠償請求権にも時効がありますので、一定期間を経過すると、時効により加害者への損害賠償請求ができなくなります。これが民事上の時効です。
傷害罪の消滅時効は5年
傷害罪の消滅時効期間は、以下のように定められています。
- 損害および加害者を知ったときから5年
- 不法行為のときから20年
通常の不法行為は、損害および加害者を知ったときから「3年」が時効期間となりますが、人の生命または身体を害する不法行為は、被害者保護の観点から時効期間が「5年」とされています。
また、刑事上の時効は、傷害の結果が生じた時点が時効の起算点になりますが、民事上の時効では、被害者が損害および加害者を知ったときが起算点になります。そのため、面識のない者同士の喧嘩だった場合には、被害者が加害者の氏名や住所などを把握するまでは、時効期間は進行しません。
傷害罪の消滅時効はストップまたはリセットされることがある
傷害罪の消滅時効は、一定の事由がある場合には、時効期間の進行がストップ(時効の完成猶予)またはリセット(時効の更新)されることがあります。これらに該当する代表的な事由としては、以下のものが挙げられます。
【時効の完成猶予事由】
- 裁判上の請求(事由終了まで完成猶予)
- 強制執行(事由終了まで完成猶予)
- 仮差押え(事由終了から6か月間の完成猶予)
- 協議を行う旨の合意(催告後6か月間の完成猶予)
- 催告
【時効の更新】
- 裁判上の請求(権利の確定により更新)
- 強制執行(事由終了により更新)
- 承認
傷害罪の時効(民事)の計算方法の具体例
傷害罪の民事上の時効の計算をよく理解してもらうために、以下では、具体的なケースを前提として、時効期間を計算してみたいと思います。
- 犯人は、2024年4月1日に被害者の腕をナイフで刺して、全治1か月程度の怪我を負わせた
- 被害者は、その後治療を続けたものの、2024年10月1日に症状固定と診断され、可動域制限の後遺障害が残った
- 被害者は、犯人と顔見知りであった
上記のケースで、傷害罪の時効は、いつ完成するのでしょうか。
被害者に後遺障害が生じた場合には、被害者が「損害」を知ったのは後遺障害が生じた時点となりますので、時効の起算点は、2024年10月1日となります。そのため、上記のケースでは、2024年10月1日から5年を経過した2029年10月1日に被害者の損害賠償請求権は時効となります。
時効期間内ならいつでも逮捕されるリスクがある
過去の傷害事件だからといって安心してはいけません。時効期間内であればいつでも逮捕・起訴されるリスクがありますので注意が必要です。
時効期間内ならいつでも告訴される可能性がある
親告罪とされている犯罪については、被害者からの告訴がなければ処罰されることはありません。そして、親告罪には告訴期間が定められており、「犯人を知った日から6か月」を経過すると、被害者は告訴をすることができなくなります。
しかし、傷害罪は、非親告罪とされていますので、時効期間内であればいつでも被害者に告訴される可能性があります。
十分な証拠があれば逮捕・起訴される可能性がある
被害者により告訴がなされると捜査機関による捜査が進められていきます。
過去の傷害事件であったとしても、診断書や録音・録画などの客観的な証拠が残っている場合には、犯罪としての立件が可能ですので、具体的な状況によっては、逮捕・勾留により身柄拘束を受ける可能性があります。
また、長期間が経過したからといって刑罰が軽くなるわけではありませんので、事案によっては、検察官により起訴され、刑罰を科されるリスクもあります。
過去の傷害事件だからといって安心していると、突然警察が自宅を訪ねてくることもありますので注意が必要です。
時効を待つより対策をすべき!傷害罪の検挙率は高い(81.2 %)
法務省が公表している「令和5年犯罪白書」によると、傷害罪の検挙率は81.2%と非常に高い数字となっています。時効成立により処罰を免れるのは非常に難しいといえますので、早めに以下のような対応を検討することが重要です。
時効前に示談をする
傷害罪の刑事上の時効は10年ですので、その間逮捕・起訴されるかもしれないというリスクを抱えながら生活しなければならないのは非常に大変です。そのため、時効を待つのではなく、まずは被害者との示談の成立を目指すようにしましょう。
被害者と示談が成立すれば、被害回復ができており、処罰感情が低下していると評価されますので、逮捕・起訴されるリスクが低くなります。また、民事上の損害賠償請求の問題も示談により解決できますので、被害者から損害賠償請求を受けるリスクも回避できます。
ただし、当事者同士での示談交渉は、新たなトラブルの原因となりますので、弁護士に対応を依頼するのがおすすめです。
時効前に自首をする
自首とは、捜査機関に発覚する前に、自ら罪を申告して処罰を求めることをいいます。自首は、法律上、任意的な刑の減軽事由とされていますので、捜査機関に自首をすれば、刑の減軽を受けられる可能性があります。
また、自首をすることで逮捕のリスクも減らすことができますので、身柄拘束による不利益を回避できるという効果も期待できます。
ただし、自首をしなければ捜査機関に犯罪事実が発覚せず、処罰されなかった可能性もありますので、自首をするかどうかについては、弁護士と相談して慎重に検討する必要があります。
傷害罪の時効前の対応はグラディアトル法律事務所に相談を
過去に傷害事件を起こしてしまったという方は、何も対処しないでいると、被害者による刑事告訴によって、逮捕・起訴されるリスクが生じます。そのため、現時点では特に事件の進展がなかったとしても、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談をすれば、捜査機関に犯罪事実が発覚する前に、被害者と示談を成立させて、事件化を回避することが可能です。加害者本人では接触を拒否されてしまうケースでも、弁護士が窓口となって交渉することにより、被害者も交渉に応じてくれますので示談が成立する可能性が高くなります。
グラディアトル法律では、傷害罪の事案に関する豊富な解決実績がありますので、粘り強い交渉により被害者との示談を成立させることも可能です。示談成立の有無は、将来の起訴・不起訴を判断するための重要な要素となりますので、早めに当事務所までご相談ください。
まとめ
傷害罪の刑事上の時効は10年、民事上の時効は5年または20年と定められています。時効が成立すれば、刑罰を科されるリスクや被害者から損害賠償請求をされるリスクがなくなります。
ただし、傷害罪の検挙率は、81.2%と非常に高いため、時効を待つのはあまりおすすめできません。時効前に被害者と示談を成立させることができれば、逮捕・起訴されるかもしれないという不安な生活からも解放されます。
過去の傷害事件で不安がある方は、まずはグラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。