公務員にも背任罪は成立する?成立事例と関連する公務員特有の犯罪

背任罪は公務員にも成立する?
弁護士 若林翔
2025年01月04日更新

公務員にも背任罪は成立するのでしょうか?

背任罪は、他人のために事務を処理する者が、自分や第三者の利益を図ったり、本人に損害を加える目的で、その任務に背いて、財産上の損害を与えると成立する犯罪です。

民間企業の従業員であるか、公務員であるかは関係ありません。

公務員に背任罪が成立する要件

したがって、上記の構成要件を満たしていれば公務員にも背任罪が成立しますさらに、公務員が背任罪となるような不正を行うと、背任罪だけではなく、公務員特有の様々な犯罪が成立する可能性があります。

本記事では「背任罪」について、公務員に特化した内容を取り上げました。

◉この記事で分かること
・公務員に背任罪が成立した事例
・背任罪に関連する公務員特有の犯罪
・公務員が背任罪になるとどういったリスクがあるのか
・逮捕、起訴を防ぐために弁護士ができること

背任事件に巻き込まれてしまった公務員の方は、是非ご一読ください。

公務員に背任罪が成立した事例

背任罪は、民間企業だけで成立する犯罪ではありません。

構成要件を満たせば、公務員にも背任罪が成立します。実際に、公務員が背任罪に問われた具体的な事例を2つ見ていきましょう。

回収が難しいと知りながら行った公的貸付

公的貸付について、背任罪が成立した事例もあります。

銀行などの金融機関と同様に、公務員でも、回収が難しい貸付を意図的に行えば、背任罪が成立する可能性があるのです。

次の裁判例では、県の副知事が、回収困難であることを知りながら、約24億円を貸付けたとして背任罪が成立、懲役2年2ヶ月の実刑判決が下されました。

◉事案の概要

普通地方公共団体である県の副知事らが,既に県から総額14億円余りの貸付けを受けていながら,操業開始後間もなく10億円以上の運転資金不足を生じていた協業組合に対して10億円余りの貸付けを実行した行為は,副知事らにおいて,同組合の代表者らが事業計画に必要な自己資金を調達せずに増資を仮装するなどして県から貸付金を詐取していたことを知り,かつ,同組合の業績が悪化するばかりで回復の見込みがなく,新規貸付けを実行してもその償還可能性が極めて困難であることを認識していたこと,県が新規貸付金の担保として同組合から徴求した物件には担保価値がなかったにもかかわらず,他に貸付金の確実な回収のための適切な措置を講じていなかったこと,貸付けにかかる予算につき県議会の議決を経ていなかったことなどの事情の下では,背任罪に当たる。
(引用:高松高判平成17年7月12日|裁判所判例検索

臨時職員を不正に採用した行為

背任罪が成立するのは、財務会計上の行為だけではありません。

職員の任免についても、不正が発覚すれば、背任罪が成立する可能性があります。例えば、必要のない臨時職員を雇い、勤務実態がないのに賃金を支払い続けたとして、市の職員が背任罪で逮捕された事案があります。

このケースでは、議員からの情報公開請求で、臨時職員の不適切な雇用条件や賃金支払いが発覚しました。そして、議会の監査によって、手続上問題のある任用及び違法な支出、文書の作り直しが判明、市職員の略式起訴にいたりました。

◉事案の概要

本件は、業務委託先の突然の経営悪化により契約を解除したことに対処するため、臨時職員の運転手らに対し、市で雇用している他の運転手と比べて特殊な技能や免許資格を有する必要がないにも関わらず、基準として定められている賃金よりはるかに高い賃金が支払われていた。
議員の介入があったとはいえ、運転手確保という緊急性を加味しても不適切な雇用手続や賃金の支払いであり、市の対応には多大な問題があった。
さらに、臨時職員らの任用通知書、任用に関する起案等を改ざんし、改ざん前の関係書類を破棄している。これら関係書類の破棄の目的は証拠隠滅であり、公用文書毀棄罪に該当する恐れがあることが考えられる。

〜〜〜〜

今回の事件では、市職員が背任罪で逮捕されたことにより市民に疑念を抱かせ、市政の信頼を失墜させた。このようなことを二度と起こさないためにも、議員が職員に対し要望等を行った際の規定の遵守、徹底が必要であり、行政と議会は再発防止に努めなければならない。
(引用:公金支出及び公文書改ざん等調査特別委員会調査報告書(総括)|赤磐市議会

背任罪に関連する公務員特有の犯罪

公務員が背任罪を犯すと、一般の背任罪に加えて、公務員特有の犯罪も成立する可能性があります。ここでは、背任罪に関連した公務員特有の犯罪を4つ説明します。

背任罪と関連した公務員の犯罪

収賄罪など

収賄罪とは、公務員が職務に関連して賄賂を受け取った場合に成立する犯罪です。

公務員の立場や、不正な行為の目的、内容によって、様々な類型に分かれています。

賄賂は、金銭に限られず、飲食の接待や就職のあっせんなど、便宜を図るための様々な利益供与が含まれます。背任行為の見返りとして賄賂を受け取ると、背任罪と収賄罪の両方が成立してしまう可能性があるのです。

【収賄罪の類型】

罪名刑期成立するケース
単純収賄罪
(刑法197条1項前段)
5年以下の懲役公務員が、その職務に関して、賄賂を収受・要求・約束したとき
第三者供賄罪
(刑法197条の2)
5年以下の懲役公務員が、その職務に関し、請託を受けて、第三者に賄賂を供与させ、又はその供与の要求・約束をしたとき
事後収賄罪
(刑法197条の3第3項)
5年以下の懲役公務員であった者が、その在職中に請託を受けて職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受・要求・約束したとき
あっせん収賄罪
(刑法197条の4)
5年以下の懲役公務員が請託を受け、他の公務員に職務上不正な行為をさせるように、又は相当の行為をさせないようにあっせんをすること又はしたことの報酬として、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたとき

公務員職権濫用罪

公務員が職権を濫用して、国民に法的義務のないことを実行させたり、法的権利の行使を妨害すると、公務員職権濫用罪が成立します。例えば、裁判官が自分との交際を求めるために、女性の被告人に電話して喫茶店に呼び出すような行為が該当します。

背任行為の一環として、職権を濫用するようなケースでは、背任罪と公務員職権濫用罪の両方が成立する可能性があるでしょう。

(公務員職権濫用)第百九十三条 
公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したときは、二年以下の懲役又は禁錮に処する。(引用:e-Gov 法令検索

虚偽公文書作成等罪

虚偽公文書作成罪は、「公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は文書若しくは図画を変造したとき」に成立する犯罪です。

例えば、背任行為の一環として、虚偽の公文書を作成したり、公文書の改ざんを行う行為が該当します。

(虚偽公文書作成等)第百五十六条 
公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は文書若しくは図画を変造したときは、印章又は署名の有無により区別して、前二条の例による。(引用:e-Gov 法令検索

国家公務員法上の罰則

他にも、国家公務員法によって、公務員の不正行為に対する様々な罰則規定が定められています。

・職務上知り得た秘密の守秘義務違反
・不正行為の見返りとして退職後の就職あっせん など

これらのルールに違反すると、懲戒処分の対象となるだけではなく、3年以下の懲役刑に処せられる場合もあります。

公務員が背任罪になるとどうなる?

公務員が背任罪の容疑をかけられると、様々な不利益を被ることになります。

逮捕によって身体の自由を奪われ、社会的信用を失い、有罪判決を受ければ公務員としての地位も失ってしまいます。

公務員が背任罪になるリスクについて、詳しく見ていきましょう。

公務員が背任罪で逮捕されるリスク

逮捕されて、長期間拘束される

背任罪の容疑で逮捕されると、最大23日間の身体拘束を受ける可能性があります。

この間、警察・検察による厳しい取り調べが行われ、家族との面会も制限されるなど、肉体的・精神的に大きな負担を強いられることになります。

さらに、起訴されて裁判になれば、長期間にわたって公判に出廷しなければならず、拘束が長期化するリスクも生じてきます。逮捕は公務員の社会的信用を著しく損なう事態であり、不起訴で済んだとしても、その影響は計り知れません。

日常を守るためには、背任罪の嫌疑をかけられた時点で弁護士に依頼し、逮捕を阻止するための行動を起こすことが必要です。

実名で報道される

公務員が背任事件を起こすと、実名で報道されてしまう可能性が高いです。

公益に関わる立場として、国民やマスコミの注目を集めやすいためです。官公庁の職員だけでなく、独立行政法人、公立病院、特殊法人、公的組合など、公務員に準ずる立場の人も例外ではありません。一旦、実名報道されると、その情報はインターネット上に残り続けます。本人だけでなく、家族の生活にも大きな影響が生じてしまうでしょう。

実名報道を確実に防ぐ方法はありませんが、弁護士から報道機関に働きかけることはできます。また、事件が終結した後であれば、記事の削除を依頼して、将来への影響を抑えることも可能です。

禁錮以上の刑が確定すると、失職する

背任罪で禁錮以上の刑が確定すると、公務員としての身分を失ってしまいます。

これは国家公務員法で定められた当然失職事由に該当するからです。失職すると、公務員としての地位と職を失うだけでなく、退職金の支給も受けられなくなるなど、経済的にも大きな打撃を被ります(国家公務員法76条、38条1号)。

一旦、禁錮以上の刑が確定すると失職は避けられません。当然失職を防ぐには、不起訴処分となるか、判決で罰金刑を目指すしかないでしょう。

懲戒処分となる|停職・減給・戒告など

たとえ刑事処分が下されず、不起訴になったとしても、信用失墜行為として懲戒処分の対象となる可能性があります。

懲戒処分の種類には、重い順に、免職、停職、減給、戒告などがあります。背任罪のような重大な信用失墜行為の場合、免職となるケースが多く、その場合は退職金も支給されません。

また、停職や減給処分を受けた場合でも、昇給や昇進に大きな影響を及ぼすことになります。職場に居づらくなって、実質的に退職に追い込まれるケースも珍しくはありません。

公務員の背任罪で弁護士ができること

「背任罪となるような不正を犯してしまった」

「背任事件に巻き込まれてしまった」

こういった公務員の方は、すぐに弁護士に相談しましょう。

弁護士は、逮捕・起訴されたり、懲戒処分となったりすることを防ぐため、あなたの最大の味方として闘うことができます。

公務員の背任事件で、弁護士ができることを詳しく説明します。

公務員の背任罪で弁護士ができること

逮捕を回避、不起訴になるために、事実関係を調査する

弁護士は、あなたが逮捕・起訴されるのを防ぐため、背任事件の事実関係を徹底的に調査します。不正行為に及んだ理由、上司からの指示内容、決裁のプロセスなど、事案の詳細を明らかにして、誰にどのような責任があったのかを明確にしてくれるでしょう。

公務員の場合、ひとつの業務に、多くの職員が関与していることが少なくありません。担当者から係長、課長、次席、局長に至るまで、様々な立場の人間の決裁を経て、業務が施行されているケースが通常です。

個人の判断というより、組織としての意思決定があったことを立証できれば、担当者個人の責任を問うことは難しくなります。あなたにとって有利な事情を、説得力を持って説明できれば、あなたが刑事責任を問われるリスクは大幅に減少するでしょう。

刑を減軽して、懲戒免職を防ぐ

公務員の背任事件では、刑罰を減軽できるかどうかが極めて重要なポイントとなります。

禁錮以上の刑が確定すると、公務員は自動的に失職してしまうからです。「懲役」と「罰金」とでは、あなたの人生に及ぼす影響が全く異なるのです。弁護士は、あなたに有利な情状を訴えるため、あらゆる方面から、弁護活動を展開してくれます。

・あなたに有利な証言や証拠の収集する

・被告人のために酌むべき事情を主張する

・謝罪や反省の意思を示すための方策を考える

・再発防止策を検討する など

相談を受けるタイミングが早い程、効果的な方策の数も増えてきます。背任事件が人生に与える影響を最小限に抑えるためにも、早めに相談することをおすすめします。

懲戒処分に対する不服申立て、取消訴訟

背任事件を理由に懲戒処分を受けた場合、その内容に納得がいかないのであれば、不服申立てや取消訴訟を提起することもできます。

・処分の程度が重すぎる

・過去の事例と均衡が取れていない

・不起訴なのに免職になるのは不当だ 等

こういった主張が認められれば、処分の取り消しや変更を求めることができるのです。仮に「免職」になったのであれば、懲戒処分の内容が変更されると、退職金が支給される可能性も出てきます。

もちろん、不服申立てや取消訴訟を提起したからと言って、必ずしも認められるわけではありません。ただし、選択肢のひとつとして知っておいても損はないでしょう。

公務員の背任罪は、グラディアトル法律事務所へご相談ください

背任罪を疑われてしまった方は、私たちグラディアトル法律事務所へご相談ください。

弊所は、刑事事件を数多く取り扱っており、圧倒的なノウハウと実績を有している法律事務所です。これまでにも、難しい事件を数多くご相談いただき、ご依頼者様のために闘ってきました。

・それぞれ得意分野をもった13名の弁護士が在籍

・公務員の背任事件に強い弁護士が、豊富な解決実績を活かして、解決へと導く

・最短で即日、夜間・土日祝日もご相談可能

・刑事事件に強い弁護士事務所ならではの、充実の刑事弁護を提供

弊所では、刑事事件の豊富な経験を持つ弁護士が、24時間365日・全国相談受付可能な体制でご相談を承っています。ご相談者に寄り添い、ご相談者の立場やご事情にも配慮して、最善の解決方法をご提案させていただきます。

公務員の背任事件は、社会的に注目されることも多い犯罪です。

法定刑は重く、実刑判決となるリスクも低くはありません。だからこそ、刑事事件に強い弁護士に相談して、速やかに対処することが必要です。ご相談をいただくタイミングが遅くなるほど、対処法も少なくなってしまいます。

「刑事事件になるリスクがどの程度あるのか相談したい」
「自分が処分されることに納得がいかない」
「どうすればいいか、専門家からアドバイスをもらいたい」
「まずは話だけでも聞いて欲しい」

こういった相談だけでも構いません。

背任罪を起こしてしまったら、1人で抱え込まず、ぜひ私たちグラディアトル法律事務所へご相談ください。

まとめ

最後に、今回の記事のポイントをまとめます。

◉公務員にも「背任罪」は成立する

◉会計、人事、その他様々なケースで、背任罪が成立した事例がある

◉背任罪と関連した公務員特有の犯罪は次のとおり

・収賄罪
 (単純収賄、第三者供賄、事後収賄、あっせん収賄など)
・公務員職権濫用罪
・虚偽公文書作成罪
・国家公務員法上の罰則 など

◉公務員が背任罪となるリスク

・長期間の拘束や刑罰
・実名でのニュース報道
・失職、懲戒処分など

◉逮捕、起訴、懲戒処分を防ぐには、速やかに弁護士に相談が必要

◉背任罪で弁護士ができること

・逮捕、起訴を避けるための事実関係の調査、証拠収集
・刑を減軽、不起訴を獲得して、失職や懲戒処分を阻止する
・懲戒処分に対する不服申立て、取消訴訟 など

以上です。

背任罪を犯してしまった方は、この記事を読み終わったら、すぐに弁護士に相談して、逮捕を防ぐための行動を起こしましょう。

一刻も早く、事件が解決し、あなたの不安が解消されることを願っています。この記事が役に立った、参考になったと感じましたら、是非グラディアトル法律事務所にもご相談ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

お悩み別相談方法

弁護プラン一覧

よく読まれるキーワード