背任罪に関する著名判例3選と有罪・無罪になった判例を弁護士が解説

背任罪に関する著名判例3選と有罪・無罪になった判例を弁護士が解説
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弁護士 若林翔
2025年01月22日更新

「背任罪の判例にはどのようなものがある?」

「背任罪で有罪・無罪になった判例を知りたい」

「背任罪の量刑相場はどうなっているの?」

背任罪とは他人の事務を処理する者が自己もしくは第三者の理系を図り、または本人に損害を与える目的で、任務に背く行為をして、本人に財産上の損害を与えることで成立する犯罪です。

日産自動車の前会長であるカルロス・ゴーン氏の事件や日本大学の前理事の事件など世間を騒がせる事件も多く存在しますが、一般の方にはあまり馴染みのない犯罪かもしれません。

背任罪がどのような犯罪であるかを理解するには、実際の判例をみてみるのが有効です。判例による判断内容を見ることで背任罪がどのような場合に成立する犯罪なのかを具体的にイメージすることができるでしょう。

本記事では、

・背任罪に関する著名判例3選
・背任罪で有罪および無罪になった判例の紹介
・判例から見る背任罪の起訴率

などについてわかりやすく解説します。

背任罪を犯してしまったときは弁護士のサポートが不可欠になりますので、できるだけ早く弁護士に相談するようにしましょう。

背任罪に関する著名判例3選

背任罪に関する著名判例3選

背任罪の構成要件を理解するには、過去の著名判例を理解しておくことが大切です。以下では、背任罪に関する著名判例3選を紹介します。

背任罪と業務上横領罪の区別|最高裁昭和33年10月10日判決

背任罪と横領罪は、成立要件が似ているため、その区別がしばしば問題になります。一般的には、自己の名義・計算で行われた場合が横領罪、被害者の名義・計算で行われた場合が背任罪になるといわれています。

・名義:処分行為の当事者がどのような外観であったか

・計算:処分行為の法律的・経済的効果がどちらに帰属するのか

背任罪と業務上横領罪の区別が問題となった事案について、裁判所は、以下のように判示しています。

信用組合の支店長等が、支店の預金成績の向上を装うため、勧誘に応じた一部預金者に対し、正規の利息のほかに多額の金員を自己の業務上保管する組合の金員中から預金謝礼金名下に勝手に支出交付し、同謝礼金を補填するため、正規に融資を受ける資格のない者に対し、前同様組合の金員を貸付名下に高利をもつて勝手に支出交付したときは、それが自己の計算においてなされたものである限り、いずれも業務上横領罪を構成する。

この事案は、経済的利益の帰属主体が信用組合ではなく被告人であることから、被告人の計算によりなされたものであるとして業務上横領罪の成立を認めました。

補助者・代行者にも背任罪が成立|最高裁昭和60年4月3日決定

背任罪は、他人のために事務を処理している人に限って成立する犯罪です。このような一定の身分が必要な犯罪のことを「身分犯」といいますが、独立して委任事務を処理する者だけでなく、補助者・代行者として事務処理を行う者も含まれるのかが問題になります。

補助者・代行者による背任罪の成否が問題となった事案について、裁判所は、以下のように判示しています。

信用組合の専務理事である被告人が、自ら所管する貸付事務について、貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら、無担保あるいは不十分な担保で貸付を実行する手続をとつた本件行為は、それが決裁権を有する理事長の決定・指示によるものであり、被告人がその貸付について理事長に対し反対意見を具申したという事情があつたとしても、背任罪にいわゆる任務違背の行為に当たる。

このように決裁権を有する組合理事長の決定・指示に従って貸付を行った専務理事についても背任罪の成立が認められましたので、補助者・代行者であっても背任罪の行為者に該当することになります。

図利加害目的と本人の利益を図る目的が併存|最高裁昭和63年11月21日決定

図利加害目的とは、「自己または第三者の利益を図る目的」(図利目的)と「本人に損害を加える目的」(加害目的)の2つを指す言葉で、背任罪の成立には行為者にどちらかの目的があることが必要です。

このような図利加害目的と本人の利益を図る目的が併存している場合でも背任罪が成立するかが問題になった事案について、裁判所は、以下のように判示しています。

特別背任罪における図利加害目的の存在を肯認するには、図利加害の意欲ないし積極的認容までを要するものではない。

すなわち、図利加害目的と本人の利益を図る目的が併存している場合、どちらが主たる目的であるかで背任罪の成否を決するのが判例の立場です。

背任罪が成立する4つの構成要件|具体的な事例や対処法を解説

背任罪で有罪になった判例

背任罪で有罪になった判例

背任罪で有罪になった判例としては、以下のようなものが挙げられます。

東京地裁令和4年10月6日判決|懲役2年6か月、執行猶予4年

被告人は、学校法人A大学が医療機器等の発注先の選定、仕様および価格の適正等を確保するための助言等のコンサルティング業務を行うに際し、A大学に不必要な債務を負担させることを避けるなどして誠実に職務を遂行すべき任務があるにもかかわらず、本来調達経路として介在させる必要がない会社を介在させ、不必要な納入費用として合計約1億9800万円余りにも上る損害を与えたという事案について、懲役2年6月・執行猶予4年の有罪判決が言い渡されました。

この事案では、被害額が合計約1億9800万円と高額で、被告人自身で具体的なスキームを立案実行し、重要な役割を果たしているものの、コンサルティング契約に基づき経営改善に向けて一定の成果を上げていること、前科前歴がないこと、監督者がいることなどの理由から執行猶予付きの判決となりました。

大阪地裁令和3年8月4日判決|懲役3年

被告人は、A社の開発推進担当課長として、A社が発注するプログラム作成等の業務の発注先業者の選定や業務委託の代金額交渉などを統括し、A社に無用な支出等により損失が生じないよう誠実に職務を遂行すべき任務があるにもかかわらず、自己の利益を図る目的で、発注先業者に正規に支払うべき代金に自己の利益分を加算させた契約を締結し、A社に合計約2億1500万円余りにも上る損害を与えたという事案について、懲役3年の実刑判決が言い渡されました。

この事案では、被害金額が合計約2億1500万円余りと極めて高額で、契約金額の相当部分が不正な上乗せ金額が占めるなど背任の中でも悪質性の高い部類にあたると評価され、前科前歴がなく、一部被害弁償もなされているものの実刑判決となりました。

背任罪で無罪になった判例

背任罪で無罪になった判例

背任罪で無罪になった判例としては、以下のようなものが挙げられます。

佐賀地裁平成16年3月12日判決

【事案の概要】

被告人は、組合代表理事組合長として、組合の資金の貸付け等に関する業務を統括掌理する立場にあり、貸付金の回収を確実にするため十分な物的担保を徴するなど誠実に貸付業務を処理すべき任務があるにもかかわらず、返済能力に乏しく十分な担保がない組合員に対して、担保を著しく課題に評価して1億800万円を貸付、回収を困難にしたという事案です

【裁判所の判断】

裁判所は、被告人に本件貸付が任務違背行為に当たる旨の認識があったと認めるには合理的な疑いが存し、本件貸付に関し自己または第三者の利益を図る目的を有していたとも認定できないとして、被告人に対して無罪判決を言い渡しました。

熊本地裁昭和39年6月26日判決

【事案の概要】

被告人Aは、機帆船輸送協同組合の理事兼経理係として同組合の一切の事務を処理しており、被告人Bは、同組合の監事および別の会社(C)の代表取締役であるところ、資金繰りに窮したC社に同組合から融通手形の貸付をして急場を切り抜けようと企て、額面合計約500万円の融通手形を振り出し、組合に支払い義務を負担させたという事案です。

【裁判所の判断】

裁判所は、機帆船輸送協同組合の理事が、組合定款に違反し組合員以外の第三者に融通手形を発行し貸付けても、組合も右第三者から融通手形を借受けるなどの恩恵を受けているような事情があるときは、右融通手形の振出をもって直ちに任務に背いたものということはできないとして、被告人AおよびBに対して無罪判決を言い渡しました。

判例から見る背任罪の起訴率は約34%

判例から見る背任罪の起訴率は約34%

2023年検察統計によると、背任罪で起訴・不起訴のなった事件の内訳は以下のようになっています。

起訴不起訴
公判請求略式命令請求
47件4件99件

これによると背任罪の起訴率は約34%になります。刑法犯全体の起訴率が約37%ですので、背任罪の起訴率は、刑法犯全体とほぼ同水準といえるでしょう。

背任罪の法定刑は、5年以下の懲役または50万円以下の罰金と定められており、略式命令請求も可能な犯罪ですが、被害額が高額になるケースも多いため、起訴された事件の約92%が公判請求となっています。

背任罪の弁護はグラディアトル法律事務所にお任せください

背任罪の弁護はグラディアトル法律事務所にお任せください

背任罪は、会社の業務において不正な行為を行い、会社に損害を与える犯罪になりますので、その性質上、被害額も高額になる傾向があります。今回紹介した判例でも前科前歴がない被告人が執行猶予の付かない実刑判決になったものがあるように、悪質な事案だと初犯でも実刑になる可能性が十分にあります。

このような事案において少しでも有利な処分を獲得したいと考えるなら、刑事事件に強い弁護士によるサポートが不可欠になりますので、まずはグラディアトル法律事務所までご相談ください。

当事務所では、刑事事件に関する豊富な経験と実績がありますので、背任罪の弁護についても具体的な状況に応じた最善の弁護活動を行うことが可能です。特に、背任罪では被害者との示談が重要なポイントになりますが、当事務所では被害者との示談交渉も得意としていますので、どうぞ安心してお任せください。

当事務所では、相談は24時間365日受け付けておりますので、早朝・夜間や土日祝日であっても関係なく対応可能です。また、初回法律相談を無料で対応していますので、まずは相談だけでも結構です。

刑事事件は、スピード勝負と言われるように迅速な対応が重要になりますので、少しでも早く弁護活動に着手するためにもまずは当事務所までお問い合わせください。

まとめ

背任事件を起こしてしまったとしても、刑事事件に精通した弁護士に依頼することで、最終的な処分を軽くできる可能性や不起訴処分を獲得できる可能性を高めることができます。

背任事件を起こしてしまった方は、刑事事件に注力するグラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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