「痴漢の判例ではどのような判断がされているのか知りたい」
「痴漢で有罪・無罪になった判例にはどのようなものがあるの?」
「痴漢冤罪で無罪を獲得するポイントを知りたい」
痴漢事件の犯人であるとして起訴されると刑事裁判で審理がなされます。検察官により起訴された事件は、99%以上の割合で有罪となってしまいますが、痴漢冤罪であるとして無罪になった判例も存在しています。
痴漢をしてしまった場合には、素直に認めて反省の態度を示すことが重要ですが、痴漢冤罪の場合には、無罪となった判例のポイントを踏まえて徹底的に争っていくことが必要です。
本記事では、
・痴漢事件で有罪となった判例
・痴漢事件で無罪となった判例
・判例からみる痴漢冤罪で無罪を獲得する6つのポイント
などについてわかりやすく解説します。
痴漢冤罪を争うためには刑事事件に詳しい弁護士のサポートが必要になりますので、痴漢の嫌疑をかけられたときはすぐに弁護士に相談するようにしましょう。
目次
痴漢事件で有罪となった判例
以下では、痴漢事件で有罪になった判例を紹介します。
東京地裁令和元年6月17日判決|迷惑防止条例違反|懲役10月執行猶予3年
裁判所は、被告人が電車内で被害者の胸元付近を直接手でなでるという迷惑防止条例違反の事案について、懲役4月の有罪判決を言い渡しました。
本件では、被告人は犯行を否認していましたが、以下のような理由で有罪を認定しています。
・被害者の供述には具体性があり、被害申告段階から一貫している上に、防犯カメラ映像とも整合している。また勘違いや記憶違いの可能性は乏しく、虚偽供述をする動機もうかがわれないため、被害者供述の信用性は高い
【量刑の理由】
被告人は、過去に一人暮らしの女性が就寝する部屋に侵入したという住居侵入の罪で懲役10月、執行猶予3年の判決を宣告されており、その後児童買春の罪で罰金刑に処せられていました。
本件は執行猶予期間中の痴漢行為であったため、迷惑防止条例違反の事案でしたが執行猶予の付かない実刑判決となりました。
東京地裁令和4年8月1日判決|迷惑防止条例違反|懲役1年
裁判所は、被告人が電車内において隣に座っていた被害者のスカートの上から大腿部を触った上、スカート内に手を差し入れて大腿部を直接触ったという迷惑防止条例違反の事案について、懲役1年の有罪判決を言い渡しました。
【量刑の理由】
被告人には、電車内で痴漢をした迷惑防止条例違反の罪による懲役前科4犯があり、いずれについても実際に服役をしていました。罪の重さを自覚する機会を複数回与えられたにもかかわらず、本件犯行に及んだものであるため、痴漢行為の常習性が明らかであり、強い非難に値します。
そのため、迷惑防止条例違反の事案でしたが、執行猶予の付かない実刑判決となりました。
さいたま地裁平成20年9月29日判決|強制わいせつ|懲役2年執行猶予4年
裁判所は、被告人が電車内において被害者の背後からスカート内に手を入れ、下着をめくりあげ、被害者の臀部を直接撫でまわしたという強制わいせつの事案について、懲役2年、執行猶予4年の有罪判決を言い渡しました。
本件では、被告人は犯行を否認していましたが、以下のような理由で有罪を認定しています。
・被害者の証言は、極めて詳細、具体的であり、経験した者ならではの迫真性が認められる。また、供述の核心部分については弁護人の反対尋問にもまったく揺らぐことがなく、供述態度には真摯なものがある。さらに被害者の証言は、現場にたまたま居合わせた第三者の証言とも合致しており、被害者供述の信用性は高い
【量刑の理由】
本件は、強制わいせつの事案であり、犯行態様は非常に悪質といえます。また、被告人は終始犯行を否認しており、反省の態度を示していません。しかし、被告人には前科前歴はなく、扶養すべき妻子がいて、真面目に稼働しているなどの事情も考慮された結果、執行猶予付きの有罪判決となりました。
痴漢事件で無罪となった判例
以下では、痴漢事件で無罪となった判例を紹介します。
満員電車内での痴漢行為が無罪になった判例|最高裁平成21年4月14日判決
裁判所は、被告人が満員電車内で女子高生に対して執拗な痴漢行為をしたとして起訴された事案について、無罪判決を言い渡しました。
【判断のポイント】
・被告人は、捜査段階から一貫して犯行を否認しており、公訴事実を基礎づける証拠は被害者の供述があるのみであり、物的証拠などの客観的証拠は存在しない。
・被告人は、本件当時60歳であったが前科、前歴はなく、この種の犯行を行うような性向をうかがわせる事情も見当たらない。
・被害者の供述内容には不自然なところがあり、供述の信用性について疑いをいれる余地があることは否定し難い。
2人の女子高生への痴漢行為が無罪になった判例|大阪地裁平成20年9月1日判決
裁判所は、被告人が電車内において同一時間帯に2人の女子高生に対して痴漢行為をしたとして起訴された事案について、いずれも無罪判決を言い渡しました。
【判断のポイント】
・被害者Aについては、被告人の右肘が被害者Aの胸に当たったことは認められるものの、電車内の状況、被告人と被害者Aの位置関係などからして、被告人に故意があったと認めるには合理的な疑いが残るとし、無罪としました
・被害者Bについては、被害者Bが痴漢被害を受けた事実は認められるものの、被害者Bの供述からは被告人以外の人が痴漢行為をした可能性を排除することができないため、犯人性が否定されて無罪となりました。
バス車内での痴漢行為が無罪になった判例|神戸地裁平成28年6月20日判決
裁判所は、被告人がバスの車内において隣に座っていた被害者の大腿部をタイツの上から触ったとして起訴された事案について、無罪判決を言い渡しました。
【判断のポイント】
・被害者の行動には、証拠として痴漢の現場を確認しようとして注視していたにしては不自然な点が複数あり、現場を確認しようとして被告人の方を中止していたという被害者の証言の信用性には疑問がある。
・被害者は、反対尋問において被害の具体的内容に関する証言に変遷が生じていて、このような供述の変遷は不自然なものといえる。
・犯行を否認する被告人の供述には特に不自然なところはない。
・被告人の手や荷物が被害者の身体に偶然触れたのを被害者が故意に触られたと勘違いした可能性が否定できない。
判例からみる痴漢冤罪で無罪を獲得する6つのポイント
痴漢事件は、客観的証拠がほとんどなく被害者の供述に基づいて有罪認定が行われるケースが多いです。そのため、痴漢冤罪で無罪を獲得するには被害者供述の信用性に疑いを生じさせることがポイントとなります。その際の重要になるポイントとしては、以下の6つが挙げられます。
詳細で具体的であるか
痴漢の被害に遭った被害者であれば、痴漢の被害状況を詳細かつ具体的に説明することができるはずです。それにもかかわらず、被害状況の説明が一般的かつ抽象的なものにとどまっている場合には被害者供述の信用性を否定する要素の一つとなります。
臨場感があり迫真性があるか
痴漢被害に遭った被害者であれば、身体が受けた感触や心の動きを供述する部分については、経験した者ならではの臨場感や迫真性が認められるはずです。
誰でも表現できるような内容の供述に終始しているような場合には、本当に被害に遭ったのかどうか疑いが生じますので、被害者供述の信用性を否定する要素となります。
被告人を陥れるために虚偽申告をする動機があるか
被害者供述の信用性を判断するにあたっては、被害者と被告人との関係性も考慮に入れる必要があります。
被害者が被告人と面識があり、何らかの不満や恨みを抱いている場合には、虚偽供述により被告人を陥れる動機がありますので、供述の信用性にも疑問が生じることになります。
供述内容に不合理・不自然な点がないか
供述内容が詳細で具体的で、臨場感・迫真性があったとしても、供述全体を見たときに不合理・不自然な点がないかも重要な判断要素となります。
被害者が真に体験していないことを供述する場合には、不合理・不自然な供述にならざるを得ません。特に、供述の核心部分について不合理・不自然な点があると、供述の信用性に疑いが生じることになるでしょう。
経験則に背反していないか
供述内容が経験則や論理側などに背反している場合には、供述の信用性に疑問が生じることになります。
たとえば、電車内での痴漢の被害に遭った場合、痴漢をされている間は恐怖心もあり抵抗できないこともあるかもしれませんが、痴漢行為が終わった後も犯人とされる人から離れず、その場に居続けるなどの行為は、被害者として不自然な行動といえるでしょう。このような場合には、経験側に反して供述の信用性に疑いを生じさせることになります。
主観的確信に満ちているか
被害者の供述態度も供述の信用性を判断する要素の一つとなります。自分の証言内容に自信がないような態度で証言をしている場合には、信用性に疑問を生じさせる要素になり得ます。
痴漢冤罪事件で不起訴・無罪を獲得した当事務所の事例
当事務所では痴漢事件を数多く扱っております。以下では、当事務所が痴漢冤罪事件で不起訴または無罪を獲得した実際の事例を紹介します。
電車内での痴漢冤罪で逮捕されたものの不起訴となった事例
【事案の概要】
Xさんは通勤途中に電車内で痴漢をしたとして逮捕されてしまいました。
逮捕されてしまったXさんの家族から相談・依頼を受けて、当事務所の弁護士が逮捕当日に警察署に赴き、接見を行ったところ、Xさんは「痴漢行為はしていない、冤罪だ」として無罪を訴えていました。
その後、弁護士が詳細な事実について聞き取りました。
・電車に乗っていたときの状況
・被害者とされる女性との位置関係
・被疑者の手の位置
・その女性から手を掴まれた前後の状況
・逮捕されてしまうまでの経緯
・繊維鑑定の有無
その結果、担当弁護士としても本件が冤罪事件であるとの確信を抱いたため、ご本人と相談し、今後の方針として否認していくことになりました。
【弁護活動】
取調べでは、警察からの誘導で間違った事実を調書に取られないよう助言をし、黙秘権や調書への署名を拒否する権利などがあることを伝えました。
検察と裁判所に対し、本件は勾留すべき事案でないことを主張していく必要があります。
また、逮捕後勾留請求をされると、最大で20日間もの身柄拘束をされてしまいますので、担当弁護士としては勾留請求の阻止に向けた活動を開始しました。
具体的には、
・被疑者に前科前歴がないこと
・逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがないこと
・勾留の必要性がないこと
などを具体的に記載した意見書を作成し、ご本人の誓約書、両親の身元引受書を添付して、検察庁へ提出をしました。
しかし、残念ながら検察官からは勾留請求をされてしまいました。
もっとも、その後、迅速に裁判所へ同様に意見書等を提出し、弁護人は裁判官と面談をし、本件は勾留すべき事案ではないと強く伝えました。
その結果、裁判所は勾留すべきではないと判断し、勾留請求が却下され、本人は無事に釈放されました。
釈放後、弁護人は検察官に対して本件は冤罪であり、不起訴にすべきである旨の意見書を提出し、最終的に、検察官としても冤罪の疑いがあるとのことで不起訴処分となりました。
路上痴漢で逮捕されるも不起訴処分となった事例
【事案の概要】
Xさんは、お酒をたくさん飲み、酷く酔った状態で東京の繁華街を歩いていました。酩酊状態にあるXさんは、道端で知らない女性の身体を触るなどの痴漢行為をしてしまい、その場で警察を呼ばれ逮捕されてしまいました。
Xさんは、その後すぐに釈放されたものの、起訴される可能性もあったことから当事務所に相談し、正式にご依頼いただくことになりました。
【弁護活動】
担当弁護士はすぐに検察官に連絡をして示談したい旨などを伝えました。
その結果、検察官から被害者の連絡先を教えてもらい、被害者の方に連絡をとりましたが、被害者の方は、「Xさんに反省の様子がなかった」と大変ご立腹でした。
このままでは示談の成立は困難であると考え、Xさんが反省していることを示すために、担当弁護士からXさんの反省の気持ちを伝えるとともに、謝罪文をお渡ししました。
その結果、被害者の方にXさんの反省の気持ちが伝わり、示談金20万円で示談を成立させることができました。
示談成立後は、ご依頼者様の反省文と謝罪文、示談成立の合意書を捜査機関に提出し、無事に不起訴処分となりました。
痴漢事件の対応はグラディアトル法律事務所へ
痴漢行為をしてしまった場合、何もしなければ逮捕・起訴されるリスクがあります。このようなリスクを回避するには被害者との示談が重要になります。
グラディアトル法律事務所では、痴漢事件に関する弁護の豊富な実績と経験がありますので、示談交渉のポイントを熟知しています。経験豊富な弁護士が示談交渉を担当することで、被害者との示談成立の可能性は高くなるでしょう。
また、当事務所では痴漢冤罪事件で不起訴処分を獲得した実績もありますので、痴漢をしていないにもかかわらず痴漢の嫌疑をかけられてしまったという方も、ぜひご相談ください。
痴漢事件の弁護はスピードが大事ですので、痴漢の嫌疑をかけられたときはすぐに当事務所までご相談ください。
まとめ
痴漢行為をしてしまったときは、すぐに被害者と示談交渉を始めなければ、起訴されて前科が付いてしまうリスクがあります。また、痴漢冤罪事件については痴漢事件に強い弁護士のサポートがなければ無罪を争っていくのは困難です。
グラディアトル法律事務所では痴漢事件に関する豊富な経験と実績がありますので、まずは当事務所までお気軽にご相談にお越しください。