体罰で暴行罪・傷害罪は成立し得る|教育との境目・和解策について解説

体罰で暴行罪・傷害罪は成立し得る|教育行為の範囲・和解策について解説
弁護士 若林翔
2024年07月29日更新

「生徒に暴力を振るってしまった。体罰になる?」

「教育行為と体罰のボーダーラインは?」

「暴行罪(傷害罪)で訴えられた場合の解決策は?」

教職員の立場で生徒に対し体罰を行った場合、懲戒処分や懲戒免職(=解雇)を受けるだけでなく、暴行罪や傷害罪が成立する可能性があります。

暴行罪は、「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」、傷害罪は、「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」とそれぞれ定められており、体罰の態様によっては、懲役刑になる(=前科が付く)可能性も十分にあります。

一方で、学校教育法11条には、以下のような規定があります。

第十一条 校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。

この条文を要約すると、「懲戒の範囲内であれば体罰に当たらない」ことを意味しています。

体罰と懲戒(=教育行為)のボーダーラインはどこにあるのか、そして、体罰で訴えられた場合はどのような行動を起こすべきなのか。

当記事を簡単にまとめますと、

  • ・体罰で暴行罪・傷害罪は成立し得る|成立要件は4つ
  • ・体罰で暴行罪・傷害罪が成立するケースは「身体的暴力」「精神的暴力」の2種類
  • ・体罰に当たらないケースは「正当(業務)行為」「正当防衛」の2つ
  • ・体罰に関連するその他の犯罪として「侮辱罪」「強要罪(脅迫罪)」がある
  • ・逮捕回避や不起訴処分には被害者との示談が重要
  • ・自力交渉は困難|弁護士に依頼するメリットは2つ

といったことが分かります。

詳しくは、以下で深掘りしていきます。

体罰で暴行罪・傷害罪は成立し得る|成立要件と罰則について

体罰で暴行罪・傷害罪は成立し得る|成立要件と罰則について

体罰を行った場合、暴行罪や傷害罪が成立する可能性があります。

また、暴行罪と傷害罪は成立要件が似ていますが、

  • ・暴力行為を行ったが、怪我には至っていない→暴行罪が成立
  • ・暴力行為の結果、怪我を負わせた→傷害罪が成立

というように、「怪我を負ったかどうか」がボーダーラインとなります。

一方で、罰則については、

  • ・暴行罪→2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料(刑法208条)
  • ・傷害罪→15年以下の懲役又は50万円以下の罰金(刑法204条)

このように明確な量刑の差があります。

もし、体罰で傷害罪が成立した場合は、最高で15年の懲役刑に処される場合もあるということは、覚えておきましょう。

以下では、暴行罪・傷害罪の成立要件について深掘りします。

【成立要件1】殴るなどの「実行」行為がある

暴行罪・傷害罪の成立要件の一つとして、暴力の「実行」行為の有無が焦点になります。

暴力の「実行」行為の具体例は、以下の通りです。

~直接的・接触的な暴力~

  • ・殴る、蹴る
  • ・胸倉を掴む、押し倒す
  • ・叩く(拳骨や平手打ちなど)
  • ・凶器を振り回す
  • ・物を投げる
  • ・髪を切る

~間接的・非接触的な暴力~

  • ・怒鳴る
  • ・無視する
  • ・ストーカー行為
  • ・耳元で大声で叫ぶ
  • ・光で目を眩ませる

このように、殴る・蹴るなどの直接的な暴力だけでなく、嫌がらせなどによる間接的な行為も、暴力の「実行」行為として成立する可能性があります。

【成立要件2】傷害の結果がある

冒頭でもお伝えした通り、傷害の結果、いわゆる怪我を負わせたかどうかが、暴行罪と傷害罪のボーダーラインとなります。

傷害の結果について、先ほどの具体例に当てはめてみると、

  • ・相手を殴り、打撲傷を負わせた
  • ・胸倉を掴んで押し倒し、打撲傷や内出血を負わせた
  • ・顔面に平手打ちをして、鼻血が出た
  • ・何度も怒鳴りつけて、うつ病にさせた
  • ・ストーカー行為を繰り返し、PTSDを負わせた
  • ・光で目を眩ませ、視力を低下させた

このように、「実行」行為に合わせ傷害の結果も伴った場合は、傷害罪が成立します。

一方で、傷害の結果まで至らず、「実行」行為のみだった場合は、暴行罪の可能性が高いため、量刑においても大きな差が出ることになるでしょう。

【成立要件3】「実行」行為と傷害の結果に因果関係がある

「実行」行為との因果関係も、重要な成立要件の一つです。

因果関係の有無について、以下のケースを見てみましょう。

因果関係が認められるケース

AがBの胸倉を掴んで押し倒した。Bは受け身を取ることができず、手から地面に付いてしまい、結果、手首を骨折してしまった。

このケースでは、Aの暴力行為が起因して、手首骨折の結果が生じていますので、「実行」行為との因果関係が認められます。

一方で、

因果関係が認められないケース~

AがBの胸倉を掴んで押し倒した。Bは倒れこんだが、怪我には至らなかった。お互い別れた後、Bは階段で躓き転倒。結果、手首を骨折した。

AはBの胸倉を掴んで押し倒す暴力行為に及んでいますが、結果、怪我には至っていません。その後、Bは階段で転倒し怪我をしましたが、Aの暴力行為が起因しているわけではないので、因果関係は認められない(=傷害罪は成立しない)ということになります。

ただし、胸倉を掴んで押し倒した行為は認められますので、暴行罪が成立する可能性は高いと言えるでしょう。

【成立要件4】故意が認められる

「実行」行為が故意なのか、過失なのかも重要な要件の一つです。

故意とは、「わざと・意図的に」という意味で、結果を認識していながら、暴力行為に及べば暴行罪・傷害罪成立の可能性は高まります。

一方で、過失は「偶発的・不注意」という意味で、意図せず発生してしまった結果については、暴行罪・傷害罪が成立する可能性は低いです。

過失の具体例として、

  • ・たまたま肩がぶつかった
  • ・ストレッチをしようと手を振り上げたら、相手に接触した
  • ・キャッチボールをしていたら、相手の捕球ミスで顔面に直撃した
  • ・サッカーをしていて、蹴ったボールが相手に当たった

といった行為が挙げられます。

ただし、過失であっても相手が怪我をした場合は、過失傷害罪が成立する可能性がありますので、覚えておきましょう。

【暴行罪】3つの成立要件と罰則が重くなる4つのパターン

傷害罪の成立要件とは?傷害罪が成立する具体的なケースを解説

違法な体罰と適法な懲戒(=教育行為)の違い

体罰と懲戒(=教育行為)の違いについて解説しますと、文部科学省では、以下のように定義しています。

(1)教員等が児童生徒に対して行った懲戒行為が体罰に当たるかどうかは、当該児童生徒の年齢、健康、心身の発達状況、当該行為が行われた場所的及び時間的環境、懲戒の態様等の諸条件を総合的に考え、個々の事案ごとに判断する必要がある。この際、単に、懲戒行為をした教員等や、懲戒行為を受けた児童生徒・保護者の主観のみにより判断するのではなく、諸条件を客観的に考慮して判断すべきである。

(2)(1)により、その懲戒の内容が身体的性質のもの、すなわち、身体に対する侵害を内容とするもの(殴る、蹴る等)、児童生徒に肉体的苦痛を与えるようなもの(正座・直立等特定の姿勢を長時間にわたって保持させる等)に当たると判断された場合は、体罰に該当する。

参照:文部科学省HPより

要約すると、「身体的な暴力行為で肉体的苦痛を与えるようなもの」は体罰に該当するということになります。

他方、「精神的苦痛を与える暴力行為など、上記以外の行為について、体罰か懲戒かの区別は、児童の年齢等の事情、行為の態様や内容など、その時の状況に応じて個別に判断することになります。

体罰で暴行罪・傷害罪が成立するケース

体罰で暴行罪・傷害罪が成立するケース

殴る・蹴るなどの身体的な暴力行為

前述の通り、殴る・蹴るなどの身体的な暴力行為は、体罰の定義に当てはまり、暴行罪・傷害罪成立の可能性もあります。

具体例として、

  • ・言うことを聞かない生徒に対して、平手打ちをした
  • ・部活動でミスを連発する生徒に対し、指導と称して殴る・蹴るなどの暴行を行った
  • ・「髪を切ってこい」という言いつけを守らなかった生徒に対し、自前のバリカンで丸坊主にした
  • ・授業態度が悪い生徒に対し、チョークを投げた
  • ・風邪であることを隠し授業を行い、結果、複数の生徒に風邪を移した
  • ・宿題を忘れた生徒に対し、廊下で立ってることを言いつけ、そのままの姿勢を長時間保持させた

といった行為が挙げられます。

また、上記の行為に合わせて、怪我を負わせた場合は傷害罪が成立します。

嫌がらせによる精神的な暴力行為

体罰は「身体的な暴力行為」と定義していますが、精神的に追い詰める行為や、うつ病やPTSDといった精神的な病気を負わせた場合は、体罰より重い罰として、暴行罪・傷害罪の罪に問われることになります。

具体例として、

  • ・部活動の顧問の立場で、数々の暴言を浴びせ、結果、生徒はうつ病に陥った
  • ・気に入った生徒に対しストーカー行為を繰り返し、その生徒はPTSDを発症した
  • ・宿題を忘れた生徒に対し、その生徒だけを隔離し、別の教室で学習するよう指示した

といった行為が挙げられます。

また、精神的暴力の観点で“言葉の暴力”も度々焦点になりますが、実際のところ、言葉の暴力だけで体罰やその他犯罪として立件されることは稀です。

ですが、東京都教育委員会の定める「体罰関連のガイドライン」において、言葉の暴力は「不適切な行為」として定められており、実際に、2021年3月、小学3年生の児童に対し暴言を浴びせた教諭が、6か月の減給処分を受けたという実例もあります。

そのことからも言えるように、例え体罰に当たらない行為についても、被害者の受け取り次第では、懲戒処分(免職)の可能性、そして暴行罪・傷害罪に発展する可能性もあることを念頭に置くようにしましょう。

体罰や傷害罪・暴行罪には当たらないケース

原則として、身体的・肉体的苦痛を伴う暴力行為は体罰になりますが、以下の行為は体罰に当たらないとされています。

体罰や傷害罪・暴行罪には当たらないケース

教育のための懲戒の範囲(正当業務行為)である場合

教育を目的とした正当業務行為については、刑法35条で定める違法性阻却事由に当てはまりますので、体罰にはなりません。

具体例として、

  • ・生徒間による暴力行為を発見したので、力づくで引き離した
  • ・屋上で飛び降りようとしていた生徒を、抱き着いて止めた
  • ・宿題をやってこなかった生徒を居残りさせる
  • ・音楽の授業で、上手な一人を指名して、皆の前で歌わせた
  • ・部活動で問題行動を起こした生徒を、レギュラーから除外した

といった行為が挙げられます。

ただし、上記のような正当業務行為であっても、状況が違えば、体罰やその他犯罪になる可能性もありますので、注意が必要です。

正当防衛にあたる場合

正当防衛は、刑法36条で定める違法性阻却事由に当てはまりますので、体罰にはなりません。

具体例として、

  • ・殴りかかってきた生徒を押さえつけた
  • ・突然蹴ってきた生徒に対し、静止目的のために、背後からきつく押さえた
  • ・授業中に反抗的な態度を取った生徒に対し、一度は注意したものの、逆上して教卓を蹴ってきたので、手を引っ張り、職員室に連行した

といった行為が挙げられます。

ですが、正当行為が行き過ぎれば、過剰防衛と判断される場合もあります。

例えば、殴りかかってきた生徒に対し、反撃のため殴り返した、というケースは過剰防衛と判断される可能性が高いので、加減の注意が必要です。

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※過剰防衛とは?

過剰防衛とは、正当行為の要件の内、「防衛の相当性」が認められないことで成立します。

防衛の相当性について、先ほどのケースに当てはめると、殴りかかってきた生徒に対する防衛の相当性は「押さえつける」行為が妥当と言えますので、この場合は正当防衛が認められます。

ですが、反撃で殴り返す行為については、防衛の相当性が認められない、すなわち「防衛の限度を超えた行為(=過剰防衛)」になりますので、違法性阻却事由は認められないということになります。

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体罰に関連する暴行罪・傷害罪以外の犯罪

体罰で成立するのは暴行罪や傷害罪だけではありません。

関連する犯罪については、以下の通りです。

体罰に関連する暴行罪・傷害罪以外の犯罪

侮辱罪

侮辱罪は、事実の適示をせず(=抽象的な発言)、公然と人を侮辱した場合に成立する犯罪です。

具体例として、

  • ・他の生徒がいる教室内で、「バカ」「クズ」と罵った
  • ・SNSで、「○○(被害者の氏名)はバカで救いようがない」と投稿した

といった言動が挙げられます。

刑罰は、「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料(刑法231条)」が科されます。

強要罪

強要罪は、生命・身体・自由・名誉・財産に対し、害を加える旨を告知し、義務のない行為の強要、権利の行使の妨害をした場合に成立する犯罪です。

具体例として、

  • ・生徒に対し「言うことを聞かないと殺すぞ」と脅し、行動を強要した
  • ・部活動の顧問の立場で、「○○のせいで試合に負けた。土下座しろ」と言い、土下座させた
  • ・体調不良で早退を希望した生徒に対し、「もし早退したら単位は上げない」と言い、早退させないようにした

といった行為が挙げられます。

刑罰は、「3年以下の懲役(刑法223条)」と、行動を強要(権利の行使の妨害)する分、脅迫罪と比較して重い罪になっています。

Q、脅迫罪との違いは?

強要罪と脅迫罪は成立要件が似ていますが、生命・身体・自由・名誉・財産に対し、害を加える旨を告知する“だけ”ならば、脅迫罪「2年以下の懲役刑または30万円以下の罰金(刑法222条)」が成立し、それに合わせて行為を強要した場合は強要罪が成立します。

〜まとめ〜

  • ・害の告知に留まる→脅迫罪が成立
  • ・害の告知に合わせて、行為を強要する→強要罪が成立

となりますので、覚えておきましょう。

体罰で暴行罪・傷害罪が成立した判例2選

それでは、体罰で暴行罪・傷害罪が成立した判例についてご紹介します。

体罰で暴行罪・傷害罪が成立した判例2選

5-1.正当(業務)行為が焦点となった判例

~事件の概要~

登場人物:

被害者A・・・野球部員。1年生。

加害者B・・・野球部顧問。

部員F・・・野球部主将。2年生

練習の一環として、上級生部員らに対する悪態などの問題行動を反省させるとともに、普段よりきつい練習をやり遂げさせる目的として、野球部主将Fに指揮を取らせてインターバル走を行わせていた。

ところが、AはFの注意や指示を再三無視し、反抗的な言動を繰り返していたので、Bは「立て。」などと厳しく指導するも、これも無視。さらに、睨みつけて歩み寄ってきたので、Bが胸倉を掴んだところ、Aも腕を掴み返してきた。

Aの反抗的な態度が他の一年生に伝播することを懸念し、互いに掴みかかった状態で別の場所(道具庫)に移動した。

Bは、道具庫の壁面に押し当てながら、「何だ、その態度は。」と言ったところ、Aが睨み返してきたので、平手打ちを数回、頭部への暴行を1回行った。

その後Aは反省の態度を見せたので、インターバル走を再開させようとしたところ、なお立ち止まる様子を見せたため、「お前、頑張ると言っただろう、行け。」と言いながら、背後から右足を1回蹴る暴行を加えた。

(名古屋地裁平27・10・21)

この裁判では、

  • ・Bの行った行為は、Aの反抗的な態度を正すことが目的の暴行であったことから、正当行為として違法性阻却事由に当たるのではないか
  • ・Bは指導が目的の行為であり、怪我をさせない程度の暴力行為に留めていた
  • ・Aの親権者から懲戒権の行使を容認されており、事後にも本件行為を親権者に報告し、親権者の承認を得たことから、懲戒(教育行為)の範囲を逸脱する行為には当たらないのではないか

以上のことから、Bの行為が正当行為に当たるのかどうかが焦点となりました。

裁判所が下した結果として、

  • ・Aは、Fの注意に対し反抗的な態度を繰り返し、Bの日頃の指導方針にも反する行動を繰り返していたため、厳しく指導する状況にあった。さらに、Bの「立て。」という強い口調に対しても、無視や睨めつけながら歩み寄るなどの反抗的行動を行い、胸倉を掴まれた際にも腕を掴み返すなどの抵抗をした。これらのことからも、周囲への士気低下を招く恐れのあるAを、グラウンドから出して道具庫に連れていく行為は、正当行為が認められる。
  • ・ただし、道具庫に連れていき、言葉による指導を放棄し、「壁面に押し当てる」「平手打ちをする」「拳骨をする」「足を蹴る」に及ぶ行為が必要だったとは認められない
  • ・たとえ親権者からの懲戒権の行使の容認があったとしても、“教育指導者”としての懲戒権を幅広く行使することを容認するに留まり、“親権者”の懲戒権を委託したとは認められない

以上を踏まえ、本件暴行は、体罰から逸脱した行為(=正当行為に当たらない)として、暴行罪の判決が下されました。

指導と称した日常的な暴力行為で被害者が自殺

~事件の概要~

登場人物:

被害者A・・・バスケットボール部主将。

加害者B・・・バスケットボール部顧問。

E高校のバスケットボール部員だったAに対して、Bは指導と称して、日常的に身体的・肉体的な暴力行為を行っていた。

そのような暴力行為が繰り返された結果、Aは自宅で自殺し、部屋からは、これまでの暴力行為の経緯が綴られた遺書が見つかった。

(大阪地裁平25・9・26)

被害者Aの自殺及び被害者作成の書面からも明らかであるとし、Aは、罰を受けるようなことは何らしておらず、要するにBが満足するプレーをしなかったという理由で暴行を加えられたのであって、このような暴行は、Aが書き残したように理不尽というほかないとして、体罰による傷害罪が成立した事案になります。

部員の些細なミスによる傷害行為

~事件の概要~

登場人物:

被害者A・・・G高校剣道部員。稽古の後退や終了の合図(太鼓を鳴らす)役

加害者B・・・G高校剣道部顧問。

その日はG高校とZ中学校との合同練習で、かかり稽古が行われていた。

※部のルールで、太鼓2回鳴らすと「かかり手の交代」、太鼓3回で「稽古の終了」となっていた。

しばらく練習が続き、Bが「高校生ラスト!」の声を上げたので、Aは太鼓を“2回”叩いた。すると、Bが近づいてきて「なぜ3回鳴らさないんだ」と質問してきたので、Aは「3回鳴らすと中学校も終了すると考え、2回叩いて、高校生だけ上がってもらう判断をした」と答えたところ、小手を付けた拳で顔面を1回殴る暴行を行った。

一歩後ろに引いたところ、再度近づいてきて「何だその顔は。」と言いながら、同じ個所を同様に1回殴った。その結果、全治1週間の口腔内挫裂創の怪我を負った。

(千葉地裁平30・3・23)

指導を預かる教諭として、重い責任を有する立場でありながら、被害者の些細なミスを理由に暴力行為に及んだのは、指導を逸脱する行為である。また、傷害の結果自体は軽かったとはいえ、過去にも同様の行為が繰り返し行われていたことも考慮され、傷害罪の罰金刑でも重い部類に入る刑罰(40万円)が科された事案です。

体罰で暴行罪・傷害罪が成立したら不起訴獲得には示談が重要

体罰で暴行罪・傷害罪が成立したら不起訴獲得には示談が重要

体罰の結果、被害者(またはその両親)に訴えられた場合、暴行罪や傷害罪の可能性が高まります。また、逮捕されれば、最大で72時間拘束され、勾留ともなれば、さらに最大20日間の拘束を受けることになります。

それだけでも会社を解雇されるリスクが生じますが、起訴され有罪判決となれば前科が付くことになりますので、教職員としての道は閉ざされてしまうことも。

これらのリスクを回避するには、被害者との示談成立が不可欠です。

ただし、自力交渉は困難であると言わざるを得ません。

特に、先生と生徒という関係の深い間柄だからこそ、「許せない」「罰したい」という気持ちが強くなる傾向にありますので、交渉が難航することが予想されます。

実際に、弊所においても、「自力交渉した結果、逆に悪化してしまったので助けてほしい」という依頼をいただくことが多いです。

もちろん、ご依頼いただければ迅速且つ円満な示談交渉を模索しますが、関係が悪化した分、条件が不利になってしまったり、逮捕後であれば勾留期間が延びたりしてしまうリスクが伴います。

そのため、被害者との示談交渉は、速やかに弁護士へ依頼いただくことをおすすめします。

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自力交渉が難航|示談交渉を弁護士に依頼するメリット

示談交渉を弁護士に依頼するメリットは、以下の通りです。

自力交渉が難航|示談交渉を弁護士に依頼するメリット

被害者が示談に応じやすくなる

体罰を受けた被害者としては、加害者は恐怖の対象でしかありませんので、示談交渉は困難であると言わざるを得ません。しつこく交渉を求めたり、「交渉に応じろ!」と脅す行為を行えば、証人威迫と捉えられ、罪が重くなることも。

一方、弁護士であれば、被害者も安心して交渉に応じてくれるようになり、速やかに示談交渉を進めることが可能です。また、被害者より示談金を求められた場合でも、法律の観点から適切な示談金を模索することも可能ですので、依頼者の負担もグッと減るでしょう。

適切なアドバイスを受けられる

法律の知識が無い状態で、闇雲に動くのはリスクを伴います。

例えば、

  • ・罪の意識から謝罪をしたいという意識が先行し、被害者宅に何度も足を運ぶ
  • ・連絡先を知っているが故に、執拗に示談交渉を持ち掛ける
  • ・相手の気持ちが落ち着くまで、あえて何も行動を起こさない

一見すると間違った行為には見えませんが、これらの行為は、逮捕の可能性が高くなったり、起訴され罪が重くなってしまったりする代表的な一例です。

特に、被害者側は「恐怖」や「憤り」を感じていますので、加害者本人からのアクションは、できるだけ避けた方が良いでしょう。

他方、既に逮捕されてしまった場合、警察や検察官の取り調べを受けるわけですが、ここで不利な供述をしてしまうと、勾留期間が延びたり、起訴の可能性が高まります。

適切な行動ができていれば早期釈放ができたような事案でも、自力解決に拘ったばっかりに、将来に傷が付いた、というケースも珍しくありません。

このようなリスクを避けるためにも、弁護士によるアドバイスは非常に効果的です。

知っていれば防げるようなリスクは多いので、「どうしたらいいか分からない」と不安を抱えている方は、弁護士に相談いただくことをおすすめします。

体罰や暴行罪・傷害罪の弁護はグラディアトル法律事務所へ

体罰による暴行罪・傷害罪の成立要件、教育行為との違いについて解説しました。

記事の内容を、以下にまとめます。

~記事のまとめ~

・体罰によって怪我が生じれば傷害罪成立、生じなければ暴行罪成立。

・暴行罪と傷害罪の量刑には明確な差があり、最高で傷害罪は15年の懲役刑。

・身体的な暴力行為(殴る・蹴るなど)で怪我を負わせた場合、暴行罪・傷害罪が成立する。

・精神的な苦痛を与える行為(暴言やストーカー行為など)も、暴行罪・傷害罪の成立要件に該当する可能性がある。

・教育目的の正当業務行為では、力づくで生徒を引き離したり、居残りさせることは体罰には該当しない。

・生徒からの攻撃を防ぐ正当防衛も、体罰にはならず、適切な行動として認められる。

・体罰で成立するその他の犯罪として、「侮辱罪」「脅迫罪」「強要罪」「不同意わいせつ罪」が挙げられる。

・暴行罪や傷害罪の避けるためには、示談成立が重要で、自力交渉は困難が予想される。

・示談が成立しない場合、逮捕や勾留のリスクがあり、教職を失う可能性もあるため、早期の弁護士依頼が推奨される。

・弁護士に依頼するメリット:

→被害者が安心して示談に応じやすくなる。弁護士が適切な交渉を代行し、法的観点から示談金を模索。

→法的リスクを避けるため、弁護士の適切なアドバイスを受けられる。自力解決の誤りを防ぎ、逮捕や起訴のリスクを軽減。

体罰を行ってしまった場合は、懲戒処分(免職)のリスクが高まるだけでなく、暴行罪・傷害罪といった犯罪が成立してしまう恐れがあります。さらに、起訴・有罪判決を下されてしまうようなことがあれば、社会的信用の低下は否めません。

迅速な解決には、誠意を持った謝罪・示談交渉が大切ですが、これらのテーブルを自力で用意することは非常に困難です。迅速かつ円満な解決を図るためにも、速やかに弁護士に依頼することをおすすめします。

グラディアトル法律事務所は、初回相談無料(LINE相談可)、24時間365日相談受付、全国47都道府県対応できますので、お気軽にご連絡ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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