暴行罪の有名な裁判例!当たらなくても犯罪?意外と広い暴行の意義

暴行罪の裁判例
弁護士 若林翔
2024年07月31日更新

暴行罪を「人を殴ったり蹴ったりする犯罪」とイメージしている人は多いです。

しかし、「暴行」の概念は意外と広く、意外なケースで成立します。

・お清めとして、塩を振りまく

・耳元で、太鼓を連打する

・目の前に向かって、石を投げる 等

実に様々な行為が「暴行」だと判断されているのです。

本記事では、実際の裁判例をもとに、暴行罪が成立する具体的なケースを解説します。

暴行罪の判例が知りたい方は、是非ご一読ください。

「暴行」とは?塩を振りかけて暴行罪が成立した裁判例

最初に、被害者に対して塩を振りかけたことが、「暴行」に当たるとされた裁判例を紹介します。

暴行罪の裁判例(塩)

暴行罪は、刑法208条で

「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」

に成立すると規定されています。

しかし、塩を振りかける行為によって、傷害の結果が発生する可能性は、限りなく低いです。

そこで、このようなケースでも暴行罪が成立するのかが問題となりました。

判決文抜粋

・「刑法208条の暴行は、人の身体に対する有形力の行使をいうものである」

・「必ずしもその性質上傷害の結果発生に至ることを要するものではなく、相手方において受任すべきいわれのない、単に不快嫌悪の情を催させる行為といえどもこれに該当するものと解すべき」

(福岡高判昭和46年10月11日刑月3・10・1311)

このケースで、裁判所は

「必ずしもその性質上傷害の結果発生に至ることを要するものでない」

と判断して、暴行罪を成立させています。

つまり、ケガをする可能性の低い行為であったとしても、相手が不快嫌悪に感じる行為であれば、暴行罪になる可能性があるのです。

ただし、全てが「暴行」になる訳ではなく、少なくとも「相手の五官に直接間接に作用して不快ないし苦痛を与える性質のもの」であることは必要です。

※ポイント

・暴行とは「人の身体に対する有形力の行使」をいう

・ただし、必ずしも傷害の結果を発生させる行為に限られない

間接暴行?身体に触れていなくても「暴行」になった裁判例

「暴行」行為は、必ずしも被害者に当たっている必要はなく、間接的な暴行によっても成立します。

ここでは、「太鼓の騒音」や「投石行為」が暴行にあたるとされた裁判例を紹介します。

太鼓を連打して暴行と認められた裁判例

太鼓の連打によって発生する不快音も、暴行と認められています。

暴行罪の裁判例(太鼓)

判決文抜粋

・「暴行とは人の身体に対し不法な攻撃を加えることをいう」

・「ブラスバンド用の大太鼓、鉦等を連打し同人等をして頭脳の感覚鈍り意識朦朧たる気分を与え又は脳貧血を起さしめ息詰る如き程度に達せしめたときは人の身体に対し不法な攻撃を加えたものであつて暴行と解すべき」

(引用:裁判所 裁判例結果詳細:最判昭29年8月20日

前述のとおり、「暴行」は必ずしも、殴る・蹴るなどの暴力行為に限られません。

人の身体に対する不法な攻撃であれば、騒音行為でも暴行と認められます。

この判例は、職場交渉でブラスバンド用の太鼓を連打して、会社側の参加者(課長)に脳貧血を発生させた事件です。

殴る蹴るなどの暴力をふるった訳ではありませんが、「暴行にあたる」という判断がくだされました。

※ポイント

・「暴行」は、殴る蹴るなどの暴力に限られない

・騒音行為でも、暴行と認められる場合がある

※関連記事

「精神的苦痛でも傷害罪になる?成立する要件や実際の判例、対処法など」

数歩手前を狙った投石行為が、「暴行」とされた裁判例

被害者の、「数歩手前」を狙った投石行為が「暴行」とされた判例もあります。

この判例では、被害者を驚かす目的で、数歩手前を狙って、投石したことが「暴行」にあたるか問題となりました。

暴行罪の裁判例(投石)

判決文抜粋

・「暴行とは人に向つて不法なる物理的勢力を発揮することで、その物理的力が人の身体に接触することは必要でない。」

・「石は投げた所に止るものでなくはねて更に同方向に飛ぶ性質のものであるから数歩手前を狙つて投げても尚Bに向つて投石したといい得る」

・「投石の動機がいたづらであつても又その目的が同人を驚かすことにあつても投石行為を適法ならしめるものでないから右被告人等の投石行為はBに向つて不法の物理的勢力を発揮したもの即ち暴行を為したものといい得る。」

(引用:裁判所 裁判例結果詳細 東京高判昭和25年6月10日

このケースでは、人の身体に接触することは必要ないとして、投石が「暴行」にあたると判断されました。

友人に向かって、ふざけて石を投げた経験がある方は多いのではないでしょうか?

冗談半分の投石行為であったとしても、状況によっては「暴行罪」が成立する可能性があるのです

※ポイント

・「暴行」は、人の身体に接触することは必要ない

・冗談半分の投石でも、暴行になる場合がある

暴行罪が成立した様々な裁判例

他にも、様々な行為が、暴行にあたると判断されています。

・女性の髪を切断する行為

(大判明7年2月29日)

・瓦の破片を投げつけて、脅かしながら追いかける行為(暴行にあたると判断)

(最判昭25年11月9日)

・室内で日本刀を振り回す行為

(最決昭39年1月28日)

・そばにあった椅子を2回投げつけたが、当たらなかったケース

(仙地昭30年12月8日)

いずれのケースも、殴る蹴るなどの典型的な暴力行為ではありません。

しかし、加害者の行為が「暴行」にあたるとされて、犯罪が成立しているのです。

暴行によって別の犯罪が成立するケースも!

暴行によって成立する犯罪は、暴行罪だけではありません。

軽い気持ちで振るった暴力であっても、暴行までの流れや、被害の状況によっては、暴行罪以上に重い犯罪が成立します。

暴行罪の他に成立する犯罪

傷害罪・傷害致死罪

ケガをさせるつもりが無かったとしても、暴行によって、相手がケガをしてしまうと「傷害罪」が成立します。

さらに、打ちどころが悪かったなどの原因で、相手が死亡してしまうと、「傷害致死罪」が成立する可能性もあります。

(傷害)第204条

人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

(傷害致死)第205条

身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。

事後強盗罪

「事後強盗罪」は、窃盗の犯人が、その場から逃走する目的で、暴行すると成立する犯罪です。

「強盗」というと遠い世界をイメージするかもしれませんが、例えば「万引きから逃げる途中で、うっかり暴力を振るってしまった」ケースでも「事後強盗」が成立します。

非常に成立しやすい一方で、法定刑は「懲役5年以上」と重く、減刑されない限り執行猶予が付くことはありません。

(事後強盗)第238条

窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。

(強盗)第236条

暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。

公務執行妨害罪

公務員(警察官など)が職務を執行している途中に、暴行を振るうと「公務執行妨害罪」が成立します。

直接的な暴力でなくても、腕を払う、胸ぐらをつかむ、衣服を引っ張るなどの行為で成立する可能性があるため、注意しましょう。

妨害運転罪

妨害運転罪は、いわゆる「あおり運転」によって成立する犯罪です。

以前は「あおり運転」でも「暴行罪」が成立していました。

しかし、令和2年の道路交通法改正によって、「妨害運転に対する罰則」が新設されたため、現在は「妨害運転罪」によって処罰されています。

【Q&A】暴行罪の裁判例に関するよくある質問

暴行罪の判例についてよくある質問

暴行罪と傷害罪の違いは?

暴行罪と傷害罪は、相手がケガをしているかによって区別されます。

※暴行罪と傷害罪については、次の記事で詳しく解説しています。

「暴行罪と傷害罪の違いは?成立要件や刑罰の違いを弁護士が解説」

暴行罪が成立するケースは?

暴行罪が成立する典型例は、「殴る・蹴る」などの暴力行為です。

ただし、典型的な暴力行為でなかったとしても

・騒音を繰り返す

・嫌がらせで塩を振りかける

・目の前にに向かって石を投げる

などで「暴行罪」が成立する可能性があります。

暴行罪にならないケースは?

暴行の故意がなければ(わざとでなければ)、暴行罪は成立しません。

例えば「たまたま肘がぶつかった」などのケースでは、故意が無いため、暴行罪は成立しない可能性が高いです。

髪を切ると暴行罪?傷害罪?

女性の髪を切ることで、暴行罪が成立した判例があります。

一方で、傷害罪が成立した判例もあるため、一概には言えません。

暴行罪の初犯で罰金だといくらが相場?

暴行罪の罰金は「10万〜30万」程度が相場だと言われています。

ただし、状況によって大きく異なるため、弁護士に相談することをオススメします。

暴行事件でお悩みの方はグラディアトル法律事務所へ

最後に、今回の記事の要点を整理します。

・暴行罪の「暴行」は、身体的な暴力に限られない

・ケガをしない行為でも成立することがある

・間接的な暴力行為(騒音、投石)でも成立する

・状況によっては、傷害・事後強盗などの重い犯罪になることもある

暴行罪は「殴る」「蹴る」などの、典型的な暴力行為以外でも成立する犯罪です。

暴行の範囲は、世間のイメージ以上に広く、些細なことでも成立する可能性があるのです。

「もしかして暴行罪になるのでは…?」と不安を感じたら、速やかに弁護士に相談しましょう。

グラディアトル法律事務所では、これまでにも数多くの暴行事件の相談を受けて、警察や検察と交渉を行ったり、被害者との示談を成立させる等の弁護活動を行ってきました。

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弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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