背任罪で執行猶予になる可能性は60%?執行猶予を獲得するポイント

背任罪は60%が執行猶予?
弁護士 若林翔
2025年01月03日更新

「背任罪で執行猶予は付く?」

「実刑を避けるには、どうすればいい?」

背任罪で逮捕されてしまったら、執行猶予をつけてもらえるのでしょうか?

裁判所のデータによれば、背任罪で有罪判決を受けた人の約60%に、執行猶予付き判決が言い渡されています。

【背任罪で執行猶予付き判決となった件数】

 有罪人員実刑全部執行猶予一部執行猶予
令和5年197120
令和4年14680
令和3年198110

(出典:令和3年、令和4年、令和5年 司法統計年報(刑事編)|裁判所)

ただし、これはあくまでも統計上のデータです。実際には被害金額の大きさや示談の有無など、様々な要素が関わってきます。実刑を避けるためには、できるだけ早い段階で弁護士に相談して、会社と示談を進めるなどの行動を起こすことが必要です。

本記事では、次の点を取り上げました。

・背任罪で執行猶予が付く割合
・執行猶予が付く条件
・執行猶予を獲得するためのポイント など

「背任罪でどうすれば実刑を避けられるのか…」お悩みの方は是非ご一読ください。

関連記事で背任罪の説明をしている記事もありますので、併せてご覧ください。

【弁護士監修】背任罪とは?具体例をもとにわかりやすく解説します!

背任罪で執行猶予になるのは60%?

背任罪で起訴された場合、約60%に執行猶予付き判決が言い渡されています。

裁判所の司法統計によれば、令和5年に背任罪で有罪判決となった事件は19件でした。そのうち、12件が全部執行猶予となり、7件に実刑判決が下されています。

 有罪無罪全部執行猶予実刑
(懲役3年以上)
実刑
(懲役2年以上)
背任の罪1901216

(出典:令和3年、令和4年、令和5年 司法統計年報(刑事編)|裁判所)

もちろん、これはあくまでも統計を元にしたデータです。

実際の判決では、個々の事案の内容に応じて刑期が決定されます。一概に「◯%」と言い切ることはできませんが、執行猶予を獲得できる可能性は十分にあるでしょう。

起訴されると罰金刑は期待できない

背任罪の法定刑は、「5年以下の懲役又は50万円以下の罰金」と定められています。

ただし、実際の判決では罰金刑となるケースは極めて少ないです。裁判所の司法統計によれば、直近3年間で背任罪で終局した事件は53件に上りますが、無罪あるいは罰金となった事件は1件もありませんでした。

 終局人員懲役
(実刑)
懲役
(執行猶予あり)
罰金移送
令和5年1971200
令和4年156801
令和3年1981100

(出典:令和3年、令和4年、令和5年 司法統計年報(刑事編)|裁判所)

さらに、略式起訴となるケースも非常に少なく、約9割の事件で公判手続が請求されて、正式起訴されています。

 公判請求略式命令請求
令和5年474
令和4年471
令和3年276
令和2年282
令和元年172

(出典:検察庁統計調査|法務省)

無罪となったり、罰金刑で済むことは期待できないでしょう。現実的には、事件後速やかに会社と示談をして不起訴を獲得するか、裁判で執行猶予判決を目指すことになります。

背任罪で執行猶予がつく条件

背任罪で執行猶予が付くためには、どのような条件が必要なのでしょうか?

背任罪で執行猶予がつく条件

判決内容が3年以下の懲役

まず、執行猶予を付けるには、判決の内容が「3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金」であることが必要です。この条件は、法定刑ではなく、言い渡される判決の内容が基準です。

背任罪の法定刑は、「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」と定められています。そのため、判決で言い渡される刑が「3年を超える懲役」でなければ、執行猶予を付けることができます。法定刑が5年以下なので、自首や未遂、酌量減軽など、法律上の減軽事由も必須ではありません。

因みに、背任罪の刑期を確認すると、判決の内容が「懲役3年以下」であるケースが大半を占めています。

【背任罪の刑期】

 有罪人員懲役3年以下罰金刑
令和5年19180
令和4年14140
令和3年19180

(出典:令和3年、令和4年、令和5年 司法統計年報(刑事編)|裁判所)

そうすると背任罪は、比較的、執行猶予を狙いやすい犯罪だといえるでしょう。

直近5年で禁錮以上の刑を受けていない

執行猶予が付く条件として、「直近5年間で禁錮以上の刑を受けていないこと」も定められています。具体的には次のいずれかに該当する必要があります。

・前に禁錮以上の刑に処せられたことがない

・前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない

上記の条件を満たしており、かつ「判決の内容が懲役3年以下」であれば、執行猶予が付く可能性があります。

ただし、実際に執行猶予を付けるかどうかは、あくまでも裁判官の裁量に委ねられています。条件を満たせば必ず付くわけではなく、被害金額の大きさや示談の有無など、様々なポイントを考慮して判断されます。

背任罪で執行猶予付き判決となった事例

それでは、実際にどのような事例で執行猶予付き判決が言い渡されているのでしょうか?

背任罪で執行猶予となった具体的な事例を紹介します。

事件の内容金額刑期執行猶予
日大元理事●●被告の指示を受け、医療機器と電子カルテ関連機器の取引に医療法人「●●」(●●市)前理事長・●●被告側の2社を不必要に介在させ、約2億円上乗せした契約を日大に結ばせ、損害を与えた。
(引用:朝日新聞
約2億円懲役2年6ヶ月執行猶予4年
持ち込んだDMの数量の過少申告を黙認してもらう目的で、同郵便局の当時の部長(53)に約61万円相当の飲食接待などを繰り返し、本来の料金との差額を支払わず日本郵便に約190万円の損害を与えた。(引用:神奈川新聞約190万円(元)役員懲役2年6月
(元)社員懲役4年6月
(元)役員執行猶予4年
(元)社員執行猶予3年
長野市で開かれた世界大会などの際、宿泊費をはじめとする経費を旅行業者に水増し請求させ、連盟に約580万円を余分に支出させ損害を与えるなどした。(引用:AFPBB News約580万円懲役3年執行猶予5年

背任罪で執行猶予が付かなかった事例(実刑になった事例)

一方で、背任罪で実刑判決を受けるケースもあります。

執行猶予付き判決が言い渡されず、実刑となった事例を見ていきましょう。

事件の内容金額刑期執行猶予
自動車大手ホンダが法人契約していたクレジットカードを私的に使い、同社に約4300万円の損害を与えたとして、背任罪に問われた元社員の●●被告に東京地裁は27日、懲役2年6月(求刑懲役4年)の判決を言い渡した。
判決は「長期間、多数回にわたる常習的犯行」だとして、犯行を認めて被害の一部を弁償していることを踏まえても実刑判決が相当とした。(引用:日本経済新聞
約4300万円懲役2年6月なし
会社法違反(特別背任)などの罪で起訴され、保釈中に公判に出頭しなかったとして刑事訴訟法違反罪にも問われたカードゲーム企画会社「カードラボ」元代表の●●被告に東京地裁は17日、懲役4年6月(求刑懲役5年6月)の判決を言い渡した。
〜〜〜〜〜〜〜〜
判決によると、虚偽の請求書を経理担当者に提出し、知人男性の口座に計約1億7900万円を振り込ませて会社に損害を与えるなどした。(引用:高知新聞
約1億7900万円懲役4年6月(特別背任罪)なし

背任罪で執行猶予が付く4つのポイント

事例からも分かるとおり、背任罪で執行猶予が付くかは、被害金額以外にも様々な要素が影響しています。それでは、具体的にどのようなポイントによって左右されるのでしょうか?

執行猶予付き判決を獲得するための4つのポイントを説明します。

背任罪で執行猶予が付くポイント

被害金額の大きさ

1つ目のポイントは被害金額の大きさです。

一般的に、被害金額が大きいほど、実刑判決となるリスクは高くなります。悪質と判断されるだけでなく、被害弁償も難しくなるため、執行猶予付き判決を獲得するハードルは上がっていきます。

ただし、被害金額が大きければ、必ず実刑判決となるわけではありません。中には、2億円近い被害金額でも執行猶予が付いたケースもあるのです。

実刑となるリスクが高いことは事実ですが、諦める必要はありません。それまでの功績が大きかったり、酌むべき事情を主張できれば、執行猶予が付く可能性もあるでしょう。

【被害金額2億で執行猶予がついた裁判例】※判決文抜粋

【量刑の理由】
本件各背任の被害額は合計1億9800万円余りにも上り、被害結果は重大である。

(略)

被告人は、B社からコンサルティング業務の再委託を受けた立場にあり、本件各犯行による共犯者の利得そのものから分配を受ける地位にあったものでもない。各犯行への関与になお従属的とみる側面があることは否めない。
そのほか、被告人は、A大の収支改善のためのコンサルティング契約に基づき、かねて多額の赤字を計上していたI病院等の経営改善に取り組み、一定の成果を上げていること、前科前歴はないこと、C社の監査役が今後の監督を約束する旨証言したこと等、被告人のために酌むべき事情もある。
そこで、以上を総合すれば、被告人に対しては、主文の刑を科した上、特に主文の期間その刑の執行を猶予するのが相当である。
(引用:東京地判令和4年10月6日|裁判所

会社との示談・被害弁償の有無

2つ目のポイントは、会社と示談をしたり、被害弁償をしているかどうかです。

会社と示談が成立すれば、少なくとも当事者間では紛争が解決したと評価されるため、裁判所の量刑判断に大きな影響を与えます。

示談によって被害届を取り下げてもらったり、厳罰を求めない趣旨で示談書を締結できれば、執行猶予を獲得できる可能性も高くなるでしょう。

裁判までに示談できなくても、公判が終わるまでに成立すれば、実刑を回避できる可能性があります。弁護士と相談しながら、粘り強く交渉を続けることが大切です。

背任行為の常習性・悪質性など

3つ目のポイントは、背任行為の常習性や悪質性です。

常習性がある場合や、計画的で悪質な背任行為の場合は、実刑判決となる可能性が高くなるでしょう。例えば、長期間にわたって継続的に行われた背任行為や、複雑な手口を用いた犯行などが該当します。

執行猶予を獲得するには、真摯に謝罪・反省するだけでなく、今後どのように更生していくのか、信頼できる監督人はいるのかなどを、粘り強く裁判官に伝えることが必要です。

余罪があるか

4つ目のポイントとして、余罪があるかも重要です。

背任事件では、背任罪以外にも様々な犯罪が成立する可能性があります。

例えば、脱税(所得税法違反)や賄賂罪、業務上横領罪などが典型例です。余罪が多いほど、実刑判決となる可能性は高くなってしまいます。

余罪が認められるかについては、必ず弁護士へも相談しましょう。その上で、もしも余罪が認められる場合はしっかりと対処して、情状酌量を訴えていくことが必要です。

背任罪で執行猶予となるために弁護士ができること

背任罪で執行猶予を獲得するには、できる限り早いタイミングで弁護士に相談することが重要です。実刑を回避するために、弁護士ができることを解説します。

背任罪で執行猶予付き判決を得るために弁護士ができること

会社(被害者)との示談交渉

弁護士は、あなたに代わって会社との示談交渉を進めることができます。

背任罪で示談を成立させることは簡単ではありません。会社がいきなり交渉に応じてくれるケースは少なく、必要なポイントを見極めて、粘り強く進める必要があるのです。

・どの行為が問題となっているのか

・被害金額はどの程度なのか

・責任の所在は誰にあるのか

こういった点を明確にして、しっかりと事実確認を行い、認めるべきところは認めて被害弁償を行っていくことが欠かせません。

弁護士が間に入ることで、会社も交渉に応じやすくなるでしょう。経験豊富な弁護士なら、交渉のポイントを的確に見極めて、スムーズに示談成立に導いてくれるはずです。

警察の取調べにどう対応するかの相談

背任罪の調査が開始されると、警察からも取調べを受けることになります。

取調べの内容は、供述調書として記録され、刑事裁判で決定的な証拠として提出されるでしょう。たとえ事実と異なっていても、一度認めると覆すのはかなり難しくなります。

事前に弁護士に相談しておけば、取調べにどう対応するべきかアドバイスを受けられます。

・何を、どのように伝えるべきなのか

・どういった権利が保障されているのか

・自分に不利益な供述を避けるにはどうすればいいのか

・誤った事実を伝えられたらどう対処するか

こういったポイントを事前に確認しておきましょう。

背任罪の取調べは過酷ですが「自宅に帰るため…」などの理由で、軽率に発言することは避けましょう。供述した内容によって、その後の流れは大きく変わってきます。

不起訴、執行猶予付き判決に向けた弁護活動

何より大きいのは、弁護士が不起訴・執行猶予付き判決の獲得に向けて、最後まで闘ってくれることです。弁護士はあなたにとって最大の味方であり、大いに頼るべき存在です。

背任罪で逮捕されると、しばらくは家族とも会えなくなってしまいます。しかし、弁護士だけはすぐに接見に駆けつけて、あなたと顔を合わせてサポートができます。

刑事事件に強い弁護士であれば、どうすれば早期に身柄を開放できるのか、不起訴・執行猶予を獲得できるのかを熟知しているでしょう。

会社との示談交渉、被害弁償、謝罪文の作成、身元引受人の確保など、あらゆる方面から、あなたのために弁護活動を進めてくれるはずです。あなたの生活や人生に与える影響を、最小限に抑えることができるでしょう。

背任事件に巻き込まれたら、一人で抱え込まずに、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。

背任罪で執行猶予を目指すなら、グラディアトル法律事務所へご相談ください!

背任罪で執行猶予付き判決を目指すなら、是非私たちグラディアトル法律事務所へご相談ください。

弊所は、刑事事件を数多く取り扱っており、圧倒的なノウハウと実績を有している法律事務所です。これまでにも多くの方からご相談をいただき、示談を成立させて刑事事件化を阻止したり、不起訴・執行猶予を獲得することに成功しています。

・それぞれ得意分野をもった13名の弁護士が在籍

・背任事件に強い弁護士が、粘り強く会社と交渉

・豊富な刑事裁判の実績を活かして、不起訴・執行猶予を獲得

・最短で即日、夜間・土日祝日もご相談可能

・刑事事件に強い弁護士ならではの充実の刑事弁護を提供

背任罪は、社会的に注目されることも多い犯罪です。

法定刑は重く、実刑判決となるリスクも低くはありません。だからこそ、刑事事件に強い弁護士に相談して、速やかに対処することが必要です。

ご相談をいただくタイミングが遅くなるほど、対処法も少なくなってしまいます。

「背任罪で起訴されるリスクがどの程度あるのか相談したい」
「どの程度の刑期が予想されるのか知りたい」
「まずは話だけでも聞いて欲しい」

こういった相談だけでも構いません。

背任罪を起こしてしまったら、1人で抱え込まず、ぜひ私たちグラディアトル法律事務所へご連絡ください。ご相談者に寄り添い、ご相談者の立場やご事情にも配慮して、最善の解決方法をご提案させていただきます。

まとめ

最後に、今回の記事のポイントをまとめます。

◉背任罪で執行猶予付き判決となるのは全体の60%程度

◉無罪や罰金刑は期待できない

◉執行猶予が付くポイントは次の4つ

・被害金額の大きさ
・示談や被害弁償をしているか
・常習性、悪質性があるか
・余罪があるか

◉背任罪で執行猶予付き判決になるため弁護士ができること

・会社との示談を成立に導く
・警察の取調べについて相談を受けて、対応方針を検討する
・不起訴、執行猶予を獲得するための弁護活動

以上です。

背任事件を起こしてしまった方は、この記事を読み終わったら、すぐに弁護士に相談して、逮捕を防ぐための行動を起こしましょう。

一刻も早く、事件が解決し、あなたの不安が解消されることを願っています。この記事が役に立った、参考になったと感じましたら、是非グラディアトル法律事務所にもご相談ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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