「背任罪の構成要件には何があるの?」
「背任罪の構成要件を満たす具体的な事例が知りたい」
「背任罪の構成要件に該当する行為をしてしまったときの対処法とは?」
背任罪は、他人の事務を処理する者が自己もしくは第三者の理系を図り、または本人に損害を与える目的で、任務に背く行為をして、本人に財産上の損害を与えることで成立する犯罪です。
このような背任罪には、以下の4つの構成要件があります
・他人のために事務を処理している
・任務違背行為
・図利加害目的
・財産上の損害
自分の行為が背任罪に該当するかどうかを判断するためには、背任罪の構成要件の理解か不可欠となりますので、4つの構成要件の内容をしっかりと理解するようにしてください。
また、背任罪は、横領罪などと似ている部分もありますので、区別の難しい犯罪です。そのため、他の類似の犯罪との違いも押さえておく必要があります。
本記事では、
・背任罪の構成要件 ・背任罪の構成要件を満たす具体的な事例 ・背任罪と類似する犯罪の構成要件 |
などについてわかりやすく解説します。
背任罪の構成要件に該当する行為をしてしまったときの対処法も解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
背任罪の構成要件
背任罪は、以下の4つの構成要件を満たした場合に成立する犯罪です。
背任罪の構成要件まとめ
要件 | 説明 | 具体例 |
---|---|---|
他人の事務を処理している | 他人のために財産上の事務を処理している者が事務処理を怠った場合(例: 会社従業員、銀行員) 「自己の」事務を怠る場合は背任罪に該当しない。 | 会社の財産を管理する従業員が雇用主の指示に反した行為を行う場合など。 銀行員が融資を担当 |
任務違反の行為をした | 事務を任された仕事に反する行為をした場合。期待される仕事をしない、不適切な行為をとること | 回収できないとわかっているのに担保なしで融資をする。 粉飾決算、過剰在庫を隠すための虚偽報告など。 |
利益を図る、または損害を与える目的がある | 行為者に自己または他人の利益を図る目的または、仕事を任せてきた人に損害を与えようとする意図があることが必要 | 自分の親族の会社に有利な契約を結ぶために、会社に不利な条件で取引する行為。 |
財産に損害を与えた | 財産の減少や得られるはずの利益が得られなかった場合。 本人に財産上の損害が生じない場合でも、行為の着手があれば背任未遂罪が成立 | 融資の回収が困難になる場合。 |
<まとめポイント>
- 行為者の資格: 他人のために事務を処理する身分が必須。
- 目的性: 行為に図利加害目的があるかが鍵。
- 損害の範囲: 直接の財産減少だけでなく、逸失利益も損害とみなされる。
他人のために事務を処理している
背任罪の行為者は、他人のために事務を処理している人に限られますので、それ以外の人が後述する任務違背行為をしたとしても原則として背任罪は成立しません。そのため、背任罪は、一定の身分が必要となる「身分犯」に該当します。
「事務」とは、財産上の事務を指しますので、会社に雇用されて業務を命じられている従業員などが背任罪の行為者になります。
また、「他人の」事務である必要がありますので、売買契約を締結した買主が代金の支払い義務を怠ったとしても、それは「自己の」事務を怠ったに過ぎませんので背任罪は成立しません。
任務違背行為
任務違背行為とは、事務を任されたものとして法的に期待されるところに反する行為をいいます。具体的な行為が任務違背行為に該当するかどうかは、事務処理者の権限、事務の内容、当時の状況などを踏まえて期待された行為がなされたか否かによって判断されます。
たとえば、銀行員が回収見込みがないにも関わらず特別の担保を取ることなく融資を行う「不良貸付」や会社が儲かっているように帳簿を操作する「粉飾決算」などが任務違背行為に該当します。
図利加害目的
図利加害目的とは、「自己または第三者の利益を図る目的」(図利目的)と「本人に損害を加える目的」(加害目的)の2つを指す言葉で、背任罪の成立には行為者にどちらかの目的があることが必要です。
このような目的が構成要件とされていることで、本人の利益を図る目的で行動した結果、本人に損害を与えることになったとしても背任罪に問われることはありません。ただし、本人の利益を図る目的と図利目的のいずれも認められる場合には、どちらが主たる目的であったかによって図利加害目的の有無が判断されます。
財産上の損害
財産上の損害とは、本人の財産が減少した場合だけでなく、本来得られるはずの財産が得られなかった場合も含まれます。
たとえば、銀行員による不良貸付の事案では、銀行には貸付先に返済を求める権利(債権)がありますが、担保がなければ実際に回収するのは困難ですので財産上の損害の発生が認められます。
なお、本人に財産上の損害が生じなかった場合には、背任未遂罪が成立します。
背任罪とは?構成要件や他の犯罪との違い、弁護士に依頼するメリット
背任罪の構成要件を満たす具体的な事例
背任罪の構成要件を押さえたところで、次は、具体的にどのような事案で背任罪が成立するのかをみていきましょう。以下では、実際に背任罪に問われた判例を紹介します。
公務員による不正融資の事例|高松高裁平成17年7月12日判決
被告人らは、県の副知事(A)、県商工労働部長(B)、県商工労働部商工政策課長(C)の職にあった者です。被告人らは、既に14億円余りの貸付を受けながら、操業開始後すぐに10億円以上の運転資金不足を生じさせた協業組合に対して、県議会の議決を経ずに追加で10億円余りの貸付を実行して、回収不能となりました。
この事案では、不適切な公的融資により県に損害を与えたとして、公務員による不正融資が背任罪に問われました。被告人らは、裁判で任務違背の認識や図利加害目的がないと主張しましたが、それぞれ以下のような有罪判決が言い渡されました。
A:懲役2年2月 B:懲役1年8月 C:懲役1年6月 |
二重に抵当権を設定した事例|最高裁昭和31年12月7日判決
Aは、自己所有の不動産について、Bに対して根抵当権を設定したもののその登記を完了する前に、Cに対して根抵当権を設定して先に登記を行いました。Aは、Bに対する登記協力義務を怠り、Cに劣後する登記になるという損害を与えたことから、このような行為が背任罪に問われました。
被告人Aは、「登記協力義務は、自己の事務であり他人の事務ではないため、背任罪は成立しない」と主張し、争いましたが、裁判所は「他人の事務にあたる」として、懲役1年・執行猶予3年の有罪判決が確定となりました。
背任罪と類似する犯罪の構成要件
背任罪と類似する犯罪として、横領罪、業務上横領罪、特別背任罪があります。以下では、これらの犯罪の構成要件を説明します。
横領罪
横領罪とは、自己が占有する他人の物を横領した場合に成立する犯罪です。横領罪の構成要件は、以下のようになっています。
・他人の物を占有していること ・委託信任関係があること ・横領行為をしたこと ・不法領得の意思があること |
横領罪は、自分が管理する他人の財産を任務に反して着服する行為、背任罪は、任務に反して財産の着服以外の方法で損害を与える行為というように区別することができます。たとえば、物の着服のない不正融資や粉飾決算などが背任罪になります。
なお、背任罪と横領罪の違いをまとめると以下のようになります。
項目 | 背任罪 | 横領罪 |
---|---|---|
犯罪の主体 | 他人のための事務処理者 | 他人の物の占有者 |
財産上の損害 | 被害者の財産状況の悪化 | 個々の財産の損失 |
目的 | 図利加害目的 | 不法領得の意思 |
行為 | 任務違背行為(本人の信任や委託の趣旨に反する行為) | 横領行為(所有者にしかできない処分をすること) |
法定刑 | 5年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 5年以下の懲役 |
業務上横領罪
業務上横領罪とは、横領罪の成立要件に「業務上」という要件が加わった犯罪です。
業務とは、人が社会生活上の地位に基づき反復継続して行う事務のことをいい、会社の経理担当が経費を私的流用するようなケースが業務上横領罪の典型的なケースです。
背任罪と横領罪とでは、以下のような違いがあります。
項目 | 背任罪 | 業務上横領罪 |
---|---|---|
犯罪の主体 | 他人のための事務処理者 | 業務上他人の物を占有する者 |
財産上の損害 | 被害者の財産状況の悪化 | 個々の財産の損失 |
目的 | 図利加害目的 | 不法領得の意思 |
行為 | 任務違背行為(本人の信任や委託の趣旨に反する行為) | 横領行為(所有者にしかできない処分をすること) |
法定刑 | 5年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 10年以下の懲役 |
特別背任罪
特別背任罪は、行為者の身分による背任罪の加重類型です。基本的な構成要件は共通しますが、規定される法律、犯罪の主体、法定刑に以下のような違いがあります。
項目 | 背任罪 | 特別背任罪 |
---|---|---|
規定されている法律 | 刑法 | 会社法 |
犯罪の主体 | 他人のための事務処理者 | 取締役、会計参与、監査役、執行役など株式会社において一定の地位にある者 |
法定刑 | 5年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 10年以下の懲役または1000万円以下の罰金(併科あり) |
背任罪の構成要件に該当する行為をしてしまったときの対処法
背任罪の構成要件に該当する行為をしてしまったときの対処法には、以下のようなものが挙げられます。
被害者との示談
背任罪を犯してしまったときの最優先事項は、被害者との示談です。
加害者に刑事処分が下されたとしても損害が回復されるわけではありません。被害者としては損害の回復を重視するはずですし、問題が公になるのを避けたいというのが本音ですので、示談が成立すればそれ以上の処罰を望まないという態度になるでしょう。
すなわち、示談成立により逮捕や起訴を回避できる可能性が高くなるということです。そのため、背任罪を犯してしまったときは、すぐに被害者との示談交渉を行うようにしてください。
警察への自首
背任事件が捜査機関に発覚する前であれば、警察に自首することも有効な手段となります。
自首をすることで逃亡や証拠隠滅のおそれがないことを示せますので、それにより逮捕の要件を満たさなくなり、逮捕を回避できる可能性があります。また、自首は任意的な刑の減軽事由ですので、仮に起訴されてしまったとしても刑の減軽が受けられる可能性があります。
ただし、自首をすることで本来事件化されなかったはずの犯罪が捜査機関に発覚してしまうリスクもありますので、自首をするかどうかは慎重に判断する必要があります。
弁護士への相談
背任罪の構成要件に該当する行為をしてしまったときは、すぐに弁護士に相談するようにしてください。
弁護士であれば、加害者本人に代わって被害者との示談交渉を行うことができます。被害者側も加害者本人と直接話をするよりも、弁護士が窓口になった方が安心できますので、弁護士に示談交渉を依頼することでスムーズに示談をまとめることができるでしょう。
また、自首するかどうか、自首のタイミングなども弁護士に相談すれば適切なアドバイスをしてもらうことができ、実際に自首することになった場合は弁護士が警察署に同行してくれます。
このように刑事事件においては弁護士のサポートが不可欠となりますので、背任罪を犯してしまったときはすぐに弁護士に相談するようにしましょう。
背任罪の構成要件に該当する行為をしたときはグラディアトル法律事務所に相談を
背任罪は、不正融資や粉飾決算など会社(被害者)に対して、多額の損害を与えることの多い犯罪ですので、悪質な事案になると初犯であっても実刑になる可能性があります。少しでも有利な処分を獲得するには、刑事事件に強い弁護士のサポートが不可欠ですので、まずはグラディアトル法律事務所までご相談ください。
当事務所では、刑事事件に関する豊富な経験と実績がありますので、背任事件に関しても事案に応じた適切な弁護活動を行うことができます。被害者との示談交渉も得意としていますので、どうぞ安心してお任せください。
当事務所では、相談は24時間365日受け付けておりますので、早朝・夜間や土日祝日であっても関係なく対応可能です。また、初回法律相談を無料で対応していますので、まずは相談だけでも結構です。
刑事事件は、スピード勝負と言われるように迅速な対応が重要になりますので、少しでも早く弁護活動に着手するためにもまずは当事務所までお問い合わせください。
まとめ
背任罪は、他人の事務を処理する者が自己もしくは第三者の理系を図り、または本人に損害を与える目的で、任務に背く行為をして、本人に財産上の損害を与えることで成立する犯罪です。このような構成要件に該当する行為をしてしまったときは、逮捕・起訴される可能性がありますので、すぐに弁護士に相談するようにしましょう。
背任罪を犯してしまった方は、経験と実績豊富なグラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。