「背任罪で共犯は成立する?」
「背任罪の共犯にはどのような種類がある?」
「背任罪の共犯者の疑いをかけられたときはどのように対処すればいい?」
背任罪は、「他人のためにその事務を処理する者」に限って成立する犯罪ですので、原則として一定の身分がなければ処罰されることはありません。
しかし、一定の身分がない人であっても、身分がある人と協力して犯罪を行った場合には、背任罪の共犯として処罰される可能性があります。
共犯には、どのように犯罪に関与したかによって「共同正犯」、「教唆犯」、「幇助犯」の3種類があり、それぞれ成立要件や刑罰が異なってきますので、それらの違いをしっかりと押さえておきましょう。
本記事では、
・背任罪における共犯とは ・背任罪の共犯者に科される刑罰 ・背任罪の共犯者の疑いをかけられたときの対処法 |
などについてわかりやすく解説します。
背任罪の共犯者になってしまったときは、逮捕・起訴のリスクがありますので、すぐに弁護士に相談して、被害者との示談などの弁護活動をしてもらうようにしましょう。
目次
背任罪では一定の身分がなくても共犯が成立する
そもそも背任罪では共犯が成立するのでしょうか。
背任罪は身分犯
背任罪は、「他人のためにその事務を処理する者」に限って成立する犯罪ですので、原則として一定の身分がなければ処罰されることはありません。
たとえば、銀行の不正融資の事案だと、背任罪が成立するには行為者に融資の実行を決定する権限が必要になりますので、そのような権限がない人が不正融資に関わったとしても背任罪は成立しません。
身分がなくても身分者に加担することで共犯が成立する
このように背任罪の成立には一定の身分が必要になるため、身分のない人が背任罪に関与したとしても、背任罪の共犯が成立しないのではないかという問題が生じます。
しかし、判例により、身分がなくても身分者に加担することで共犯が成立するとの判断が確立していますので、身分犯である背任罪であっても共犯が成立することになります。(大審院昭和8年9月29日判決)
背任罪における共犯には3種類ある
背任罪の共犯には、どのように犯罪に関与したかによって、共同正犯、教唆犯、幇助犯の3種類があります。以下では、3種類の共犯の内容について説明します。
背任罪の共同正犯
共同正犯とは、犯罪を共同で実行した人のことをいいます。共同正犯は、全員が自分の犯罪として実行する意思を持っているのが特徴です。たとえば、2人で1人の被害者を殴る蹴るなどして怪我をさせたような場合には、傷害罪の共同正犯になります。
背任罪であれば、一定の身分がある人と共同して、任務違背行為を行い、被害者に財産的な損害を与えた場合が共同正犯になります。
背任罪の教唆犯
教唆犯とは、人をそそのかして犯罪を実行させた人のことをいいます。教唆犯は、自分自身は直接犯行を行わず、他人に犯罪を行われるのが特徴です。たとえば、AがBに対して、Cを殴るようそそのかして、BがCを殴って怪我をさせた場合、Aは傷害罪の教唆犯になります。
背任罪であれば、身分のない人が身分のある人をそそのかして、任務違背行為を行わせて、被害者に財産的な損害を与えた場合が教唆犯になります。
背任罪の幇助犯
幇助犯とは、正犯の行為を手助けして犯行を容易にさせた人のことをいいます。幇助の方法には、法律上の決まりがありませんので、凶器の準備、逃走の手助け、資金の用意だけでなく、心理的に励ますような方法も幇助にあたります。
教唆犯は人に犯罪の実行を決意させるものであるのに対して、幇助犯はすでに犯罪の実行を決意している人の手助けをするという違いがあります。
背任罪であれば、身分者が任務違背行為をしているのに気づいていながら、それを黙認していたような場合が幇助犯になります。
背任罪の共犯に関する判例
背任罪の共犯に関する代表的な判例には、以下のようなものがあります。
最高裁平成15年2月18日決定|住専事件
【事案の概要】
不動産会社A社は、運転資金が不足する都度、住宅金融専門会社(住専)のB社からの融資で急場をしのいでおり、B社からの融資がなければ、倒産に追い込まれる危機的状況に陥っていました。
A社の代表取締役Xは、B社の融資担当者Yに対して運転資金の借り入れを申し入れたところ、Yは、これに応じなければA社が倒産し、融資金が回収不能となるおそれがあったため、これまでの放漫な貸付けに対する責任の回避を図るために、迂回融資の方法によって、実質無担保でA社に融資を行いました。
このような行為によりB社には貸付金の回収が困難になるという損害が生じたことから、XおよびYが特別背任罪の共同正犯として起訴されました。
【裁判所の判断】
裁判所は、以下のような理由から非身分者であるXに特別背任罪の共同正犯の成立を認めました。
・Xは、Yら融資担当者がその任務に違背するに当たり、Yらの任務違背、B社の財産上の損害について高度の認識を有していたこと ・Xは、Yらが自己およびA社の利益を図る目的を有していることを認識していたこと ・Xは、Yらが本件融資に応じざるを得ない状況にあることを利用しつつ、B社が迂回融資の手順を採ることに協力するなどして、本件融資の実現に加担していること |
最高裁平成17年10月7日決定|イトマン事件
【事案の概要】
被告人Xは、総合商社A社の常務取締役として絵画等美術品の販売事業を統括していたYに依頼し、A社およびその子会社であるB社に絵画等186点を高額で買い取らせ、A社およびB社に対して財産上の損害を与えたという事案です。
なお、XとYはそれぞれ自己が経営する会社間で巨額の資金を融通し合う関係があり、Xの資金が潤沢になれば、Yの資金需要も満たされるという関係にありました。
【裁判所の判断】
裁判所は、以下のような理由から非身分者であるXに特別背任罪の共同正犯の成立を認めました。
・XがYの行為の任務違背行為や被害者に財産的損害が生じることを十分に認識していたとした ・XとYは、お互いに無担保で数十億円単位の融資をし合い、お互いが支配する会社がいずれもこれに依存するような関係にあった ・Yにとっては、Xに取引上の便宜を図ることが自らの利益にもつながるという状況にあった ・Xは、そのような関係を利用して、本件各取引を成立させたとみることができる |
背任罪の判例をたくさん記載している記事もありますので、参考にしてください。
背任罪に関する著名判例3選と有罪・無罪になった判例を弁護士が解説
背任罪の共犯者に科される刑罰
背任罪の共犯者にはどのような刑罰が科されるのでしょうか。以下では3つの共犯の種類ごとの刑罰を説明します。
背任罪の共同正犯の刑罰
共同正犯は、犯罪を共同して実行していますので、自ら犯罪を実行した「正犯者」としての刑罰が科されます。
背任罪の法定刑は、5年以下の懲役または50万円以下の罰金と定められていますので、背任罪の共同正犯には、この法定刑の範囲内の刑罰が科されることになります。
背任罪の教唆犯の刑罰
教唆犯は、人をそそのかせて犯罪の実行を決意させるという点で、自分で犯罪を行った場合と同様の悪質性があることから、正犯と同じ扱いを受けます。
そのため、背任罪の教唆犯には、正犯者と同様に5年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。ただし、正犯と教唆犯では、実際に犯罪を行った正犯の方が責任が重いため、実際の量刑では教唆犯の方が軽くなる傾向があります。
背任罪の幇助犯の刑罰
幇助犯は、すでに犯罪の実行を決意している人の手助けをするという点で共同正犯や教唆犯よりも責任の程度が軽いことから、正犯の刑を軽減することになっています。
そのため、背任罪の幇助犯には、背任罪の法定刑が軽減され30日以上2年6月以下の懲役または5000円以上25万円以下の罰金が科されます。
背任罪の共犯者の疑いをかけられたときの対処法
背任罪の共犯者の疑いをかけられてしまったときの対処法には、以下のようなものがあります。
被害者との示談
共犯として背任罪を犯してしまったときは、すぐに被害者との示談を行うようにしてください。背任罪は、被害者に対して財産的損害を与える犯罪ですので、示談により損害の回復ができれば逮捕や起訴を回避できる可能性が高くなります。
ご自身で全額の被害弁償ができないようなときは、共犯者と協力しながら被害弁償を進めていくとよいでしょう。
警察への自首
捜査機関に事件が発覚する前であれば、自首をすることで逮捕や起訴を回避できる可能性があります。
なぜなら、自首により逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれがないということを示すことができるからです。また、自首により反省の態度を示すこともできますので、検察官が起訴・不起訴を判断する際の有利な事情として考慮してもらえます。
弁護士への相談
背任罪の共犯者の疑いをかけられてしまったときは、すぐに弁護士に相談するようにしてください。
共犯事件で示談をするには、まず共犯者と連絡をとり、足並みをそろえて示談交渉ができないかを探っていく必要があります。被害者としても複数の共犯者と個別に交渉するよりも、一度の交渉できた方が時間や手間もかからず合意がまとまりやすいといえます。
共犯者同士で協議する際や被害者との交渉をする際には、弁護士を間に挟んで対応することで、お互いに冷静に話し合いを進めることができますので、自分だけで対応するのではなく弁護士に依頼すべきでしょう。
背任罪の共犯事件の弁護はグラディアトル法律事務所にお任せください
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当事務所では、刑事事件に関する豊富な経験と実績を有していますので、さまざまな状況に臨機応変に対応することができます。特に、共犯事件では他の共犯者と足並みをそろえた対応が必要になる場面もありますので、経験豊富な弁護士によるサポートが不可欠です。当事務所の弁護士は、共犯事件の弁護に関する経験も豊富ですので、どうぞ安心してお任せください。
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刑事事件は、スピード勝負と言われるように迅速な対応が重要になりますので、少しでも早く弁護活動に着手するためにもまずは当事務所までお問い合わせください。
まとめ
背任罪は、一定の身分がある人に限って成立する犯罪ですが、身分がない人でも身分がある人と一緒に犯罪をすることで背任罪が成立することがあります。共犯者は、犯罪に関与した程度や役割に応じて責任内容が変わってきますので、不当に重い処罰をされないようにするには、刑事事件に強い弁護士による弁護活動が不可欠となります。
共犯として背任罪に関与してしまった方は、まずは経験と実績豊富なグラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。