背任罪は、会社員や公務員などが、任務に背いて会社に損害を与える犯罪です。
ドラマでも度々取り上げられていますが、具体的なイメージが湧きづらいという方は多いでしょう。最近では、経費のプライベート利用や不正融資など、会社員の不祥事で背任罪が成立するケースも増えています。
「背任罪がよく分からない」
「具体的にどういったケースで成立する?」
「突然、背任罪を疑われて戸惑っている」
こういったご相談をいただくケースは、決して少なくありません。
そこで本記事では、背任罪の内容や構成要件(成立要件)、具体的なケースをわかりやすく解説します。実際に、会社員が背任罪で逮捕された事例も紹介するので、ぜひご一読ください。
目次
背任罪とは?
背任罪とは、他人から事務を任された人が、自己または第三者の利益を図る目的で、その任務に背く行為をして、財産上の損害を与える犯罪です。
ホワイトカラー犯罪の典型例と言われており、会社員や銀行員、公務員など、幅広い職種で成立します。例えば、銀行の支店長が返済能力のない友人に対して資金を貸し付ける行為が、背任罪の一例です。有名なドラマ「半沢直樹」をイメージすると分かりやすいかもしれません。
背任罪の法定刑は、「5年以下の懲役」または「50万円以下の罰金」となっています。
もっとも、実際のところは起訴されると大半が「懲役刑」で処罰されており、罰金刑となるケースはほとんどありません。
(出典:令和5年 司法統計年報(刑事編)|裁判所)
(背任)第247条 他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。 |
背任罪は未遂でも処罰される
背任罪は、本人に財産上の損害を与えた時点で完成し「既遂」となります。
ただし、損害が発生する前の段階でも「未遂罪」として処罰されます。
例えば、銀行の融資担当が、返済能力のない友人に貸付をしようとしたところ、入金前に上司にバレてしまったというケースが、「未遂罪」に該当します。
実際に損害が発生していなくても、「任務に背く行為」を行おうとした時点で処罰の対象となるのです。
(未遂罪)第250条 この章の罪の未遂は、罰する。 |
背任罪の構成要件(成立要件)をわかりやすく説明すると?
背任罪は、次の4つの構成要件(成立要件)を全て満たした場合にのみ成立します。
「誰が?」→他人のための事務を処理している者
背任罪は、「他人のための事務を処理している者」にのみ成立する犯罪です。
「他人から事務を任された」という立場でなければ、そもそも背任罪は成立しません(真正身分犯)。他人のための事務処理者の典型例は会社員です。会社員は、会社という法人(他人)のために業務(事務)を処理しているため、背任罪の主体となりうるのです。
なお「他人のための事務」は、あくまでも「他人の事務」に限られます。借金の返済や債務の履行などは「他人の(利益の)ため」に行っていますが、自己の事務なので背任罪は成立しません。
◉他人のための事務を処理している者の例
(◯)会社員 (◯)銀行員 (◯)公務員 など (✕)代金を支払っていない買主本人 (✕)商品を渡していない売主本人 (✕)借金の返済ができなかった債務者本人 など |
「目的は?」→図利加害目的
「図利加害目的」とは、自分自身や第三者の利益を図る目的、または会社など本人に損害を与える目的のことです。
① 自己もしくは第三者の利益を図る目的(図利目的) ② 本人(会社など)に損害を与える目的(加害目的) |
上記のいずれかの目的があった場合にのみ、背任罪が成立します。
稀に、誤発注などで損害を発生させてしまい、会社から「背任行為だから、責任を取れと言われた」というご相談をいただきます。「10個頼むべきなのに、間違えて100個頼んで、会社に損害を発生させた」などのケースです。
この場合は「図利加害目的」が認められないので、背任罪は成立しません。
背任罪は、あくまでも「自分が利益を得るため(図利)」「会社への恨みを晴らすため(加害)」などの目的で損害を与えた場合にのみ成立するのです。
◉図利加害目的が認められるケース、認められないケース
(◯)企業秘密を教えれば、お金を渡すと言われて漏洩させた (◯)会社を潰すために、意図的に誤った経営判断を行った (✕)誤送信によって、個人情報や商品情報を流出させた (✕)意図せぬ誤発注で、会社に損失を発生させた (✕)会社に利益を出す目的で、リスクの高い取引をして失敗した |
「どのような行為?」→任務違背行為
任務違背行為とは、与えられた職務や義務に反する行為のことです。
会社の就業規則や雇用契約など、会社員や公務員として当然に果たすべき義務に反する行為が該当します。
例えば、会社員が企業秘密を漏洩させてお金を受け取り、会社に損害を与えるようなケースをイメージしてください。会社員は、就業規則などで守秘義務を負っています。そのため、「企業秘密の漏洩=与えられた職務や義務に反する行為」だと言えるでしょう。
一方で、本人に損害を与えても、与えられた職務や義務の趣旨に則った行動をとっていれば、任務違背行為にはなりません。「仕事の進め方を誤った」などで、意図せず損害を発生させたのであれば、背任罪は成立しない可能性が高いでしょう。
◉任務違背行為の例
(◯)意図的に、会社の企業秘密を漏洩させる (◯)回収できないことが明らかな融資を、担保を取らずに実行する (✕)経営的な判断を誤って、会社に損失を発生させる (✕)仕事で失敗して、会社に損失を与える |
「犯罪の結果は?」→本人に財産上の損害が発生
最後の要件として、本人(会社など)に財産上の損害が発生する必要があります。
「財産上の損害」には、金銭的な損失だけでなく、将来的な損失や機会の喪失なども含まれます。
例えば、会社の営業秘密を競合他社に漏洩したケースを考えてみてください。はっきりとした金銭的損失が発生していなくても、会社の競争力は低下しているはずです。競合他社に顧客を取られたり、売上が減少したりする可能性は十分に想定されるでしょう。
そうすると、財産上の損害が発生したと言えるので、背任罪が成立します。
背任罪に当たるケースのわかりやすい例
それでは、実際にどのようなケースで背任罪が成立するのでしょうか?
典型的なケースを2つ紹介します。
金融機関の担当者が、不正に融資を実行する
金融機関の融資担当者が、不正に融資を実行するケースが背任罪の典型例です。
例えば、融資担当者が、回収の見込みがない相手に対して、十分な担保を取らずに融資を実行するようなケースです。
まず、銀行の融資担当者は「他人(銀行)のための事務処理者」です。そして、「回収の見込みがない相手に対して、十分な担保を取らずに実行する融資」は、前述した「任務違背行為」となる可能性があります。
さらに、意図的に実行したのであれば、何らかの「図利加害目的」も認められるでしょう。
・融資のノルマを達成して、自分の人事評価を高めたかった(図利目的) ・学生時代の友人に頼まれて仕方がなかった(図利目的) ・不正な融資で、リベート(謝礼)を受け取るつもりだった(図利目的) ・支店長へ個人的な恨みがあった(加害目的) など |
そうすると、背任罪の構成要件(成立要件)を満たしています。不正な融資によって銀行に損害が発生すると、背任罪が成立する可能性が高いでしょう。
社員が、会社のクレジットカードを使い込む
会社のクレジットカードを私的に利用するケースも、背任罪に該当します。
例えば、会社のクレジットカードで個人的な買い物をしたり、プライベートな飲食費を経費として計上し、会社に損害を与える行為です。このような行為は、会社の財産管理者(事務処理者)としての任務に違背しています。
さらに、買い物や飲食など、私的な目的で利用しているのであれば、図利加害目的も認められます。
「社内ルールで、領収書の提出が必要ない」 「同僚や先輩もやっている」 「経理担当者が確認していない」 |
こういった状況から、プライベートな利用でも、当たり前のように経費計上している人もいるでしょう。しかし、実際には「背任罪」が成立する可能性があるのです。中には、経費用クレジットカードを私的に利用したとして逮捕にいたったケースもあるので、十分に注意しましょう。
◉法人クレカの私的利用によって逮捕されたケース
自動車大手「ホンダ」が法人契約していたクレジットカードを私的に使い、同社に計約2300万円の損害を与えたとして、警視庁は7日、同社元社員で現在は別会社の役員の⚫︎⚫︎容疑者(⚫︎)を背任容疑で逮捕し、発表した。認否は明らかにしていない。 捜査2課によると、⚫︎⚫︎容疑者は2019年4月~22年12月ごろ、ホンダから社員個人に貸与されたクレジットカードを約2千回使用。計約2300万円分を私的に利用するなどし、同社に損害を与えた疑いがある。「コロナ対策費用」などの名目で精算していた。明細を添付しなくても社内決裁が通る仕組みだったという。 (引用:ホンダ元社員を背任容疑で逮捕 法人クレカの私的利用で2300万円|朝日新聞) |
背任罪と他の犯罪(財産犯)との違い
背任罪と混同されやすい財産犯として、「横領罪」「特別背任罪」「詐欺罪」などがあります。それぞれの違いについて説明します。
横領罪との違い
背任罪と最も比較されやすいのが、横領罪です。
背任罪と横領罪は、「いずれも信任関係に反する不正を行う」という点で共通しています。ただし、主体や客体、行為の内容が異なります。
【背任罪と横領罪の違い】
背任罪 | 横領罪 | |
主体 | 他人のための事務処理者 | 他人の物の占有者 |
客体 | 全体財産 | 個別財産 |
行為 | 委託された任務に背いた行為 | 横領行為※所有者でしかできない処分をすること |
具体的なケース | ・銀行員が、担保を取らずに、回収困難な融資を実行する ・ライバル会社に、企業秘密を漏洩する など | ・経理の担当者が、会社のお金を着服する ・友人から借りた物を、勝手に売る |
法定刑 | 5年以下の懲役又は50万円以下の罰金 | 5年以下の懲役 |
実際のところ、「背任罪」と「横領罪」は競合するケースが多いです。そこで判例は、背任罪と横領罪を「誰の名前で行われたのか、経済的な効果は誰に帰属するのか」で区別していると言われています。
・「本人の名義」で行われた場合 → 背任罪が問題となる ・「自己の名義」で行われた場合 → 横領罪が問題となる |
例えば、金融機関の担当者が行う不正な融資は、あくまでも「銀行(本人)」の名義で行われています。債権者は銀行(本人)であり、利息などの経済的な効果も、銀行(本人)に帰属するでしょう。そのため、横領罪ではなく背任罪が成立します。
一方で、経理担当者がお金を着服するケースでは、会社のお金を、経理担当者自身が移動させています。着服されたお金は、経理担当者の私的な用途で使われるため、経済的な効果も、経理担当者(自己の名義)に帰属するケースが通常です。そのため、背任罪ではなく横領罪が成立します。
特別背任罪との違い
特別背任罪は、刑法ではなく、会社法で定められている犯罪です。
背任罪との最も大きな違いは、犯罪が適用される人の立場です。
通常の「背任罪」は一般の従業員やアルバイトでも成立しますが、「特別背任罪」は株式会社の取締役や支配人など、一定の役職にある者にしか適用されません。会社関係者という身分により、「背任罪(刑法)」 の刑を加重した犯罪が「特別背任罪」です(不真正身分犯)。
法定刑も背任罪よりはるかに重く、「10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはこれを併科」となっています。
詐欺罪との違い
背任罪と詐欺罪は、どちらも信用を裏切るという点で共通してます。
しかし、行為の方法が大きく異なります。
「背任罪」は、任務違反行為によって損害を与える犯罪です。他人の事務を処理している者が、任務に背いて損害を与えると、方法を問わず成立します。
一方「詐欺罪」は、人を欺いて財物を交付させると成立する犯罪です。単に「約束を破って損失を与えた」というだけでは成立しません。あくまでも、「被害者が騙されて、自分の意思で財物を交付した」ということが必要です。
背任罪が疑われたときにすべきこと
背任罪を疑われたら、速やかに弁護士に相談することが大切です。
疑われた方にも、おそらく様々なご事情があることでしょう。
「なぜ自分が背任罪の疑いをかけられるのか分からない」 「自分は上司の指示に従っていただけ」 「そこまで悪いことだと思っていなかった」 |
どういったケースであれ、何の対処もせずに放置しておくと、逮捕・起訴される可能性が出てきます。
背任罪を認めるにしても、事実関係を争うにしても、すぐに弁護士に相談して、逮捕・起訴を阻止するための行動を起こすことが必要なのです。
◉背任罪で弁護士ができること
・会社と示談交渉をして、被害届の提出を防ぐ ・加害者にとって、有利な証言や証拠を収集する ・警察の取調べにどう対応するかアドバイスする ・自首、出頭する場合のサポート ・謝罪や反省の意思を示すための方策を考える ・速やかに弁護活動を始めて、逮捕、起訴を防ぐ など |
ご相談をいただくタイミングが早いほど、背任罪の逮捕、起訴を防げる可能性は高くなります。背任を疑われた、不正を行ってしまったという方は、1人で悩むのではなく、できる限り早く弁護士にご相談ください。
まとめ
最後に、今回の記事のポイントをまとめます。
◉背任罪は、次の4つの要件を満たした場合に成立する
① 他人のための事務を処理者が、 ② 図利加害目的で、 ③ 任務違背行為を行い、 ④ 本人に財産上の損害が発生した場合 |
◉背任罪となるケースの典型例は2つ
・金融機関の担当者が、不正に融資を実行する ・会社員が、法人のクレジットカードを使い込む |
◉他の犯罪(財産犯)との違い
・横領罪との違い →誰の名義で行なったのか、経済的効果は誰に帰属しているのか ・特別背任罪との違い →犯罪が適用される人の立場 ・詐欺罪との違い →被害者が騙されて、自分の意思で財物を交付しているか |
以上です。この記事が役に立った、参考になったと感じましたら、是非グラディアトル法律事務所にもご相談ください。