【ケース別】傷害罪の気になる判例6選!初犯で実刑・うつ病・騒音など

傷害罪の判例
弁護士 若林翔
2024年07月03日更新

傷害罪と聞くと「殴る」「蹴る」などの暴力によって、相手にケガをさせてしまう犯罪をイメージする人も多いかもしれません。しかし実は、傷害罪が成立するケースは、直接的な暴力行為に限られません

この記事では、実際の判例を元に、傷害罪が成立する具体的なケースについて解説します。

初犯でも実刑判決になったケース

うつ病やPTSDなどの精神的苦痛によって傷害罪になったケース

騒音、性病などの暴力以外の方法で傷害罪が成立したケース など

具体的にどのようなケースで傷害罪が成立するのか、不安を感じている方は是非ご一読ください。

【ケース別】傷害罪の判例を6つ紹介

傷害罪は、直接的な暴力行為以外にも、様々な場面で成立する可能性がある犯罪です。

ここでは、傷害罪の判例を、ケース別に6つ紹介します。

傷害罪の判例

①傷害罪の初犯で、実刑(懲役)となった判例

傷害罪の初犯だと、実刑判決が出ることは少ないと思っている人も多いかもしれません。

しかし事件の内容によっては、初犯でも、実刑判決(懲役)になるケースもあります。

最初に「札幌地判令和4年5月25日判決」を紹介します。

この判例は、ホストクラブの従業員が、上司から注意されたことに逆上し、包丁で上司を刺したという事案です。

傷害罪の初犯で、実刑(懲役)となった判例

(事案の概要)

① 加害者(ホストクラブの従業員)は、被害者(上司)から、飲酒時の勤務態度について、以前から何度も注意されていた。

② 事件当日も、加害者は、ハイボールや日本酒を飲んで問題行動を起こしており、被害者(上司)から、休憩するか帰宅するように指示を受けた。

③ 被害者(上司)から注意された加害者は、店舗から近いスーパーに行って、包丁を購入した。

④ 店舗に戻った加害者は、被害者と揉み合いになった。

⑤ その際、被告人が右手に持っていた包丁が、被害者の左臀部(お尻付近)に刺さった。

⑥ その後、駆けつけた警察官に現行犯で逮捕された。

⑦ 加害者からは、呼気呼気1L当たり0.4mgのアルコールが検出された。

争点となったのは

・加害者(ホスト)に殺意があったのか(殺人未遂なのか、傷害なのか)

責任能力があったのか(飲酒によって、判断能力を失っていたのではないか)

という点です。

この点について、裁判官

・包丁が刺さったのは偶然ではない

・しかし、諸般の事情を考慮すると、殺意があったと認定することは出来ない

・飲酒の影響を踏まえても、通常の判断能力はあったと考えられる

と判断して、傷害罪を成立させました。

そして

・被告人が、被害者に対し謝罪するとともに、被害弁償として180万円は支払う旨示して交渉していること

・酒を断ち、実家に帰り親族の監督に服すると約束するなど反省していること

前科がないこと

などの事情は考慮されたものの、懲役2年の実刑判決が下されました。

傷害罪の初犯は、罰金か不起訴になるケースが大多数ではあるものの、事件の態様によっては、実刑判決(懲役)が下されるケースもゼロではありません。

※関連コラム

傷害罪の初犯での刑罰とは?不起訴処分を獲得するポイントを解説

②うつ病(精神的苦痛)で傷害罪が成立した判例

傷害罪について、「人を殴って怪我をさせる犯罪」というイメージを持つ人は多いかもしれません。

しかし、精神的苦痛によっても傷害罪は成立します。

例えば、執拗な嫌がらせ行為によって、被害者が精神疾患(うつ病など)を発症し、傷害罪が成立するケースがあります。

ここでは、「神戸地判平成21年4月17日判決(平成20年(わ)第907号,第1021号,第1354号)」を紹介します。

この判例は、被害者(職場の上司)に対して恋愛感情を抱いた加害者が、いわゆるストーカー行為を繰り返した結果、被害者(上司)がうつ病を発症してしまったという事案です。

うつ病(精神的苦痛)で傷害罪が成立した判例

(事案の概要)

① 加害者は、被害者(上司)に恋愛感情を抱き、1日に数回から数十回のメールを、連日にわたって送信していた。

② 加害者は、被害者(上司)から、今後メールを拒否する旨を告げられた。

③ 加害者は、被害者(上司)を憎むようになって、次のようなストーカー行為を繰り返した。

・連続して電話をかける

・電話に出なければ家に行くと告げる

・車のワイパーに、メモを挟み込む

・駐車場で待ち伏せする

・ネット上に、被害者の名誉を毀損するHPを立ち上げる

④その結果、被害者は心身に不調を来すようになった。

⑤クリニックを受診した結果、「外傷後ストレス障害、うつ病性障害」だと診断された。

※ポイント

この事件では、加害者に次のような酌むべき事情もありました。

・30万円を贖罪寄付(反省の思いを形にするために、弁護士会や慈善団体などに寄付すること)している

・反省の態度を示している

・前科前歴がない

しかし犯行が執拗・悪質で、犯行の結果も重大であるとして、懲役3年の実刑判決が科せられました。

このように、傷害罪は、直接暴力を振るっていなくても成立し、事件の態様によっては初犯で実刑判決となる場合もあるのです。

③PTSDが傷害と認められた判例

PTSD(心的外傷ストレス)が傷害にあたることは、最高裁判所の判例によっても示されています(最決平24年7月24日)。

この判例では、

「PTSDのような精神的傷害が、刑法上の傷害の概念に含まれるのか」

が問題となりました。

加害者側は、PTSDのような精神的障害は,刑法上の傷害には含まれないと主張していましたが、最高裁判所によって

「PTSDのような精神的機能の障害を惹起した場合も刑法にいう傷害に当たると解するのが相当である。」

という判決が下されました。

最高裁判所の判例は、下級裁(地方裁判所など)の判断も拘束します。

「PTSDのような精神的傷害によっても、傷害罪が成立する」ことは、傷害事件の共通ルールのようなものとして考えておきましょう。

④騒音で傷害罪が成立した判例

騒音被害によって、傷害罪が成立するケースもあります。

例えば、連日連夜ラジオを大音量で鳴らし続けた結果、被害者が慢性頭痛性を発症した判例があります。

(最判平17.3.29)

騒音で傷害罪が成立した判例

事案の概要

① 加害者は、自宅の窓を開けて、付近にラジオ及び複数の目覚ましを置いていた。

② 約1年半の間にわたって、連日朝から深夜ないし翌未明まで、ラジオの音声及び目覚まし時計のアラーム音を大音量で鳴らし続けていた。

③ 加害者は、自分の行為が、被害者に精神的ストレスによる障害を生じさせるかもしれないことを認識していた。

④ その結果、被害者は、慢性頭痛症、睡眠障害、耳鳴り症を発症した。

※ポイント

この判例では、騒音行為が、傷害罪の実行行為にあたるのかが問題となりましたが、「被告人の行為が傷害罪の実行行為に当たる」として、有罪判決が下されました。

このように、騒音行為など、暴力以外によって傷害の結果が生じた場合も、傷害罪が成立する可能性があります。

⑤性病をうつして傷害罪が成立した判例

性病をうつした行為によって、傷害罪が成立した判例もあります。

判決文抜粋

傷害罪は他人の身体の生理的機能を毀損するものである以上、その手段が何であるかを問はないのであり、本件のごとく暴行によらずに病毒を他人に感染させる場合にも成立するのである。
性病を感染させる懸念あることを認識して本件所為に及び他人に病毒を感染させた以上、当然傷害罪は成立する。

(事件名  傷害、性病予防法違反事件(最判昭27年6月6日))

※ポイント

この判例では、暴行以外の手段によって傷害罪が成立するのかが問題となりました。

しかし、人の生理的機能を害する行為であれば、手段は問わないとして、傷害罪が成立しています。

性病をうつして傷害罪が成立した判例

身近な事例でいうと、例えば

・自分が性病だと知っている人が、相手に感染させても構わないと思って性交渉をする

・流行りのウイルスに感染している人が、従業員や客に感染させようと思って飲食店を利用し、それにより従業員や客に感染させる

等のケースでは、傷害罪に問われる可能性があります。

※関連コラム

新型コロナをばらまく・感染させる場合の威力業務妨害罪・傷害罪・暴行罪について

⑥被害者の同意があっても、傷害罪が成立した判例

傷害罪では、被害者が同意をして行った傷害行為に対しても、犯罪が成立する場合があります。

ここでよく問題になるのが、保険金詐欺の事例です。

※傷害罪の保険金詐欺とは?

保険金を受け取ることを目的に、加害者と被害者が協力して、傷害事件を起こすケース。例えば、被害者の承諾を得た上で、過失による自動車事故を装って、故意に自動車を衝突させるケースが、保険金詐欺の典型例です。

被害者の同意があっても、傷害罪が成立した判例

この点について、判例では次のように示されています。

※判決文抜粋

被害者が身体傷害を承諾したばあいに傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在するという事実だけでなく、右承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合せて決すべきものである(最判昭55年11月13日)

承諾があることで、犯罪が成立しなくなるケースはゼロではありません。

しかし、保険金詐欺のような事例では、承諾がそもそも違法な目的で行われています。

そのため、承諾によって傷害行為が正当化されることはなく、傷害罪が成立するのです。

被害者の承諾が与える影響は犯罪によって異なりますが、傷害罪では、様々な事情を総合的に考慮して、個別のケースに応じた判断がされます。

被害者の同意があったからといって、必ずしも犯罪が成立しない訳ではありません。

軽率な行動は慎むようにしましょう。

【Q&A】傷害罪の判例に関するよくある質問

傷害罪の判例に関するよくある質問

Q,髪を切ると傷害罪が成立するって本当?

古い判例ですが、女性の髪を根本から切断したことで、傷害罪が成立した判例があります(東京地判昭38年3月23日)。

一方で、カミソリで女性の髪を切断した事例について、暴行罪を成立させた判例もあります(大判明45年6月20日)。

個別の事案によっても異なるため、一概には言えませんが、傷害罪・暴行罪のいずれかには該当する可能性が高いと考えられるでしょう。

Q,まだ産まれていない胎児にも傷害罪は成立する?

現行刑法上、胎児は、母体の一部とされています。

そのため、胎児に対して傷害罪が成立する可能性は低いかもしれません。

ただし、母体に対する暴力によって、胎児を傷害してしまった場合、母親に対する傷害罪が成立する可能性があります。(最決昭63年2月29日)

Q,DVによって傷害罪が成立した判例はある?

DV事件を起こしてしまった場合、傷害罪だけではなく、DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律違反)等によっても処罰される可能性があります。

例えば、傷害事件によって、10万円の罰金刑に処せられた加害者が、DV防止法の保護命令にも違反して、8ヶ月の懲役刑(執行猶予付き)に処せられた判例があります。(甲地平16年3月2日)

※DV防止法の保護命令とは?

DV被害者からの申立てにより、裁判所が、配偶者に対して、DV被害者の身辺へのつきまとい等の行為を禁止する命令(保護命令)を発令する制度のこと。違反すると刑罰が科せられる。

Q,被害者が、暴行から逃げる途中にケガをしたらどうなる?

被害者の傷害が、加害者の暴行ではなく、暴行から逃げる途中の事故によって生じたものであっても、傷害罪が成立する可能性があります。

例えば、

「加害者からの暴行に耐えかねた被害者が、逃走しようとして池に落ちこみ、岩に頭を打ちつけて死亡したケース」

で、傷害致死罪を成立させた判例があります。(最決昭59年7月6日)

傷害罪で悩んだらグラディアトル法律事務所へ

最後に、今回の記事の要点を整理します。

・傷害罪は、暴力以外にも様々なケースで成立する

・初犯でも、実刑判決(懲役刑)を受ける場合がある

・うつ病やPTSDなども、刑法上の傷害になる

・コロナウイルスや性病などを感染させた場合も、傷害罪になる可能性がある

・暴行から逃げる途中のケガについても、傷害罪が成立しうる

傷害罪は、「殴る」「蹴る」などの暴力行為以外にも様々な場面で成立する可能性がある犯罪です。

「もしかして傷害罪になるのでは…?」と不安を感じたら、速やかに弁護士に相談しましょう。

グラディアトル法律事務所では、これまでにも数多くの傷害事件の相談を受けて、警察や検察と交渉を行ったり、被害者との示談を成立させる等の弁護活動を行ってきました。

勇気をもってご相談いただいたことで、事態が好転したご相談者様は数え切れません。

傷害事件で悩んだら、傷害事件に強いグラディアトル法律事務所へご相談ください。

グラディアトル法律事務所では、24時間365日、全国対応可能な体制を整備しています。

LINEでの無料法律相談も受け付けているので、是非お気軽にご連絡ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

お悩み別相談方法

弁護プラン一覧

よく読まれるキーワード