酒気帯び運転と酒酔い運転の違い〜元TOKIO山口達也氏逮捕に触れて〜

TOKIOの元メンバー山口達也さんが,酒気帯び運転(道路交通法違反)の疑いで逮捕された。

呼気から基準値の5倍近いアルコール,1リットルあたりおよそ0.7ミリグラムのアルコールが検出されたとのこと。

山口達也さんは何罪になるのだろうか?

酒気帯び運転?

酒酔い運転?

その両者の違いは?道路交通法ではどのように定められているのか?

「アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態」の定義は?

などについて,解説していく。

youtube動画もあるので,こちらもご覧いただけたら♪

まずは,山口達也さん逮捕のニュースを見てみよう。

元TOKIO山口達也氏酒気帯び運転で逮捕のニュース

元TOKIOの山口容疑者、呼気から基準値の5倍近いアルコールを検出

TOKIOの元メンバー山口達也容疑者酒気を帯びた状態でバイクを運転し車に追突したとして逮捕された事件で山口容疑者の呼気から基準値の5倍近くのアルコールが検出されていたことがわかった。

警視庁によると山口達也容疑者(48)は、午前9時半ごろ練馬区桜台の交差点で酒気を帯びた状態でバイクを運転し信号待ちをしていた車に追突した疑いがもたれている。この事故によるけが人はいなかった。

その後の捜査関係者への取材で山口容疑者の呼気を調べたところ基準値の5倍近くにあたる1リットルあたりおよそ0.7ミリグラムのアルコールが検出されていたことがわかった。

山口容疑者は友人の家へ行く途中だったと話していて、「お酒を飲んでバイクを運転し、事故を起こしたことは間違いありません」と容疑を認めているということだ。(ANNニュース)

https://times.abema.tv/news-article/8625420

 

酒気帯び運転と酒酔い運転の違い

酒気帯び運転も酒酔い運転も道路交通法により定められている。

酒気帯び運転とは,血液一ミリリットルにつき〇・三ミリグラム又は呼気一リットルにつき〇・一五ミリグラム以上の酒気を帯びて車両等を運転すること(道路交通法117条2の2第3号・同法65条1項,道路交通法施行令44条の3)をいう。

酒気帯び運転の罰則は,3年以下の懲役又は50万円以下の罰金だ。

 

酒酔い運転とは,酒に酔つた状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態をいう。)で車両等を運転すること(道路交通法117条2第1項)をいう。

酒酔い運転の罰則は,5年以下の懲役又は100万円以下の罰金だ。

警視庁HPより引用 https://www.keishicho.metro.tokyo.jp/kotsu/torishimari/inshu_info/inshu_bassoku.html

 

以上の道路交通法上の酒気帯び運転と酒酔い運転の定義を見てもらえれば分かるように,両者の違いは,呼気や血中のアルコール濃度により具体的に定まっているのではない。

血液一ミリリットルにつき〇・三ミリグラム又は呼気一リットルにつき〇・一五ミリグラム以上の酒気を帯びている状態が処罰対象となる。

その中で,アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態であれば酒酔い運転で,そうでなければ酒気帯び運転となる。

道路交通法

(酒気帯び運転等の禁止)
第六十五条 何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。
2 何人も、酒気を帯びている者で、前項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがあるものに対し、車両等を提供してはならない。
3 何人も、第一項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがある者に対し、酒類を提供し、又は飲酒をすすめてはならない。
4 何人も、車両(トロリーバス及び旅客自動車運送事業の用に供する自動車で当該業務に従事中のものその他の政令で定める自動車を除く。以下この項、第百十七条の二の二第六号及び第百十七条の三の二第三号において同じ。)の運転者が酒気を帯びていることを知りながら、当該運転者に対し、当該車両を運転して自己を運送することを要求し、又は依頼して、当該運転者が第一項の規定に違反して運転する車両に同乗してはならない。
(罰則 第一項については第百十七条の二第一号、第百十七条の二の二第三号 第二項については第百十七条の二第二号、第百十七条の二の二第四号 第三項については第百十七条の二の二第五号、第百十七条の三の二第二号 第四項については第百十七条の二の二第六号、第百十七条の三の二第三号)

第百十七条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一 第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反して車両等を運転した者で、その運転をした場合において酒に酔つた状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態をいう。以下同じ。)にあつたもの

第百十七条の二の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
三 第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反して車両等(軽車両を除く。次号において同じ。)を運転した者で、その運転をした場合において身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態にあつたもの

道路交通法施行令

(アルコールの程度)
第四十四条の三 法第百十七条の二の二第三号の政令で定める身体に保有するアルコールの程度は、血液一ミリリットルにつき〇・三ミリグラム又は呼気一リットルにつき〇・一五ミリグラムとする。

酒酔い運転該当性の判断基準

前述のとおり,酒気帯び運転と酒酔い運転の違いは,「アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態」といえるかどうかだ。

では,「アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態」とはどのような状態だろうか?

「アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態」とは,道路における危険を防止し、交通の安全と円滑を図るため運転者に課せられている注意義務を十分に守ることができる身体的または精神的状態下で行なう運転ができないおそれがある状態をいう(福岡高判昭和47年1月26日参照)

この状態かどうかの判断においては,概念が抽象的であること,取り調べを行った警察官の主観が入りやすいこと,酒気帯び運転が別途規定されていることなどから,慎重な判断をすべきだとされている。

具体的には,呼気や血中のアルコール濃度のほか,運転前の飲酒量,飲酒からの時間経過,言語,歩行能力(10m の歩行),直立能力(10秒間の直立),酒臭, 顔色及び目の状態等を観察した警察官作成の鑑識カードの内容などにより判断される。

福岡高判昭和47年1月26日

道路交通法第一一七条の二第一号にいわゆる正常な運転とは、道路における危険を防止し、交通の安全と円滑を図るため運転者に課せられている注意義務を十分に守ることができる身体的または精神的状態下で行なう運転をいうものと解するのを相当とするであろうが、右概念が比較的抽象的なものであつて一定の基準を設けることが困難であること、その判断に当つたややもすれば取締官の主観的な恣意が入り込む余地があること、ならびに同法条のほかに同法第一一九条第一項第七号の二において酒気帯び運転が処罰されることになつていることなどの 旨に照らせば、同法第一一七条の二第一号の適用については、特に具体的な運転において正常な運転でないと思われる徴表を認め得なかつた場合には、慎重な態度が必要であるものと考えられる。

なお,危険運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法2条1号,改正前刑法208条の2第1項)においても,「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」にあることが構成要件となっている。

この危険運転致死傷罪について,最高裁(最判平成23年10月31日)は以下のように定義し,判断要素を提示している。

「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」とは,アルコールの影響により道路交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態をいい,事故の態様のほか,事故前の飲酒量及び酩酊状況事故前の運転状況事故後の言動飲酒検知結果等を総合的に考慮して判断される。

道路交通法上の酒酔い運転と危険運転致死罪は,類似の状態を規定するもののその内容は若干異なる。

危険運転致死罪の方が,道路交通法よりも,その要件が厳しくなっている。

危険運転致死罪における「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」については,立案担当者による解説において,道路交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態をいい,酒酔い運転罪の「正常な運転ができないおそれのある状態」とは異なり,正常な運転ができない可能性では足りず,例えば,酒酔いの影響により前方の注視が困難となったり,ハンドル,ブレーキ等の操作の時期やその加減について,これを意図したとおりに行うことが困難になるなど,現実に道路交通の状況等に応じた運 転操作を行うことが困難な心身の状態にあることが必要であるとされている(判タ最判平成23年10月31日,井上宏ほか「刑法の一部を改正する法律の解説」曹時54巻4号67頁)。

自動車運転死傷行為処罰法こと 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律

(危険運転致死傷)
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為

最判平成23年10月31日

刑法208条の2第1項前段の「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」とは,アルコールの影響により道路交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態をいうと解されるが,アルコールの影響により前方を注視してそこにある危険を的確に把握して対処することができない状態も,これに当たるというべきである。

山口達也氏は酒気帯び運転?酒酔い運転?

ニュース報道によれば,山口達也さんは酒気帯び運転で逮捕されたとのこと。

しかし,前述のように,酒酔い運転は,アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態をいう。

具体的には,道路における危険を防止し、交通の安全と円滑を図るため運転者に課せられている注意義務を十分に守ることができる身体的または精神的状態下で行なう運転ができないおそれがある状態だ。

山口達也さんは,呼気1リットルあたりおよそ0.7ミリグラムのアルコールが検出された。酒気帯び運転となる最低限度のアルコール濃度は,1リットルあたりおよそ0.15ミリグラムだ。

すなわち,山口達也さんは酒気帯び運転の基準の4.6倍のアルコールが検知されているのだ。

しかも,事故を起こす前には蛇行運転をしており,事故後の警察官とのやり取りの際にも地べたに座っていたとのことからすれば,山口達也さんの状態は,アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態といえる可能性が高い。

よって,起訴・略式起訴などされる際には,酒酔い運転として処罰される可能性がある。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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