今回の記事では、デリヘルで本番強要をして強制性交致傷罪(旧強姦致傷際)で逮捕された実際の事例を紹介しつつ、風俗での本番強要と強制性交罪・強制性交致傷罪での逮捕について解説していきます。
デリヘル等の風俗店では、風俗トラブル(キャストと客のトラブル)が発生します。
風俗トラブルの中で多いのが、盗撮トラブルと本番トラブルです。
風俗トラブル全般については、以下の記事をご参照ください。
リンク:風俗トラブルについて
盗撮トラブルは、デリヘル等の風俗店でのプレイ中に客が盗撮をしてしまう事件です。近年のスマホカメラの高性能化や小型カメラの普及などから盗撮事件が増えてきています。
実際に風俗での盗撮犯の逮捕事例も多いです。
今回の記事で取り上げる本番トラブルです。
目次
風俗店での本番行為の禁止と売春防止法
デリヘル等の風俗店では、いわゆる本番行為(性行為)は禁止されています。
売春防止法が売春を禁止し、売春を助長する行為に罰則を設けているからです。風俗店としても、本番行為を容認すると、売春の周旋などで逮捕されてしまう可能性があり、本番行為を禁じているお店が多いです。
売春防止法
(定義)
第二条 この法律で「売春」とは、対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交することをいう。(売春の禁止)
第三条 何人も、売春をし、又はその相手方となつてはならない。(周旋等)
第六条 売春の周旋をした者は、二年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
2 売春の周旋をする目的で、次の各号の一に該当する行為をした者の処罰も、前項と同様とする。
一 人を売春の相手方となるように勧誘すること。
二 売春の相手方となるように勧誘するため、道路その他公共の場所で、人の身辺に立ちふさがり、又はつきまとうこと。
三 広告その他これに類似する方法により人を売春の相手方となるように誘引すること。
このように、法律上売春が禁じられており、風俗店での本番も禁じられております。
しかし、風俗店で本番をしたがる客は後を絶たず、本番トラブルはとても多い風俗トラブルです。
本番行為についてキャストが同意をしていたような場合には、売春に該当しますが、この場合には売春行為をした客には罰則がなく、客側が売春防止法違反で逮捕されることありません。
他方で、本番行為についてキャストの同意がない本番強要の場合には、客は、強制性交罪や強制性交致傷罪で逮捕され、有罪になる可能性があります。
以下では、デリヘルで本番強要をして強制性交致傷罪で逮捕されたニュース事例を見てみましょう。
デリヘル本番強要の逮捕ニュース
デリヘル女性に性的暴行でけが、容疑で男逮捕 唐津署
東松浦郡玄海町内の住宅で20代女性に性的暴行を加えてけがをさせたとして、唐津署は5日、強制性交致傷の疑いで、自称福岡県春日市大土居2丁目、建設作業員の男(64)を逮捕した。
逮捕容疑は4日午前0時55分ごろから同1時55分ごろまでの間、男が所有する東松浦郡玄海町今村の住宅で、デリバリーヘルスの20代女性の両腕を押さえ付けるなどして性的暴行を加え、左腕などに約10日間のけがを負わせた疑い。「腕をつかんだだけで、けがをさせるつもりはなかった」と一部否認している。
同署によると、女性の送迎を務める男性から同署に通報があった。2人は初対面だったという。
2021,5,6 佐賀新聞LiVE
https://www.saga-s.co.jp/articles/-/671843
本件ニュースでは、自宅にデリヘルを呼んだ際に、本番強要をして逮捕されています。
本番強要の際に、両腕を押さえつける暴行を加えて、その際に怪我をさせてしまっているのです。
この怪我をさせてしまったという点が、強制性交の「致傷」ということになっております。
強制性交致傷罪は非常に思い罪です。
客である本番強要犯は、「けがをさせるつもりはなかった」と一部否認をしているようだ。このような否認は理屈として成り立つのだろうか?
強制性交罪と強制性交致傷罪について、以下、解説します。
風俗の本番と強制性交罪
強制性交等罪は、「強姦罪」として規定されていたものが改正されたものです。
強姦罪では男性からの女性に対する強制的な性交のみが対象とされていましたが、男性も被害者となる点、性交のみならず、肛門性交と口腔性交も対象とした点が改正されました。
また、それまで親告罪であったものが非親告罪となりました。
そして、法定刑が3年以上の有期懲役から5年以上の有期懲役へと改正され、重くなりました。
(強制性交等)
刑法第百七十七条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛こう門性交又は口腔くう性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
風俗での本番強要との関係で言えば、「暴行」の内容が問題になる。
強制性交罪における「暴行」とは、被害者の反抗を著しく困難にする程度の不法な有形力の行使のことをいいます。
その程度については、暴行態様のほか、時間的・場所的状況、被害者の年齢や精神状態等の諸般の事情を考慮して客観的に判断されることになります。
要するに、被害者である風俗店のキャストが、本番強要に対して抵抗して拒否することが著しく困難な程度の暴行を加えるような場合に、強制性交罪の「暴行」に該当することになります。
今回のニュースの事例では、被害者の両腕を押さえつけているので、反抗を著しく困難にする程度の「暴行」があったといえるでしょう。
風俗での本番と強制性交致傷罪
本件ニュースでは、強制性交致傷罪で逮捕されています。
強制性交致傷罪は、強制性交(本番強要)の際に被害者に怪我をさせる罪です。
(強制わいせつ等致死傷)
刑法第百八十一条 2 第百七十七条、第百七十八条第二項若しくは第百七十九条第二項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は六年以上の懲役に処する。
強制性交致傷罪が成立するには、強制性交と傷害の結果との間に因果関係が必要です。
この因果関係について、判例は広く認める傾向にあります。
具体的には、以下のような場合に因果関係を認めています。
- 強制性交自体から傷害結果が発生した場合(処女膜裂傷など)
- 強制性交の手段である暴行・脅迫から生じた場合(今回のニュースのように腕を押さえつけた際の腕の怪我など)
- 強制性交のに随伴して又はそれを実行する際に生じた結果
強制性交の場から逃走するために暴行を加え、傷害の結果が発生した場合においても、随伴するものとして因果関係を認めています。
傷害結果に対する故意・過失については、判例はこれを不要と解釈しています。
そのため、ニュースでは、「けがをさせるつもりはなかった」と一部否認していると報じられておりますが、判例上、怪我をさせることについての故意は要求されておりませんので、怪我をさせるつもりはなかったとしても強制性交致傷罪は成立します。
強制性交致傷罪の量刑
強制性交致傷罪の法定刑は、無期又は六年以上の懲役と重罪です。
そもそも、致傷の結果が無い強制性交罪の法定刑も改正で重くなり、執行猶予がつく可能性が低くなってきています。
実際の事例でも、実刑判決が出ているケースが多いです。
強制性交致傷罪となると、さらに重い罪ですから、実刑となり、執行猶予が付かない可能性がより高まります。
法務省刑事局のデータにおいても、令和元年の強制性交致傷罪の量刑は、7年以下の懲役刑が一番多く、次いで10年以下、15年以下となっております。
風俗本番強要と逮捕事例のまとめ
以上で見てきたように、風俗での本番強要も強制性交罪や強制性交致傷罪に該当する場合があります。
その場合には逮捕されるリスクがあり、実際に、逮捕されている事例もあります。
そして、これらの罪は、逮捕・起訴されてしまった場合には、執行猶予がつく可能性が低く、刑務所にて数年間過ごさなければならない重罪です。
「風俗で本番をしただけ」と安易に考えていると大変なことになってしまいます。
一方で、ご自身で対応するとなると、相手方の風俗店から不当な金額を請求されたり、脅されてしまったりすることもあります。
そのため、早期に弁護士に相談して、示談交渉等適切な対応をしていく必要があるでしょう。
その他の風俗トラブルの逮捕事例、逮捕を避けるための対処法については、以下の記事もご参照ください。