元交際相手の裸や性行為時の画像や動画などをインターネット上に流出させる「リベンジポルノ」に関するトラブルが増えてきている。
警察庁によると,2019年に全国の警察に寄せられた被害相談は1479件(前年比9.8%増)で,2015年以降で最多の件数だったとのこと。
リベンジポルノの被害相談内容の内訳は以下のとおりだ。
「画像を公表する、と脅された」が584件で最も多い。
「画像を所持されている・撮影された」が494件
「画像を公表された」が272件だ。
本記事では,警察庁の相談内容件数でも最も多い,リベンジポルノと脅迫・恐喝に関する事例について紹介する。
具体的には,リベンジポルノの被害にあい,リベンジポルノ動画を流出させられたくなければ金を払えと恐喝された事案について,弁護士が警告文の送付,刑事告訴をすることにより相手が逮捕され,無事に解決をした成功事例だ。
その他のリベンジポルノ被害対策や相談先については、以下のサイトも参照して欲しい。
リベンジポルノで恐喝被害の相談概要
相談者は大阪府在住の20代女性だ。
大学へは実家が遠かったこともあり奈良県で一人暮らししていた。
大学生活2年目ともなると,相談者の周りには多くの友人がいた。
学費や生活費などは親の仕送りなどで賄っていたが,サークルでの飲み会や友人との旅行の出費を考えると足りない。親に頼むこともできるが、親のお金を自らの娯楽に使うのを躊躇っていた相談者は,何とか自らで稼げないかと考えた。
そこでネット上にて短い時間で簡単に稼げるとしてパパ活が紹介されているブログを発見した。
パパ活サイトをみてみると,女性の会員登録料金が無料であった気軽さや,登録時に身分証明されているので安心して試せると相談者は,サイトに掲載されていたパパ活アプリを利用してみることに。
特に男性の条件を決めていなかった相談者はしばらくプロフィール欄を眺めていると,相談者が通う大学で卒業したと紹介されていた男性を発見した。同じ大学ということもあり親近感が湧いたのか「何か縁があるのかも」とコンタクトを取ってみることにした。
相談者が同じ大学の後輩だと知ると「俺が学生の頃はね~」と男性は大学生だった頃を懐かしんでいる様子で思い出を語った。しばらくして男性からの好感を得られたのか「もしよければ会ってお話ししたい」とのメッセージが送られてきた。話していく中で男性を身近に感じられた安心感から「私でよければ」と承諾すると,会う予定を決めLINEのIDを交換した。
当日,大阪府内のとある駅前で待ち合わせし顔合わせを兼ねてお食事することに。
だが男性が予約を取っていなかったことや夕食時だったので,どこもかしこも1時間待ち。
すると男性は「奥まったところに行きつけの居酒屋があるんだけど,そこでもいいかな?」との提案に悩んでも仕方なかったのでついていくことに。
目的の居酒屋に到着すると,サクッと注文を終え早速談話が始まった。
打ち解けるのにそう時間はかからず,大学でのあるある話や思い出を語り合った。
何時間飲んでいたか覚えていないが,気づくと午後10時を回っていた。
相談者は「そろそろお開きにしますか」と席を立ち,男性とともに店の外に出ると足元がふらついた。
それに男性は見かねたのか「少しだけホテルで休憩していく?」と。
相談者はそんなつもりはなかったので最初は断ったが「じゃあさじゃあさ」とお小遣いが提示されると「今は彼氏いないし,お小遣いをくれるなら」と了承した。
ホテルに到着しシャワーを浴びずにベッドに飛び込んだ。
性行為中,しばらくすると男性が「撮らせてほしいんだけど…ダメかな?」と。
突然のことに理解が追い付かなかった相談者は,とりあえず理由を聞いてみると男性は「性欲が人一倍強く女性に肉体関係を求めすぎて嫌われた。何度も頼まなくて済むよう少しでもいいから,一人でする用に性行為の動画を撮らせてもらえないか」と。
戸惑ったが羽振りもよく,さらに大学のOBである男性の頼みということで,男性だけが利用する条件で撮影を許可した。
男性がカメラを起動している最中にも「絶対に動画をほかの人に見せないでね」と釘を刺した。
それからというものの男性から軽く見られたのか,会うたびに何度もハメ撮り前提の肉体関係を求められた。
そのことに相談者は飽き飽きしたのか,男性との連絡を無視することにした。
だが数日たっても,相談者には男性からの連絡が途絶えることはなかった。
さすがに直接何か言わないと解決しないと考え,男性からの電話に出ることにした。
すると男性は「何度も聞いて悪かった。もう一度会ってくれないか」と懇願されたが相談者は「もう関係を終わりにしたい。それに際して動画も消してほしい」と伝えた。
すると「せっかく優しくしてやったのに!お前のせいで気分を害したわ!」と優しい印象だった男性が豹変した。
思ってもみなかった反応に相談者は驚きつつも,男性をなだめた。
しかし男性の気持ちは収まらず「お前のことはもう知らん!どうしてもハメ撮り削除してほしかったら300万円支払え!さもなくば動画をネット上にバラまくからな!」と脅迫をしてきた。さすがにまずいと危機を察した相談者は「私が悪かったから!」とその場をしのぎ一旦連絡を終えた。
このとき,相談者は男性に性行為の動画を撮らせてしまったことをひどく後悔した。
このまま何かあるごとに盗撮動画が晒さすと脅され,関係がズルズル続くのはどうしても避けたかった。
解決方法を探るためスマホを手に取り調べてみると,リベンジポルノで悩んでいる相談事例が多く記載されていた。
具体的には,相談者の家族や職場に性行為の動画を送るぞと脅し,動画を削除するためや関係を終える手切れ金として高額な請求,最悪の場合xvideos,FC2動画,PornHubやTokyomotionなどのネット上にあるアダルトサイトやtwitter,InstagramなどのSNSに流出してしまい拡散し,削除に追われる日々など悲惨な結果も記載されていた。
相談者は,このまま男性と関係を続けたとしても動画が流出される可能性はゼロにならないのではと考えた。
自らに責任があるとはいえ,すぐにでも対応してリベンジポルノを防ぎたいと当法律事務所の大阪オフィスの弁護士にご相談に来られました。
リベンジポルノの違法性と弁護士による解決方法
まず,男性が撮影した動画について,相談者(被写体)が許可してしまっているため,迷惑防止条例の盗撮行為には該当しない。
次に,「性行為の動画を削除してほしければ300万円支払え!さもなくばネット上に動画をバラまくぞ!」と伝えたことは恐喝罪に該当し得る。
人の名誉に対する害悪の告知であって,人を畏怖させるに足りる害悪の告知により畏怖させて,金銭を喝取しようとしているからだ。
なお,元交際相手の女性に対して,撮影したわいせつな動画を送りつけて,「動画はばらまきます」と脅迫をした男の逮捕事例については,以下の記事を参照して欲しい。この男のケースでは,本件とは異なり金銭を要求していなかったため恐喝罪ではなく,脅迫罪での逮捕となった。
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=140AC0000000045#1067
刑法(恐喝)
第二百四十九条 人を恐喝して財物を交付させた者は,十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により,財産上不法の利益を得,又は他人にこれを得させた者も,同項と同様とする。
また,撮られた動画は,撮影に関して許可であり,ネット上への流出や第三者に対しての提供は含まれていない。
したがって,万一,相手が性行為の動画を公表した場合には,リベンジポルノ法(私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律)が規定する男性が動画を第三者に提供するような行為をした場合,私事性的画像記録の提供等での公表罪又は公表目的提供罪に該当し得ると。
本件では,第三者が撮影対象者を特定できる性的記録物の提供した者となっており,実際の動画は相談者の顔が映っているので個人が特定できるものだった。
リベンジポルノ法(私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律)
(私事性的画像記録提供等)
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=426AC1000000126#11
第三条 第三者が撮影対象者を特定することができる方法で,電気通信回線を通じて私事性的画像記録を不特定又は多数の者に提供した者は,三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2 前項の方法で,私事性的画像記録物を不特定若しくは多数の者に提供し,又は公然と陳列した者も,同項と同様とする。
3 前二項の行為をさせる目的で,電気通信回線を通じて私事性的画像記録を提供し,又は私事性的画像記録物を提供した者は,一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
4 前三項の罪は,告訴がなければ公訴を提起することができない。
5 第一項から第三項までの罪は,刑法(明治四十年法律第四十五号)第三条の例に従う。
なお、リベンジポルノ防止法の構成要件や判例等の詳細については、以下の記事をご参照ください。
弁護士としては,本件の相手方男性の行為は恐喝罪に該当する違法行為であるし,性行為動画を流出させた場合には,リベンジポルノ防止法が規制する公表罪に該当する違法行為であると考えた。
そこで,弁護士から相談者に対して,男性に対して弁護士からの警告文を送付すること。合わせて警察に対して恐喝罪での刑事告訴をしていくことを提案した。
具体的には,動画を流出させる旨を伝えたうえで300万円を請求していることは恐喝に該当し得るす,万一流出させた場合にはリベンジポルノ防止法の公表罪に該当する違法行為であるから刑事告訴をするぞとの警告文を送付する。
また動画の削除を実施するよう依頼をした。
それでも削除に至らず,ましてや第三者に提供するようなことがあった場合は公表罪又は公表目的提供罪に該当し得るので刑事告訴等の法的措置を実施するとの警告だ。
もちろん,弁護士からの警告文により必ず動画流出が防げるわけではなく,警告文を出したとしても削除してくれないどころか逆上するリスクは残ってしまう。
ただ,何もしないとずるずると脅され続けることになってしまうため,リスクがあるとしても覚悟してしっかりと対応していくべきである。
また,弁護士は,相手が合理的に考えられる人や立場のある人であればあるほど,動画流出を防ぐ効果があると説明をした。
そこで警察に被害届・刑事告訴状を提出することも併せて提案した。警察と弁護士で連携をとって対策をとっていこうという方針で固まった。
相談者はリスクも含めた上記の内容を納得したようだ。
そのうえで,なるべくリスクを回避すべく,弁護士からの警告文の送付と同時期に,警察に被害届を提出して,脅迫・恐喝行為や動画の流出を防止したいとの意向だった。
方針としては,まず,弁護士からの警告文を送付するとともに,依頼者とともに警察署に同行し被害届・刑事告訴状を提出していくことになった。
最後に弁護士は,もし依頼者が男性の罪を追求し処罰を与えたい場合は,告訴状の作成などお手伝いできることを伝えました。
弁護士による恐喝犯への警告文の送付と被害届・刑事告訴
まず,弁護士は,相手方に対する警告文を作成した。相手方の行為が恐喝罪に該当する違法行為である旨,流出させた場合にはリベンジポルノ防止法違反になる旨などを記載し,動画を削除するよう求めた文書だ。
そして,弁護士が依頼者とともに警察に出向き窓口にて恐喝被害,リベンジポルノ防止法被害の相談をした。
警察相談の上,弁護士が作成をした告訴状を提出した。
なお,刑事告訴とは,被害者その他法律上告訴権がある者が検察官または司法警察員に対し,犯罪事実について犯人の処罰を求める旨の意思表示をすること(最判昭和26.7.12)をいう。
告訴は,犯人の処罰を求める意思表示であるという点で,被害届とは異なる。
刑事訴訟法
第二百三十条 犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができる。
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=323AC0000000131
しばらくすると,警察から連絡があった。なんと相手方の男性には類似した恐喝行為を起こした前科があるとのことだった。
警察に刑事告訴が受理され,警察による捜査が行われることになった。
その後,警察から相手方の男性を逮捕したとの連絡,性行為の動画も証拠として確保したのちに削除させたとのことで,本件は無事に解決した。
本件は無事に解決をしたが,万一,リベンジポルノ動画が流出してしまった際の削除方法等については,以下の記事を参照して欲しい。
また、リベンジポルノの損害賠償請求についての詳細は、以下の記事を参照してほしい。