給料ファクタリング「ヤミ金の再来」 被害急増、裁判も

ニュース内容

給料の前払いをうたい文句に事実上、現金を貸し付ける悪質な業者が横行している。法外な支払いを請求されて困った利用者の訴えが昨年以降、目立ち始めた。業者は企業向けの資金調達手法になぞらえて「給料ファクタリング」と称しているが、実態はヤミ金だとの指摘もあり、業者と利用者のトラブルが裁判に発展する例も出てきた。

仕組みはこうだ。利用者は一定額の給料を受け取る権利(債権)を給料日前に額面より安く業者に売り、現金を入手。給料の受け取り後、額面通りの現金を支払って債権を買い戻す。実質的には、安くした分を利子にして業者から金を借りているのと同じ構図だ。差額は業者の利益となり、年利換算で1千%近くに及ぶケースもあるという。

東京地裁で1月21日、都内の給料ファクタリング業者が不払いの利用者を訴えた民事裁判があり、業態の違法性が浮かび上がった。

裁判長は業者の「支配人」を務める男性に対し、「法律上、会社に請求できない債権を譲り受け、利用者に請求する根拠は」とただした。労働基準法では、給料は雇用主が労働者に直接支払うと定めており、第三者である業者に支払うことはできない。業者はこれを逆手にとり、利用者から取り立てている形だ。

支配人が答えに窮していると、裁判長は「借りたものを返せといっているのと同じでは」「債務者は(給料を支払う)会社でしょう」「合法かどうかには関心がないんですか」などとたたみかけた。

支配人は「給料ファクタリングはそういう仕組みでやっている」「債権者として回収を行うのは当然」などと返したが、最後は答えに詰まり、裁判は結審した。

企業向けのファクタリング業者らで作る「日本ファクタリング業協会」には、昨年5月ごろから個人からの被害相談が入り始めた。「真夜中に自宅に取り立てが来た」「勤務先にまで電話がかかってきた」「携帯電話の電池がなくなるまで着信が続いた」……。相談件数は10月までに約200件にのぼり、その後も1日に3~5件はある。

業者側は給料ファクタリングは貸金ではなく債権の売買だと主張するが、この問題に詳しい山川幸生弁護士(東京弁護士会)は「ヤミ金の再来だ」と話す。ヤミ金への規制が厳しくなり、抜け道としてファクタリングに目をつけた可能性があると指摘する。貸金だとすれば貸金業法や出資法などに抵触するといい、「まずは金融庁がはっきりと見解を示してほしい」と話す。(新屋絵理)

2020年2月13日 16時00分 朝日新聞

弁護士からのコメント

今回のニュースは、給料ファクタリングの被害が急増しているというものです。

給料ファクタリングの詳細については、下記ページに記載しておりますのでご参照ください。

2020年5月11日追記

給料ファクタリングについて、代表弁護士である若林翔が動画でも解説しておりますので、よければぜひご覧ください。

そして、今回はニュースにある「真夜中に自宅に取り立てが来た」「勤務先にまで電話がかかってきた」「携帯電話の電池がなくなるまで着信が続いた」との被害相談についてコメントしたいと思います。

現状では、たしかに債権者は債権(一定額の給料を受け取る権利)を有している以上、支払期限を過ぎれば債務者に対し債務(額面通りの現金)を支払うよう請求することができるのが原則です。
*今回の裁判で出る判決や金融庁が見解を示した場合の内容次第によって変わる可能性があります

しかし、その請求方法も社会通念上一般に認容すべきものと認められる程度を逸脱すると、恐喝罪や脅迫罪となることがあります。
簡単にいうと、常識的に見て受け入れられる程度を超える請求方法は恐喝罪や脅迫罪になりうるということです。

なお、恐喝罪や脅迫罪における「脅迫」は、口頭や文書、メールなどの明示的な言語だけでなく、動作や態度などでもよいとされています。

今回のニュースでいくと、まず「真夜中に自宅に取り立てが来た」とあります。

電話やメールしてもつながらないなど債務者と連絡がつかない事情があれば、自宅に取り立てに行くこと自体は常識的に受け入れられる程度でしょう。
ただし、それも一般に人が起きている時間帯であるべきです。

真夜中に自宅に人が訪ねてくることは通常あり得ないことから、たいていの人は恐怖を覚えるといえます。
ですので、真夜中に自宅に取り立てに行くことは、常識的に見て受け入れられる程度を超え恐喝罪や脅迫罪になる可能性があるでしょう。

次に「勤務先にまで電話がかかってきた」とあります。

こちらも債務者に電話やメールしてもつながらないなど連絡がつかない事情があれば、勤務先に電話すること自体は常識的に受け入れられる程度でしょう。
ただし、これも債務者の存否を確認するまでといえます。

たとえば、毎日複数回電話したり、債務を返済していないことを電話に出た勤務先の人に話したりすれば、たいていの人は恐怖を感じます。
それゆえ上記のような行為をとれば、常識的に見て受け入れられる程度を超え恐喝罪や脅迫罪になる可能性があります。

最後に「携帯電話の電池がなくなるまで着信が続いた」とあります。

こちらもこまでの着信、おそらく数十回、数百回レベルの電話があれば、恐怖におびえることでしょう。
したがって、常識的に見て受け入れられる程度を超え恐喝罪や脅迫罪になる可能性があるといえます。

以上のように、今回の被害相談はいずれも恐喝罪や脅迫罪に該当し得ます。
ですので、同様の状況にある方はニュースにある「日本ファクタリング業協会」のほか、警察や弁護士に相談すべきでしょう。

最後に、「給料ファクタリング」をはじめ債権の取り立てにおいて恐喝被害や脅迫被害に遭っていると思った際には、自力で解決しようとせず遠慮なく当事務所にご相談ください。

Bio

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。
男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。