恐喝罪とは
(恐喝)
刑法
第二百四十九条 人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
(未遂罪)
第二百五十条 この章の罪の未遂は、罰する。
「恐喝罪」とは、上記条文のとおり、人を恐喝して、財物を交付させ、または財産上不法の利益を得、もしくは他人に得させる罪のことをいい、刑罰としては、10年以下の懲役に処せられ、未遂であっても罰せられます。
恐喝罪が成立するには、財産を交付させる手段としての「恐喝」と、恐喝によって「畏怖」した相手方の「交付行為」による「財産の移転」が必要とされています。
恐喝罪の内容
1.恐喝(行為)・畏怖
恐喝とは、財産を交付させる手段としての暴行・脅迫によって、被害者の反抗を抑圧するに至らない程度に畏怖させることをいいます。
そして暴行とは、人に向けられた有形力の行使のことをいいます。
一方,脅迫については、相手を畏怖させるに足る害悪の告知であることが必要です。
もっとも、告知する害悪の内容は違法であることは要しません。。
たとえば、「告訴するぞ」という適法な事実の告知であっても脅迫に該当するとした判例があります。
また、告知される害悪の相手方は、脅迫罪と異なり、被害者およびその親族に限られず、恋人や友人その他の第三者も含まれるとされています。
被害者の反抗を抑圧するに至らない程度とされているのは、もはや犯行を抑圧してしまっていれば恐喝罪ではなく、より刑罰の重い強盗罪になるからです。
畏怖とは、おそれ、おののくことです。
2.交付行為
恐喝罪の成立には、恐喝の手段により被害者を畏怖させた結果として、財産を相手方に移転させる被害者の意思に基づく交付行為が必要とされています。
それゆえ、恐喝が行われたが被害者が畏怖せず別の理由から財産を交付した場合は、恐喝未遂罪となります。
なお交付とは、物を他人に渡すことです。
3.財産の移転
恐喝罪は、交付行為によって財物・財産上の利益が移転したことによって既遂となります。
この点、財産が移転したとしても、自己の正当な権利を実現するために恐喝の手段を使用した場合、恐喝罪が成立かどうかという問題があります。
具体的には、
①他人が不法に占有している自己の所有物を取り返す場合
②正当な債権を有する者が、恐喝手段によって弁済を受ける場合
の2つがあります。
以下、順に説明します。
①の例は、友人に自動車を貸していたところ、返却期限を過ぎても返さないので、自ら取り返した場合です。
結論からいうと、他人が不法に占有していたとしても恐喝の手段を使用した場合には、恐喝罪を成立させるのが裁判所のスタンスです。
理由としては、要約すると「自己の財物であっても、他人が占有するものは他人の財物とみなす」との規定が刑法242条(厳密には、刑法251条で準用されて恐喝罪にも242条が適用される)にあり、その占有を広く捉えて、違法な占有であっても含まれると考えられているからです。
②の例は、返済期限を過ぎでも返済しない債務者に対し、お金を貸している債権者が恐喝を用いて返済を受ける場合です。こちらも結論からいうと、たとえ請求できる正当な権利を有していたとしても恐喝の手段を使用した場合には、恐喝罪を成立させるのが裁判所のスタンスです。恐喝の手段を使用した場合は、もはや正当な権利行使の範囲を逸脱していると言わざるを得ないからです。
解決のためにやってはいけないこと
自力で解決を図る行為
これは
でも述べましたが、推奨できません。
被害者のなかには、誰にも知られたくないあまり、家族や友人などに相談せず頼ることもしないで、相手の要求を受け入れ自力で解決しようとする方がいます。
気持ちはわかりますが、少し想像してみてください。
相手の要求どおり金品を渡してしまうことが解決になるのか、を。
被害者としては金品の受け渡しの際に、当然それと引き換えに握られている証拠を要求するでしょう。
しかし、加害者が素直に渡してくれるでしょうか?
残念ながら、たいていの加害者は素直に渡すことは選びません。
たとえば金品を引き渡すのが先だと言われ、脅されているという立場が弱いがゆえに渡してしまうと、証拠を受け取る話は反故にされることがよくあります。
また、証拠を渡してくれたとしても、加害者が事前にコピーを作成していることもままあります。
なぜなら多くの加害者は、一度でも金品を渡した被害者に対し、いわゆるカモとして取れるだけ取ってやろうと考えられるからです。
ですので金品を渡したとしても、再度恐喝してくることは大いにありえます。
それどころか、「よほどバラされたくないんだな」と余計に図に乗ります。
結果として、解決どころか逆に自身の立場がより弱くなるという状況の悪化に陥ります。
このように要求どおりにして、まず解決するケースはないと思っておかなければばりません。
くわえて、加害者は恐喝をしてくるような輩ですので、交渉の場に複数人連れてくる可能性もありますし、車の中のような密閉空間や人目につきにくい場所を指定されることも多くあります。
結果、状況によっては、恐喝という財産に対する被害だけでなく、身体・生命にまで危険を及ぼしかねません。
以上のように、自力で解決を図る行為は全く推奨できません。
そこで、恐喝被害に対する姿勢・対応について以下説明いたします。
恐喝被害に対する姿勢
恐喝の加害者は、握った弱みを使って困らせたいのでなく畏怖する心理をついて金品など利益を得たいのです。
つまり、金品を得ることができないとわかると脅迫そのものをやめる可能性は大いにあります。
続けても意味がないですし、刑法での処罰対象になるなどリスクが大きいからです。
ですので、恐喝被害に対する姿勢は
加害者に「労力を使うのは無駄だな・リスクが高いな」と思わせることが大切です
そのためには、弱みに屈しない毅然とした態度による対応が必要になります。
残念ながら、恐喝の加害者は
「こいつからなら金を取れそうだ」「気が弱そうだから、バラされるのを恐れて警察や弁護士には相談しないだろう」
という相手を軽んじる心理でいます。
加害者自身も恐喝罪で刑事事件化するかもしれないというリスクがあるにもかかわらず、そのリスクはまずないだろうという相手だと思われているのです。
自分は弱みを握っている強者で、安全地帯にいると高を括っているのです。
ですので、「相手にそうではないぞ」という姿勢を見せることは重要です。
では、その姿勢を相手に対してどのようにみせたらいいのでしょうか?
恐喝被害への対応
1.自身の落ち度はきちんと反省する
恐喝被害は、自身に何ら非がないような例外(※)を除き、被害にあって困る理由は自身に何かしらのやましさや落ち度があることが事実だからです。
まず、そのことを真摯に受け止めて反省してください。
それが解決への第一歩です。
その上で、自身の落ち度のことはいったん棚に上げ、恐喝は犯罪なのだから屈する必要はないと理解しましょう。
決して、パニックになって自力解決など不用意な行動は避けてください。
※カツラであるといったことや女装が趣味であることなどは、基本的な心理として人に知られたくないことです。
しかし、カツラであることも女装が趣味であることも、何ら自分に非があることではありません。
また他にも、突然カツアゲにあうといったことも自身に非がない、例外に該当する恐喝の1つです。
2.早急に弁護士に相談する
加害者が弱みの証拠を握っていることをアナタが知ったということは、それを示すために、何らかのコンタクトがあったはずです。
基本的には、この段階で早急に弁護士に相談することを推奨します。
早い段階で相談すれば、どのような証拠が必要であるか、またどのような行動をすればいいか、などについて適切な助言を行うことが弁護士は可能だからです。
注意点としては、法律事務所・弁護士選びは慎重に行いましょう。
恐喝被害の解決のための交渉は相応の経験と知識が必要です。
弁護士なら誰でもできるわけではないことを理解しておいてください。
グラディアトル法律事務所は、恐喝被害の分野に精通した経験豊富な弁護士が在籍していますので、ご安心ください。
3.証拠を揃える
これに関しては弁護士に相談した段階で必ず指示があります。
相談前であっても、恐喝の証拠になりそうなものは全て残しておきましょう。
相談後は、弁護士の指示に従うのがいちばんです。
例を挙げると
送られてきた動画や画像、メール、SNSやメッセージアプリ等のやり取りの履歴など文面として証拠になるもの。
また電話などの録音した音声データなども証拠となります。
解決に向けての動き
最も理想的な解決とは
弱みの内容をバラされず要求を拒否した上で、『恐喝をやめさせ』なおかつ『証拠を完全に回収』
することです。
まず脅迫・恐喝をやめさせるために、加害者に対し当該行為は恐喝罪に該当し、刑事事件化のリスクを通告します。
加害者は被害者が言いなりになるだろうと高を括っているから、恐喝を行っています。
しかし、法の専門家である弁護士から通告することで、たいていの加害者は刑事事件化するリスクを理解します。
そして、結果として恐喝をやめることになります。
加害者自身も守るべき社会的評価がありますし、刑事事件化することは金品の対価としてのリスクが大きいからです。
一方、脅迫・恐喝被害を解決するためにでも触れましたが、証拠を完全に回収・抹消することは不可能です。
証拠が存在しなくなっているかを確認することができないからです。
もちろん、可能な限り弁護士は弱みの証拠を回収するように努めます。
しかしながら、複製などの可能性を考慮すると、証拠を持たれている状態を解消するよりも、証拠の無力化に重点をおいた対策を取ることになります。
具体的には、今までの行為を謝罪して今後恐喝を行わないのであれば刑事事件化しないという合意書の締結に動きます。
上述のとおり、刑事事件化することは大きなリスクですので、加害者にとってそのリスクをなくすことには十分意味があります。
そこで、リスクをなくす条件として、謝罪や今後恐喝しない条項を合意書に入れるよう要求します。
その際、証拠に対する秘密保持・口外禁止などもあわせて条項に追加します。
くわえて、それらの条項に違反すると違約金が発生するとの条項も用意します。
このような合意書を締結することで、再度恐喝することはもちろん、証拠を無力化するようにします。
以上、弁護士が動くことによって、基本的に加害者は同じことを繰り返さず、依頼者は平穏な生活を取り戻せるようになります。
ただし、恐喝をやめることも合意書を締結することも、最終的には加害者に委ねられています。
ですので、通告しても恐喝をやめない場合は、弁護士は警察と連携し、犯罪として逮捕・起訴してもらうよう動くことになります。
また、合意書の締結を行わない加害者には、交渉中に同内容の録音を行ったり、依頼者に連絡させないことで、依頼者が平穏な生活を過ごせるようにします。
最後に
恐喝被害の場合、加害者は相手の弱みを握っているからと強者の気持ちでいますが、実は加害者自身も恐喝という犯罪行為を行っているという弱みがあります。
不思議なもので、恐喝加害者はそのことをわかっているようでわかっていないのです。
こういった時に弁護士が介入することで、こちらの本気度が伝わり穏便な解決にすすみます。
警察に捜査してもらう、というのも恐喝被害を解決するための1つの手段ではありますが、その前に弁護士に相談することで様々な解決法の提案を受けることができます。